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金利の ”着地点” と「中立金利」

 こうして時系列で「イールドカーブ」を追っていると、世界の国債金利、特に長期金利は随分収斂しつつある( ↑ 標題グラフ)。特に「円安」に見舞われているJGB(日本国債)の猛追は顕著で、30年JGBは遂に@2%を超えた政策金利の「利上げ」も視野に入りつつある

 筆者は「中立金利」について「コロナ前」=「ディスインフレ時代」と「コロナ後」=「インフレ時代」に分けて金利の ”着地点” を想定 ↓

 リーマンショック(2008)後、中国が「世界の工場」として躍り出て安価な商品を大量に供給していた「ディスインフレ時代」には「潜在成長率」 (自然物価上昇率)を▼1~2%程度押し下げ「インフレは死んだ」=「超低金利時代」の莫大な恩恵を受け、「XXバズーカ」による「過剰流動性」も相まって株や不動産価格が押し上げられた ”幸せな時代” が30年近く続いた

 だが ”好事魔多し”日米欧3局による「ゼロ金利政策」は財政のたがを緩め「いくら借金しても大丈夫」というモラルハザード(倫理感の欠如)が蔓延MMT(現代貨幣論)がその象徴と言っていいだろう

 だが 「悪魔」は静かに忍び寄る。|損切丸 (note.com) その間に 燻る「インフレ」の ”種火” 。|損切丸 (note.com) はマグマのように積上がり、「コロナ危機」をきっかけに "時限爆弾” が炸裂「インフレ時代」への再突入した

 丁度「ベビーブーマー」の引退時期が重なり、世界中で億単位の「人手不足」が勃発*「団塊」▼8百万人が高齢者入りした日本も例外ではない

 やたら ”コストプッシュインフレ” を連呼する一派(≓ MMT信者?)があるが世界中で「インフレ」を引き起こしているコアは「人件費」の上昇物流もサービスも値が上がるのは人が足りないから。その事は日米ともコアCPI(除.食品・エネルギー)>総合CPIが証明している。だから仮にドル円が▼10円落ちても物価上昇基調は変わらない原油価格がピークの@120ドル→@70~80ドルに落ちても「インフレ」が収まっていないのと同じである

 筆者が1年以上前から「日銀は早く金利を上げた方がいい」と言い続けているのは "金利の常識" ≓「中立金利」がベース。アメリカが強烈な「利上げ」を始めた2022年の時点で日本のCPIも+2%は完全に射程に入っていた。そんな事は日銀幹部も判っていたはず。それがこうも遅れたのは「政治の事情」に他ならない。結局ここまで追い込まれないと動けない誰かに背中を押されないと決断出来ない ”日本人の悪癖” が垣間見える

 いつかどこかで見た光景 ー いつも「黒船」頼み。今回は「円安」

 過去の日銀による「利上げ」パターンを踏襲すれば ”市場追認型” になる可能性が高い。例えば10年JGBが@1%を超えたから政策金利を@1%まで上げる、といったやり方。非常に官僚的な発想「市場金利が上がったからやむを得ず上げた」≓「日銀のせいではない」という言い訳。悪く言えば「責任逃れ」 ≓ マーケットが悪い。普段は「投機筋」などと蔑んでいるくせにいざとなったら責任転嫁。ちょっと欧米では考え難い

 まあそれでも「やっとここまで来た」。何せ「円金利」を担当した20年はほとんど「ゼロ金利」。ここまで金利上昇が進んできた事は素直に喜びたい。特に 続・もう「円安」だけで「日経平均」は買えない - 「円安・株安・債券安」の最悪の展開も|損切丸 (note.com) が決定的で、「円安」→「株安」の流れになれば「利上げ」を止める「政治の事情」は無くなる

 あとは「中立金利」と目される@2.0~2.5%に向けて粛々と「利上げ」を続けるのみ。財務官僚としても金利が上がれば財政のたがが嵌まるので税金の無駄遣いも防げる。「裏金問題」が沸騰する中一石二鳥だ

 住宅ローンの変動金利や企業借入れについては個人の「投資」同様、金利リスク管理は "自己責任" 。固定金利に変えるなど金利上昇リスクをヘッジする方法はいくらでもあるので「損」したからと言って日銀のせいにするのはお門違いも甚だしい。日本がここまで駄目になった根本がここにある

 「デフレ30年」で "氷河期" を潜ってきた日本経済はこれで ”第2の戦後” を迎えるようなもの。ここからが正念場。幸い「円安」は世界との競合を有利にする。あとは「労働力不足」をどうするのか。「少子化問題」「移民問題」「高齢者・女性労働力の活用」等々、まだまだ出来る事はある

”人生万事塞翁が馬” ≓「不運は幸運をもたらす」「幸運は不運をもたらす」

 日本には言い諺がある。「円安」は大変な苦しみだが、使いようによっては "武器" にもなる。イギリス人の同僚が「日本のイチゴは大きくて甘い!」と激賞していたが、確かにあんな "ベリー" (Berry) は日本にしかない。実際海外でもの凄い値段で暴売れしているらしい。世界を席巻しているアニメ然りで「円安」は強力な "武器" 。あとはやる気と工夫次第

 だから+2%程度の「利上げ」を怖れる必要も無い。正確には「金融引締め」ではなく「金融中立化」に過ぎない。SNS等で大騒ぎする連中が出るだろうが多少の痛みは想定の範疇。5年、10年のタイムスパンで見れば何て事ない。むしろ「なんで金利がゼロのままだったんだろう」と思うようになる

 「中立金利」は「金利」の基本中の基本日米欧とも「中立金利」に戻って初めて「正常化」する。FRBとECBは「インフレ」対応が遅れ+1%程 "上振れ" してしまい「利下げ」で戻す作業に入っている。あとは日銀が「正常化」するだけ。いつまでも「低金利」に甘えてはいられまい

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