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「マクベス」「世界で一番美しい少年」「ハウス・オブ・グッチ」

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 映画の感想が溜まっているので3本まとめて。2022年の映画初めにふさわしい、コーエン兄弟の弟イーサン・コーエン監督・脚本「マクベス」から。

 アップルTV+で配信予定のため、劇場では一週間限定公開だったのですがそれがもったいないくらいモノクロの陰影が美しく、空を横切る鳥や三人の魔女など、どのカットも絵になる素晴らしさ。屋外のシーンもわざとセットだと分かるような作りで、演劇を観ているような雰囲気もありました。なぜ古典中の古典のマクベスを映画化したのか最初は不思議でしたが、「欲にかられて犯した罪に追い詰められ、破滅していく愚かな人間」の姿を描いてきたコーエン兄弟作品と核は同じ。シェイクスピアを読んだことがない人にも分かりやすく、知っている人にも新鮮に映るよう計算されつくした監督の美学を感じました。

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 次は「ベニスに死す」のビョルン・アンドレセンのドキュメンタリー「世界で一番美しい少年」です。アリ・アスター監督「ミッドサマー」に出ていたのを知った時はあの美少年が?と驚きましたが、その後ELLEの記事で「ベニスに死す」がもたらした悲劇を知ってさらに衝撃を受けることに。だいたい内容はわかっていたつもりでしたが、現在の暮らしっぷりや恋人との会話までかなり赤裸々に描かれていて何度も胸が痛くなりました。(特に日本での異常な熱狂ぶりは見ていて恥ずかしくなるくらい。変なムード歌謡を歌わせて申し訳ない・・・。)巨匠と呼ばれた映画監督や彼を守ろうとしなかった周囲の大人達、そして「美しさ」を何も考えず消費してしまう私達にも問題があるなと考えさせられました。

 あのどこか憂いをおびた雰囲気は今も変わらず、好きだった音楽の道に進んだ彼の人生が少しでも幸せであるように祈らずにいられません。

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 さて、最後は「止まると死んでしまうタイプの回遊魚監督」リドリー・スコット「ハウス・オブ・グッチ」です。レディ・ガガ演じるパトリツィアを単なる「カネ目当ての悪女」として描かず、グッチ家の面々があまりにも世間知らずで愚かだっただけなのでは?と思わせる演出はさすが。野心があることは男性だと好意的に受け取られるのに、女性だと「ガツガツして品がない」と言われがちなのもおかしな話。夫のマウリツィオのスノッブな友人たちが、スキー場で明らかにパトリツィアを見下すシーンには怒りがこみ上げました。(もちろん彼女のやったことは許されないけれど)グッチという会社と莫大な財産を手にしても、どこか虚しそうなマウリツィオの表情と最後のカフェでのシーンが印象的でした。

 現在のGucciにグッチ家の子孫はおらずあくまで「実話をもとにしたフィクション」とはいえ、この内容で全面協力してしまうGucciの懐の広さはさすが。(90年代にGucciを復活させたトム・フォードご本人はお怒りとのことですが、まぁそれはなんとなく分かる。)ちらっと出てくるそっくりアナ・ウィンターや猫を抱いたカール・ラガーフェルドも楽しかったです。そして現Gucciデザイナーのアレッサンドロ・ミケーレとも仲良しのジャレッド・レトが、パオロ(一番左)の役をやっていたことに一番びっくり。特殊メークとはいえ、全く分かりませんでした。

 これから観たい作品はまだまだあるのですが、映画館に行っていいものか悩ましい感染者数ですね。引き続き皆様お気をつけ下さい。