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M出とまっさんと三人で新年会をした。われわれが会うのは二年ぶりだった。

三時前にM出と大須でおちあった。M出は太っていた。(バーソロミューくまのような体型をしていた)。M出とわたしは謎解きが大好きなので、ふたりでSCRAPがやっている大須を食べ歩く謎解きをやった。大須のさまざまなスポットをめぐり、最終的にキーワードを手に入れて解答ページに入れることができればクリアだ。われわれはまず腹ごしらえをすることにした。ナポリタンの店だ。M出は大盛りを、わたしはオムレツナポリタンを頼んだ。ナポリタンはソーセージやケチャップといった基本にくわえ、牛すじ入りのデミグラスソースがかかっており、それをふわふわのたまごで閉じこめていた。たまごが蓋となって熱を逃さず、最後までアツアツでとてもおいしかった。そうして満腹になったわたしとM出は大須を食べることも歩くこともできなくなった。ハッピーエンド。

そんなわけで謎解きだけをして、五時にまっさんと合流した。まっさんともっと早く合流してもよかったのだが、計画の段階で、

わたし「三人でジョジョ五部のリアル脱出ゲームをしようよ」
ま「ぼくはやめとくよ。終わったころに合流するよ」
M出「わかった」

という流れがあった。
ジョジョ五部の脱出ゲームは六人一チームであり、ふたりで参加して知らない四人に混ざることはわれわれの望むことではなかった。なのでまっさんが降りた段階で時間拘束のある脱出ゲームをやる選択肢はなく、ということはさっさとまっさんと合流しても問題はなかったのだが、誰もその事実に気づかなかった。

まっさんは二年前と変わらず不審者然とした姿をしていた。大きなバックパックを持っていなかったので助かったが、持っていたら捕まっていただろう。

すこしの間まっさんを謎解きにつきあわせ、われわれは焼肉屋に向かった。しかし時間が経ったわたしたちはあまり共通の話題がなかった。仕事や生活に疲れ、アニメやドラマを見ることがなくなったわたしたちに話せることはないかのように思われた。昔はよく、アニメの話をした。共通の体験があり、共通の時間があった。だが今はもう、われわれは別の道を歩んでいて、別の人生があった。社会的ステータスも交友関係も、趣味もばらばらになっていた。
出方を伺っているうちに粛々と時間は過ぎていった。会話は続かず、途切れ途切れになり、スマホに手が伸びた。

そんななか、誰が言ったのか、唐突に一つの話題がさっそうと現れた。ちいかわだ。おそるおそる確認すると、われわれは三人ともちいかわにハマっていた。それはわれわれに残された唯一の光だった。わたしたちの視線が二年ぶりに合った。

肉が次々に焼きあがり、何度もアルコールのグラスが交換された。

いつの間にか、わたしたちの間にあったきまずい溝はなくなっていた。共通の旧友の近況を聞いたり、引っ越しをした話を聞いたり、なにかのつっかえがとれたかのように、わたしたちはたのしく飲み、じゅうぶんに話した。

わたしは終電で帰宅した。またあしたから月曜日がはじまる。いつもの憂鬱さが、少しやわらいでいるように思えた。それぞれの地位が変わっても、変わらないものがあった。ちいかわがわれわれの友情をつなぎとめてくれたのだ。

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