2022年の同人誌づくりの話

12月に入ったら今年作った同人誌の作業や装丁の記録をどこかに残したいなーとぼんやり思っていました。

何故かというと今年十余年ぶりに同人誌を作るにあたって、人様の装丁の記録や印刷所の作例紹介記事が非常に役に立ったからです。
私もどこかで用紙選びや印刷の色に迷ってる同人マンの役に立つため、画像が豊富な装丁記録を残そうと思った次第。


5月に出した本

  • 印刷所:金沢印刷

  • 表紙用紙:新シェルリンプレーン180kg

  • 本文用紙:コミック紙ホワイト

  • 遊び紙:色上質紙 銀鼠

  • 仕様:B5/44P

本当に久しぶりの同人誌制作で、本づくりにまつわる全ての記憶を失った上にフルデジタル原稿が初めてだったため、とにかく調べてやってみないことには何もわからん状態だったのですが、特に表紙カラーのRGB→CMYK変換には大変苦戦しました。

PhotoshopでRGB→CMYKへのモード変換をした後、RGBデータへ色味を寄せるために個々のカラーをチクチク色調補正する手法をとったのですが、
Photoshopの場合、Labなる形式を挟んでCMYKデータにすると色味に齟齬が出にくいということを後になって知りました。

なんにせよ表紙カラーは意図したところ(同人誌らしい鮮やかな感じにしたかった)と違う沈んだ色味になってしまい、沈んだ表紙が少しでもイケてる感じに見えれば……という気持ちで、金沢印刷のセット内にあったパール調の新シェルリンプレーンをチョイス。
結果的に紙の光沢に助けられ、地味な表紙がそこそこ見栄えのするものになったような気が……単色グレー部分はパールがのっぺり見えがちだったので、ただの色面でなくイラストが多いデザインの方が綺麗に見えたかもしれません。

コントラストが強い部分はパールが目立って美しい

本文用紙はセット内の色上質紙かコミック紙の二択でしたが、
万が一トーンが満足に貼れなかったときにラフ系の紙の方が画面が持つかも知れない……と思いコミック紙を選択。
が、刷り上がったものを見たら思ったより平滑な紙で、紙の質感によって画面が持っているかと言われると微妙なところ……。

コミック紙ホワイト。若干の凹凸はあるが白くて平滑気味。

この時は使ったペンやサイズなどを記録しておくという意識がなく何を使って本文を描いたのかぜ~んぜん覚えていないのですが(トーンの線数は65線だった)、実際にB5に印刷された本を見て「線太!キャラでか!」とびっくりした記憶。これはあまりB5原寸大で表示して確認する、ということを作業中してなかったためです。
反省して次からは頻繁に原寸大で表示&3D製本プレビューをするようにしました。(タブメイトのショートカットに原寸大表示を割り当てた)

7月に出した本

  • 印刷所:栄光

  • 表紙用紙:フリッター ホワイト 180kg

  • カラー本文用紙:マットコート90kg

  • 本文用紙:貴好紙スイート

  • 仕様:B5/50P

4月に8Pのカラー漫画をWeb公開したので、それをカラーのまま再録して続きを同人誌にしてみたい……という動機の本でした。(自分のカラー漫画を印刷して手元に置いてみたかった)

印刷所はカラー本文差し替えのオプションがWebに詳しく載っていた栄光で印刷することに決めました。(4P追加ごとの価格設定だったのですが、カラー漫画8Pを台割を全然考慮せず描いたため、結局10Pを追加することになり割高になってしまった)(あと栄光のwebは群を抜いて見やすく、まだ印刷の品質がわかるレベルの同人マンじゃないので、webと入稿システムがわかりやすいだけで「この印刷所しゅき……」になってしまう)

先にカラー漫画があったためこの話のイメージカラーが頭にあり、それに引きずられる形で表紙の色味と本文用紙を選定。本文用紙は黄味がかった貴好紙スイートにしました。
冒頭のカラーページはマットコート90kg。

貴好紙スイート。クリーム色で平滑。本文用紙に色味があるとアガる。
カラーページはマットコート紙。色はRGBデータほぼまんまに見えます

表紙はヌクモリティある感じが合ってそうだ…とラフ系のフリッターホワイトを選択。
凹凸が強く印刷時に色ムラが出るという注意書きがあったのですが、確かに元の表紙絵と比べるとすごくムラっぽい仕上がりですね。あと色が濃い部分はところどころインクがのってない箇所が目立ちます。
ラフで温かみのある感じを求めていたので、今回の本にはいい効果になったかも。
前回CMYK変換に大変苦戦したので今回はRGB入稿にしましたが、自分でCMYK変換するよりよっぽどイメージ通りに印刷してもらえました。(ちょっとコントラスト強くなりましたが…この辺は校正や試し刷りしないと厳密には合わなそう)

