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No.1229 四昔の男

みなさん、人の夢をご覧になることはありますか?
 
「我妹子(わぎもこ)に 恋ひてすべなみ 白袴(しろたへ)の 袖返ししは 夢(いめ)に見えきや」 
(あなたが恋しくてどうにもならず白袴の袖を折り返して寝ましたが、こんなに恋焦がれている私の姿を、あなたは夢に見たでしょうか?)
『万葉集』巻11・2812番・作者未詳の歌ですが、こちらが恋い慕っているから相手の夢に現れるのだ、(あるいは、相手が強く思っているからこちらの夢に現れるのだ)という発想です。


一方、こんな歌もあります。
「いとせめて 恋しき時は むば玉の 夜の衣を 返してぞ着る」
(貴方を恋しくて仕方がない時は、おまじないに夜の着物を裏返しにして眠るのです)
『古今和歌集』巻第十三・恋歌二・554番の小野小町の歌です。恋しい人の夢が見たいからと積極的に俗習を実践するものです。そこまで思われる男からすれば、たまらなく嬉しい歌でしょうね。
 
相手が思っているから夢に見るのか?こちらが気にかけるから夢を見るのか?そのどちらともなのか?そこんところ、どうなんでしょう?
 
「ピンポーン!」
3日前に高校時代の教え子が、前触れもなくやって来ました。なにせ40年近く前の卒業生です。あの時以来ですから、よくぞ、我が家を思い出して探し当てたなと不思議発見です。「何となく記憶を頼りに…」と言った彼は、既に50代半ばになっていました。
 
「えーっ、どうしたの???」
いきなりであり、ほぼ40年ぶりであり、ぶらりと立ち寄ったようなカジュアルな装いです。彼の表情は清々しくありましたが、訪問を受けた方は、少し不安が脳裏をかすめました。何事か、あったのではないか?と。
 
「実は、最近、先生の夢を何度か見るんです。それで、お元気かなと…。」
というのが理由でした。連休を利用して親子で大阪から帰省した合間を見てご機嫌伺いに立ち寄ってくれたらしいのです。私が何ごともなかったのを見て安心してくれたか、逆に拍子抜けしてしまったか、訊きそびれてしまいました。
 
「10年ひと昔」などと言いますが、何といっても40年ちかくぶりです。年賀状のやり取りもありませんでしたから、彼が大阪で働いていることも初めて知った次第です。それでも、「なんだか気になって」とわざわざ足を運んでくれたのですから感慨ひとしおです。
 
以前紹介したことがありましたが、放課後に四人組で「手作り紙麻雀」をして遊び惚けていた彼らに「大物になるに違いない」と感嘆させたうちの一人・I君です。

ところが、彼にその話をしたら、文化祭の日の放課後に行った「手作り紙麻雀ゲーム」だったそうで、
「あの時、見つかってビンタを貰いました。今だったら大変です。」
と逆に驚かされてしまいました。そんな結末だったっけ?
 
それにしても、高校時代を懐かしみ、
「いい時代だったと思います。」
と回想してくれたことから、人の上に立つようになり多忙至極の中で、何かが契機となって私のことも思い出し、夢に見てくれたのかなと思いました。
 
手前味噌かも知れませんが、怒り甲斐がありました。I君、ありがとう!


※画像は、クリエイター・kicchan(きっちゃん)⭐️シュールな漫画とゆるいイラストと短いエッセイさんの、「インターホン」の1葉をかたじけなくしました。お礼申し上げます。