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大河内健志短編集

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記事一覧

短編小説「行く当てのない旅に出てしまったボク」

耳鳴りがするほどの静寂。 何も聞こえない。 吸い込まれるような暗闇。 もう何も見えない。…

大河内健志
2時間前
1

短編小説「目を閉じて広がる景色」

遠くで若い女性の引き裂くような叫び声がした。 全身に鉄の鎧をまとった大男がベッドの周りを…

9

連作短編小説「雪ふる京のうつろい」『白木の棺』

帰りが遅そうなるというてはりましたが、主人はまだ帰ってきはりません。 夕方から、雲行きが…

大河内健志
3か月前
8

短編小説『流氷の鳴き声』

彼女がさっき言った「自由」、どういうことなのだろう。 確かに、彼女は札幌に出てきて「自由…

31

私の投稿スタイルについて

2020年4月より、NOTEに投稿をはじめてから、2年余り経ちました。 現在までに340作品を投稿し…

36

今すぐ、会いに行きます(小説『天国へ届け、この歌を』より)

「香田さん、ちょっと」 青山部長に呼ばれた。 別室に来るように言われた。いつもは柔和な表…

4

心は、あの頃のままなのに(小説『天国へ届け、この歌を』より)

香田美月が、このマンションに来たという痕跡を全て消し去った。 土曜日に、単身赴任をしている私のところに妻の美由紀が来ることになっているからだ。 まさか、自分の娘ほど年の離れた女と浮気をしているとは、思いもつかないだろう。 しかし、感の鋭い美由紀のことだ。念に入りに証拠を消し去った。 その時、あることに気付いた。 私の中で、若い香田美月の存在が大きくなるにつれて、妻の美由紀の存在も大きくなり始めてきていることだ。 反比例するはずの関係が、明らかに正比例している。 若い頃、まだ結

私の生き様(小説『仮面の告白 第二章』より)

私は、皆があっと驚くような馬鹿げたことしてみたかっただけなのだ。 世間が、どんなに頭をひ…

6

はじめての音楽フェスでボーカルが急に歌えなくなる(小説『天国へ届け、この歌を』よ…

ワタシたちは、現役高校生の青春パンクバンドとして、人気が出てきました。色々なライブにも、…

9

嵐のあとに(小説『天国へ届け、この歌を』より)

心地よい寝息が聞こえる。 このまま余韻に浸りたい。 眠っている美月に降り注ぐ月の光を眺め…

17

武蔵の微笑み(時代小説『宮本武蔵はこう戦った』より)

武蔵は思い悩んでいたのだった。 小次郎に勝てるという自信がなかった。 今まで数々の試合を…

7

たそがれ(『天国へ届け、この歌を』より)

帰りの地下鉄は、混み合う。 特に淀屋橋から梅田方面に行こうとすると、京阪の乗り換え等で降…

2

短篇『光り輝く大切なもの』

「どうしても出来ないのやったら、せんでもかまへん。その代わり、この会社はもう終わりや。80…

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あの人の思い出と現実 (『夕暮れ前のメヌエット』より)

ポケットの中に手を入れて携帯電話を取り出そうとした時、田中の家族は小津さんであることを改めて認識した。 救急隊員がいきなり、小津さんに今の状態を告げたら、小津さんはどう思うだろう。 自分が側にいながら、それを傍観するには忍びないと思った。 「良かったら、私が連絡を取りましょうか?」 生死の境にいて救急車で搬送中の田中の前で小津さん電話するのは、何かしらの罪悪感がある。 掛けるが、呼び出し音がなるだけで、なかなか出てくれない。 また、大きく車体が揺れた。 この振動