右が元のRGBデータ。比べるとかなりムラっぽい仕上がり
濃色部に白くポツポツした印刷抜け

5月の本はなりゆきのまま表紙や本文の紙を選びましたが、今回は拙いながらもお話のイメージに合わせて表紙や本文用紙を選び、タイトルロゴも作り、自分のイメージを形にできた!という感慨があったと同時に、こうして人は装丁沼に落ちていくのだなと、深淵のほとりに立ったような気分にもなりました。

あとは質問をいただいたので使ったペンと太さを記録していました。
トーンの線数は前回と同じ65線にしましたが、褐色キャラの肌を65線で塗ると顔や体の細かい線が見えにくくなってしまうことに気づき次は線数を上げるかグレースケールを検討しよう……と思いました。

12月に出した本

  • 印刷所:栄光

  • 表紙用紙:ミラックスV 220kg

  • 本文用紙:栄光コミック

  • 遊び紙:色上質紙 赤

  • 仕様:B5/36P

エロ主体の話だったのでピカピカツヤツヤの同人誌らしい同人誌にしたいな~と考え(クリアPPはパワーと誰かが言っていた)プロットそっちのけで印刷所の特殊装丁セットを眺めていました。「メタル紙……そういうのもあるのか」とメタル紙を視野に。

本当にアルミホイルみたいなギラギラな紙のようなので、どんな感じの表紙絵にしたらいいだろう……と迷っていたところ、栄光の装丁作例紹介の記事に辿りつき非常に参考になりました。
「メタル紙にマットPPを貼るとギラつきが抑えらえる」などのノウハウも画像つきだと完成形が非常にわかりやすいのでありがたい。
この作例を参考にマットPPで一部だけギラッとさせようと決めました。

栄光の紙見本を取り寄せたものの、メタル紙に白押さえなしで印刷したときの色味の変化がいまいち予想しにくく、上述の記事にデータの色味と実際に印刷したときの写真が併記されていたのも参考にしました。

実際に刷り上がったものはマットPPのおかげでかなり上品な光沢感に仕上がっていました。が、アホなノリのエロ本だったのでもっとギラギラでもアホさ加減が出て良かったかもしれない。あと白押さえなしの部分はRGBではかなり鮮やかなピンクでしたが、印刷では大分落ち着いた色味に。試し刷りなしでバチッとイメージどおりのものを作るのは難しいんだなあ。

左:実物の本 中央:RGBデータ 右:白版データ
白版なし部分は箔押しっぽくなるので、箔押しが色やサイズの制限なく使えるような感じ。
光が当たると元のピンクに近いかも。
マットPP+白押さえ100%だと全く鏡面っぽさがなく、パールっぽい光沢紙に見えます。

あとはもうひとオプションやりたいなーと、前後の遊び紙にそれぞれ違うイラストを印刷をしてみました。(軽いノリのエロ本って装丁を盛りやすい気がする)
本当は表2、表3印刷をやりたかったのですが、ミラックスVの場合表1表4のメタル側に傷が入るのでおすすめしないとのこと。

テーマカラーの濃ピンクを押し出したくピンクに近い色上質紙赤

本文用紙は栄光コミック。厚みがあるけど軽い紙らしく、すこしザラッとした質感の紙でした。
トーンは前回65線で褐色肌のディティールが潰れてしまったので、今回は75線。完全なグレスケだとディティール不足に見えて不安になっちゃうタイプなので、このくらいが私の絵には丁度いいかもと思っています。

使ったペンは7月の本と変わらず神絵師Gペン四角とかしペンですが、

  • クリスタの筆圧検知レベルの調整

  • 神絵師Gペンの筆圧カーブ調整

をしたところ劇的に太さの抑揚がつけやすくなり、線が一発で決まる率が上がってペン入れ速度が上がった気がします。
反面、筆圧を使って抑揚をつけるようになったためか手の負担は爆上がりしましたが……(前は弱い筆圧で太くしたいところを何度もなぞっていた。)

【クリスタ】筆圧の設定を解説。使いやすいペンに調整しよう

筆圧設定のカーブをいじった。
もう少し弱い筆圧で抑揚がつくようなカーブにすると手に優しいのかもしれないが、
二度と好みのカーブに戻せない気がして日和っている。

本文用紙の比較

上:コミック紙ホワイト 中央:貴好紙スイート 下:栄光コミック

本文用紙は並べてはじめて紙の特徴がわかる。
こう見ると栄光コミックは質感強めで白色度低めで読みやすそうに見える。
貴好紙みたいに紙自体の明度が低い方が、線とのコントラストが弱くて目に優しいかもしれないですね。
紙とのコントラストを下げるなら、本文カラーインクもいいのかもしれない。本を開いて本文がカラーインクだとすごく嬉しい気分になるしね。

来年の抱負

今年は紙についてはいろいろ考えて選んだけどインクについてはあまり気を払ってなかったので、本文カラーインクや表紙シャレオツ多色刷りをやってみたいです。
それと最近はスマホで漫画を読むことに慣れてるので自分のB5の本が刷り上がるたびに新鮮に「デカ!!!」と思うので、A5サイズの本も作ってみたいな。

来年もよろしくお願いします。