「バカ」って言った【里父日記】
言葉は怖い、不意に口から出た「もうバカ!」というフレーズが、いつの間にか歯止めが利かなくなる事もある。
大型連休に実家へ帰省した。田舎には母と祖母、正に老々介護問題の真っただ中。祖母の痴呆が進み、介護疲れが溜まっている母。
母から「ちょっといろいろ有ってね」と、帰る3日前にメールが入った。
児童養育と老人介護、似ているようで対極的だ。
「これから」と「おわり」の違い。
よく痴呆が進むと子どもの様になる、と聞く。
子どもと奥さんが寝た後に、リビングで母と話していた。
概ね、予想通りの”介護疲れ”の内容だった。
里子に対する対処と同じような課題だったりと、改めて気づきも多かった。
談笑しつつ、確信に迫る。
「3日前、何があったの?」
会話の中で一切触れなかったのが気になっていた。
「バカって言ってしまった」
と母が小声で吐いた。
実際に実母の介護、今までしゃんとしていた姿とのギャップ、昔の思い出なども相まってキツイのだと思う。
それでも、大好きな母親、長生きして欲しいという願いが有りながら、ついに「バカ」と罵ってしまった事に自己嫌悪を感じているそうだ。
「どうせ痴呆で覚えて無いんだろうけどね」と続けた母、目を合わせずに。
さて、息子としてどうしたモノか、少し悩んだ結果
「いや、どんなキツかろうがバカは不適切でしょう?」
あえて真正面からぶつける言葉を選んだ。
やっと母と目が合った、そして精一杯の言い訳を並べる母に対し、
「それは言い訳だよね?」
と払ってあげた。
口調も激しくなり、一通り言葉を吐き切ったころ
「大変だろうけど、頑張んなさいよ」
と言ってあげた。
「あぁ、ついに息子に言われるようになってしまったか」
とため息まじりに出た言葉には、もう毒は感じなかった。
誰かに叱って欲しい、間違ってるって言って欲しい。
この欲求は何て名前だろう?私自身も持っている欲求だ。
児童養育、老人介護、どちらも当事者の負担は大きい。
そして、他人に言い辛い内容が多く、溜めに溜めるしかない。
昨今のSNSで良く見かける愚痴や弱音、そこに添える優しいコメント。
実はすごく大きな意味があると感じた。
我々が老後に入る頃、SNS世代としては息抜きの方法があるってだけで少し明るい気がする。
何度でも言います
「バカっていっちゃダメですよ」
子どもにも、母親にも。
そして、自分自身にも。
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