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日向温泉

第3夜

昨日の大広間には、龍太だけではなくスズもいたようで、逃げることに気を取られて気が付かなかったようだ。スズもまた、ビュッフェに疑念を抱き、食べずに元の世界へ戻ってきた。あんな汚い場所にいたので、穢れを流すように温泉に入りに行った。

その温泉の場所は日向。橘をお湯に入れた露天風呂に、日が暮れるまで入っていた。
日が暮れて、旅館で夕食を食べようと呼んだ女将の名はナオ。スズは彼女の美貌に心を奪われ、目に入れても痛くないと思うようになる。そして、翌朝、スズはナオとその弟のソウを連れて帰京した。

到着するとすぐに、スズはナオとソウをミクに接見させた。ミクは「貴女は女将では勿体無い。ここで人々をまとめ、良き方へ導きなさい。」と伝えた。また、ソウには「スズたちが統治していた国で暴れている大蛇を倒して来なさい」と命令した。

ソウは、早速現地へと足を速めた。橋を渡り、河原が見えたのでそこで休んでいると、どんぶらこと大きな桃ではなく普通の箸が流れてきた。ここでソウは、川上に人が住んでいると思い、訪ねて上っていくと、お爺さんとお婆さんが乙女を真ん中にして泣いている。

突然やってきたソウが、
「貴方達は誰だ」
と唐突に問うた。その時点で十分不審者なのだが、お爺さんは真っ赤に腫れた眼の中から黒目を覗かせて、
「私はこの村で農家をやっているのだけれど、毎年洪水がやってきて私の畑だけ米も野菜もとれない。これでは赤字続きで生活していくことができないのだ。」
聞いたところによると、借金が500万ほどあるらしい。全部1つの地主から借りているので、取立てに追われて精神的にも参ってしまった。そこで救世主ソウが登場ってこと。

もういっぱいおだてられたソウは図に乗ってお爺さんたちを助けようと決心した。まずはその借金をどうにかしなければ始まらないので、乙女を連れて地主のもとへ向かう。何も聞かされず首根っこをつかまれて連れてこられた乙女は何をされるか分からずむすっとしていたが、しばらくして地主の家が近づくと急に凛とした態度をとりだす。
「ごめんください!」
と声を出しても中から反応がないのでソウは扉に体当たりしてぶち壊すと、細部にまで彫刻がひしめき合っているお屋敷が現れた。怯える乙女をよそに、ずかずかとお屋敷へ入ろうとするソウ。中からは大勢がパーティーのように騒いでいる声が漏れている。

少しでも地主を羨ましく思ってしまったソウは、身を奮い立たせていざ地主と対面。

扉を開けると、そこはキャバクラのようなハーレム。酒を注がせてニコニコ話していた地主も、周りにいる大勢の女も一瞬にして2人に視線を注ぐ。そしてすぐに異物が混入したかのように外へ追い出そうとするが、ソウは銃を構える。へべれけによっぱらった地主も酔いが醒めたように応戦し、屋敷はパーティー会場から戦場へと変貌した。

「貴様、農家に金を貸しているらしいな。収入ないところから高利貸しやっているクソな奴じゃないか」
「いや、真っ当に仕事をしているだけだ。もし借金返せないならそこの女をよこせ」

その言葉に怖気付いた乙女は、ソウの背中にぴったりひっついていた。ソウは周りの気をひいている間に借金の証文を探し出して焼き払いなさいとこっそり乙女に伝えた。
大量の野次馬の中、ソウは地主と一騎討ちになり、緊迫した状況が続いていた。暫くの時間稼ぎだったが、なかなか乙女が探し出さないので、我慢出来ず地主に発砲。周りの女は一瞬にして凍りついた。ソウはいち早く乙女と証文を見つけて地主と証文を焼こうとする。

呑気に証文を見つけてきた乙女から証文を奪い取り、地主の腹に乗せて火をつけると、女達が一斉に彼を囲み、涙を流す。ソウが下準備として地主の服に油をかけて置いたので、少しして炎が大きくなり、周りの女も巻き込んでしまう。どんどん火は大きくなり、ついに屋敷に火が移り、大火災にまで発展。もう手に負えなくなった2人は韋駄天走りでその場から逃げて家へ戻っていった。

一方、炎に包まれた屋敷は必死の消火活動によりなんとか鎮火されたが、そこにいた人は全員死亡。地主は息が途絶える直前に、あの男は殺人鬼だ。今世では自由はなく、来世では地の下で強制労働を強いられるだろうと言ったと伝えられている。

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