判断

訪問診療は24時間体制です。

体調不良があったら「すぐに」来てくれる、と思われている方もいるでしょう。

しかし訪問診療では、体調悪化の連絡してもすぐに来てくれないところもあるといわれています。
実は、「何でもかんでも行けばいい」という話ではありません
でも何でもかんでも行くクリニックもあるのです。表向きは「患者さんのため」といいながら、真相は「収益目的」のところもあります。
一部ではあまりにも緊急の往診を算定しているクリニックが多いところがあり、それが問題にもなっています。

先日朝から下腹部痛を訴えているという患者さんのご家族から連絡がありました。
金曜の夕方です。
訪問診療中だったのですが外からご家族に電話をすると、電話の向こう口で患者さんのうめき声も聞こえます。
熱も出てきたとのこと。

そのときどう判断するか。

すぐに患者さんの家に行くのが良い医者だと思うでしょう。

以前にも書きましたが、腹痛にはちょびっと自信があります。
ご家族に聞くと、うめき声を出すほどの痛み、痛みに波はない(=腸の痛みではなさそう)、便秘はしていない(=腸閉塞の可能性は低そう)、陰部のあたりを痛がっている、以前に尿管結石の既往がある、などの情報から判断して、
・精巣捻転
・尿管結石
の可能性が疑われます。
もちろん腹部の他の疾患の可能性もないわけではありません。

どちらにしろうめき声がする痛がりようは尋常ではなく、明らかに救急疾患です。
そして時は「金曜日の夕方」
土日になれば、病院も休みだし(土曜半日やっているところもありますが)、当直医だけのところも多く、専門医がいないため精査できない可能性があります。
特に泌尿器科疾患だったらなおさらのことです。
痛み止めだけで土日放っておかれる可能性もあります。
その痛み止めだって効くかどうかわからない。過量な痛み止めで寿命を縮める結果になるかもしれない。
早く大きい病院に運んで精査した方が良いです。

これからご自宅に向かって診察して、という時間がもったいないです。
(もちろん行った方がこちらとしては大きな収益にはなりますけど)

すぐに救急搬送を指示させてもらいました。

実はこの患者さん、大の病院嫌いで、こんなに痛がっていたのに病院には行きたくないとおっしゃっていたのです。
かなりのご高齢で、最期は自宅で迎えたいとの気持ちが強い方でした。

救急搬送指示しても行きたくないとの希望がありましたが、このまま自宅で我慢していたらそれこそ寿命を縮めかねません。
尿路結石だったとしたら、治療すれば今の痛みからも解放され、すぐに自宅に戻ってきて安泰な毎日が送れます。

説得を繰り返し行い、救急車を呼んでもらいました。

結果的には、「尿路結石」で治療もすぐに行い無事にご自宅に戻ってくることができました。

実は病院に行く行きたくないの一悶着で、病院に行かないんだったら診察に行こうと、患者さんの自宅方面に車を走らせたり、その途中でやっぱり救急車で行くとなったのでクリニック方面にまた進路を変えたり、それが2回くらいあっててんやわんやでした。
しかもその日は自分一人で訪問診療に回っていたので、運転しながら、電話しながら(もちろんハンズフリーです)、頭もフル回転。
何がベストか?って。

こんな時もたまにあります。

このケースでは、端から見れば、「患者が痛がっているのに往診に行かない悪い医者」となるのでしょう。
しかし痛みの度合や性状などから考えられる疾患(分野も含め)、金曜の夕方という時間帯から考えて、救急搬送を指示したのは的確な判断で間違いないと自負しています。
何でもかんでも往診に行くクリニックのように、痛がっているのに往診に行くのを待たせ、それから救急搬送をしていたら夜になってしまいます。
もう当直の時間帯です。
しかも金曜の夜。
患者さんにとって良いことはありません。
緊急往診という無駄な医療費も請求されます。

放射線技師であるとか臨床検査技師、いろんな科のスタッフが24時間常駐している病院に運ばれるならいいです。
(でもそれは三次救急に限られます)
通常は、当直帯は十分なスタッフがいません。
ドラマのようにスタッフがワーッと集まって初期治療するというのは、三次救急の世界です。
三次救急は命の危機が迫っているという、ごく限られた時にしか運ばれませんので。

ほんとどの救急車は二次救急に運ばれます。
やる気満々の医者と看護師が待機してくれることもあるかもしれませんが、眠そうにけだるそうに対応されることもありますし、なんならバイトで専門外の医者が対応していたり、普段は研究ばっかで臨床経験がほとんどないような医者が対応したりすることもあり得ます。
そして専門外で対応できない、手に余るとなると、他の病院へ転院搬送です。
二度手間です。

今回のように二次救急への搬送であれば、スタッフがまだ充実している時間帯に搬送するのが理想です。

ご存じのようにうちのクリニックは医者一人、看護師一人しかいません。
ですから無責任に患者集めしようなどとは思っておらず、責任もって診れる人数しか受け付けません。
お金のこと考えたら無責任に患者集めた方がいいんですけどね。

そして他の患者さんの訪問診療に回っていることが多いため、体調不良があったからといってすぐに行けるわけでもありません。
ですから、
・何が予測されるか
・救急疾患かどうか
・時間帯(曜日や時間)
・家族など家庭環境
・本人・家族の希望、治療して自宅・施設に戻ってこれるのか
・あるいはこのまま自宅・施設にいることが一番良いことなのか
などを考慮して、何が一番ベストか?を考え判断しています。
(その時々でいろんな判断材料があります)

今回のように、何でもかんでも救急車を依頼するわけではもちろんありません。
訪問看護師さんにも協力いただき、自宅・施設で経過を見れるのであれば、そのように対応します。
というかまず、自宅・施設で治療できないかを考えるのが前提です。
しかし家庭環境、施設の状況によっては難しい場合もあるのですね。
そういうときは迷わず入院加療の方向で判断します。
無理して自宅で診ることによって、家族が疲弊し共倒れになる可能性もありますから。
あるいは十分ケアができず、病状が急速に悪化してしまう可能性もあります。
自宅でだらだら治療するより、専門的な治療でパッと治してもらってパッと帰ってくる方が良いこともあります。

ですから「在宅は素晴らしい」と言われるけど、すべてがすべて在宅で行うことが素晴らしいとは言えません

目の前で起きていることだけみるのではなく、もっと先々のことを考えて行動することが必要です
たとえ超高齢者であってもです。
たとえ超高齢者であってもあと5年10年生きるかもしれません。
寿命は誰にもわからないのです。
無理して在宅で診ることで、寿命を縮めてしまうかもしれません。
病院受診してスッキリ症状改善できる可能性があるなら、一時的な入院加療の選択をするべきです。

「その人本来の寿命を全うさせること」
その方針に変わりはありません。

とはいえ、「その人本来の寿命」なんてわからないし、日々反省しています。
自分がとった行動がベストだったのかって。

こんなふうに日々いろいろ考えているのですよ。
そして、これまでの経験も決して無駄にはなっていないな、少しは活かせているなと思う今日この頃です。

無駄に医療機関の食いものにされないように、自分でできるケアなど役にたちそうな情報を大公開していきます。