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OKOPEOPLE - お香とわたしの物語

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OKOCROSSING が運営する、香りにまつわる「わたしの物語」を編み集めるプロジェクトです。https://oko-crossing.net/okolife
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#匂い

オープン・フェア・スロー──お香と社会の3つの「隙間」

オープン・フェア・スロー──お香と社会の3つの「隙間」

こんにちは、お香の交差点OKOCROSSINGを運営している麻布 香雅堂代表の山田です。

お香をはじめとする和のかおりの専門店・香雅堂を手伝い始めておよそ10年が経ちました。思うところがあって初めてこのような文章を書くに至っています。みなさまにあまり馴染みのないと思われるお香業界の今をさまざまな観点で紹介しながら、お香の未来について考えていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

香木・香

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「泥の香」 ~ 蟲たちの春

「泥の香」 ~ 蟲たちの春

週末に買った鉢の植替えをしていたら、部屋がヒヤシンスの花と土の匂いで春一杯になった。

年明け以来、フリージアや水仙、ミモザ、菜の花と“黄色”にばかり目が行っていたが、徐々にピンクやラヴェンダーの花に惹かれてゆくのは季節が進んだ証拠。イエローに始まり、梅~桃~桜と”ピンクの饗宴”へと展開するのが春の階(きざはし)なのだろう。こうして私の部屋の彩りもレンギョウの黄色からヒヤシンスの春色に変ってゆく。

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「Scents of Heaven」 ~ 今ここの記

「Scents of Heaven」 ~ 今ここの記

「三渓園、行ってみたいですね」
「それならぜひ「観蓮会」に。早朝のハスの開花は本当に見事、こんなに香り高い花だったのかと驚きますよ」

──真夏の日本庭園を思い浮かべながら、ワインバーのカウンターで今年最後のボトルを空ける。店に年末の挨拶をと半年ぶりに自粛を押してやって来たのだ。せめてもう一本頼んで店主を喜ばせたいところだが、22時の閉店時間が切ない。

三渓園は以前に一度行ったことがある。本牧に

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「梅仕事」 ~ 梅雨のおくりもの ~

「梅仕事」 ~ 梅雨のおくりもの ~

雨の匂いが近づき店頭に青梅が並んだ週末、今年も「梅シロップ」の仕込みをした。

真夏の外出から帰って飲む、冷たい水と氷で割った梅ジュースの美味しさ。細胞のひとつひとつが音をたてて喜ぶような命のご褒美を愉しみに、毎年いそいそと仕事にかかる。

俳句の季語にもある「“梅仕事”という言葉に馴染めない。」FBで見かけたそんな一言を意外に思ったのは、軽く腕まくりするような仕事始めと、終わった後の達成感をむし

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「梅雨明け」~ 父の残り香 ~

「梅雨明け」~ 父の残り香 ~

まもなく父の七回忌を迎える。
そのせいか、この頃ふとその人を思う時がある。

父が亡くなったことで、私はことさらに泣いた記憶がない。同じように母や妹の涙も見たことが無い。一度だけ妹が声を上げて泣いたが、それは直前の体調の変化に気付かなかったことへの”後悔”で、悲しさや寂しさの涙とは違う気がした。

いなくなった実感が乏しいからかも知れない。
「パパのことだから、その辺フラフラしてるわよ。お墓なんか

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「折詰」 ~ 小さな世界の清なる匂い ~

「折詰」 ~ 小さな世界の清なる匂い ~

ネットフリマの商品受け取りで、初めてその駅に降り立った。谷根千あたりの魅力的な匂いの街だが、待ち合わせまであまり時間はない。

大荷物を受け取ってしまえば、飲み屋を探して街をぶらつく楽しみもお預けだ。幸い、調べてあった鮨屋が駅から近くにあったので、評判の穴子寿司を”おみや”にすることにした。

六時台でカウンターに客の姿はなく、つけ台の前で初老の大将がひとり「いらっしゃい」と迎えてくれた。折詰を頼

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「路面」~ 闘場(アレーナ)の香気 ~

「路面」~ 闘場(アレーナ)の香気 ~

余白の匂い
香りを「聞く」と言い慣わす世界に迷い込んで十余年。日々漂う匂いの体験と思いの切れ端を綴る「はなで聞くはなし」 

前回の記事:「水際」 ~ 塩素と陽射しとちょっとハナミズ ~

昔雑誌で見かけたフレグランスの紹介が妙に印象に残った。
焼けたゴムの匂い、火打石の匂い、なめし革の匂い…

狭かった私の嗅覚の地平線をザクりと切り拓く新鮮な語彙達。
”…男たちの心に潜む闘争心に火をつける香りの

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「水際」 ~ 塩素と陽射しとちょっとハナミズ ~

「水際」 ~ 塩素と陽射しとちょっとハナミズ ~

余白の匂い
香りを「聞く」と言い慣わす世界に迷い込んで十余年。日々漂う匂いの体験と思いの切れ端を綴る「はなで聞くはなし」

土曜の朝のクリニックはすっきりと空いていて、窓の下の見慣れたアーケードも整然と開店の時間を待っている。待合室の棚から手に取ったコミックでは、高校生の帰宅部コンビが川沿いの階段に腰かけてとりとめのない会話で時間を潰している。やんちゃそうな方のモーレツな関西弁がページから溢れ出す

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