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看護の仕事の見える化                           在宅医療偏 第3回          「生き返りますか?」と言った                     母親へのケア              

1.家族看護とは


 本日は、「家族看護」について考えさせられた事例を見える化し、看護師としての役割を家族看護の視点でお話できればと思います。
私たち看護師の仕事の対象は、個人だけでなく、組織、地域社会と幅広いことは周知されていますが、最も小さい社会となる家族は、病院の看護師さんも、訪問看護師さんにとっても患者さんと同時にケアの対象と捉えられます。
 家族看護学が大学のカリキュラムに登場したのは1990年頃からですので、学問としての歴史は30年以上にも及びます。家族背景により、家族間のつながりは様々です。それを限られた時間で把握していくことは簡単なことではなく、ケアに活かしていく技も容易ではありません。
 事例は、自宅での最期を希望した患者さんのお話です。家族看護は、「家庭内での家族間の関係性を見て、家族を丸ごとケアすること」です。私たちの看護の目標は、「より健康な状態に近づけること」です。健康とは、病気や障害がないことではなく、人が辿る、「死」を穏やかに迎えることも健康と捉えます。今回、家族の一員である、患者さんが、親をはじめとする家族に看取られた事例を振り返りながら、家族看護について考えてみたいと思いました。

2.事例紹介


 患者さんは、がんを患い、治療を重ねられてきましたが、最期を自宅で、子供と過ごしたいと在宅医療を希望されました。ちょうど病気がわかった頃に生まれたお子さんはまだ、5歳で、治療が中心の生活で親の役割を担ったのが、患者さんのご主人だけでなく、患者さんのご両親だったと考えられます。
 自宅に帰った患者さんは、体を動かすたびに、痛みや息苦しさがある状態で、訪問診療医により薬が調整され、苦痛のない日常が続いていました。週に2回の訪問看護の時、一緒についてくださったのが、患者のお母さまでした。看護師が心配なことをお尋ねしても、ねぎらいの言葉をかけても。「私は何もしていないから」という返答が帰ってくる一方、少し状態が不安定になると、「もうだめですか?」と不安な言葉が聴かれました。
 看護師は、なかなか、ラポールが形成されず、患者のお母さまの心情を探ることができませんでした。お母さまは、徐々に変化していく娘さんの姿を見て、どのように考えていたのでしょうか?医師からも看護師からも最期の状態が近づいてきていることの説明はされました。受け入れ難くても、心の準備はできていると思われていたのですが、亡くなった後に患者のお母さまから「生き返りますか?」という言葉が返ってきました。

3.家族を丸ごとケアするとは


 改めて事例を振り返った時、患者のお母さまが最後に伝えた「生き返りますか?」という言葉が何を意味していたのか考える機会になりました。
家族が「死」という現実を受け入れるためには、私たち医療者は一般的に、長い療養の期間や十分な説明があれば適応できるのではと考えてしまいます。しかし、今回の事例から学んだことは、患者を取り巻く家族間の関係を理解し、お母さまの人となり、お母さまの思いを受け止める必要があったのではないかと思いました。
 長野県看護大学教授 柳原清子氏は「患者さんは、家族の中でどのような立場や役割をとっているのか。そして、家族の中ではメンバー同士がどのような相互作用を起こしているのか。患者さんと家族を切り分けて考えるのではなく、家族をひとつのシステムとして捉えることが重要です。」と言っています。私が、患者のお母さまの立場だったらどうだろう。若くしてこの世を去る娘、また、子供を置いていく娘の気持ちを思うと想像もできないほど口惜しい気持ちがあったのではないか。祖母というにはまだ若い、向老期に、口惜しいだけに、孫がかわいくて仕方ないという満たされた気持ちには、もしかしたらほとんどなっていなかったかもしれない。むしろこれからの心配が先に立って、死んでもらっては困るという想いが「生き返りますか?」の言葉を言わせたのかもしれません。
 家族を一つのシステムと捉え、患者さんが早い死を迎えても、家族の安寧が保てるように、私たち看護師は支援していきたいと思うのです。次の資料は柳原清子氏が家族が乗り超えていく力を説明しているものです。各家族の持つ力を見極め、弱いところを支援できるとよいのかもしれません。

https://nursing-plaza.com/interview/2250-2/



 人は、経験を重ねる中で打たれ強さを培っていきます。傷つくことなく育った人は有事の際に大きなダメージを受けますが、苦労を経験していると打たれ強い。レジリエンスは生まれつき備わっている力ではなく、自分自身で獲得するものなのです。同じように、家族レジリエンスも、一人ひとりがひとつの家族になっていく過程で獲得していく力です。
打たれ強い家族、何があっても跳ね返す家族には、3つの特徴があります。  
 第一の特徴は、信念を持っていること。
 続く第二の特徴は、家族一人ひとりの交流・関わり方がオープンであることがあげられます。レジリエンス力の高い家族は、それぞれがオープンで明晰なメッセージを発し、わかりやすい交流をしていますそして、
 第三の特徴は、家族の凝集性が高いこと。普段はバラバラでも、危機状態に陥った時にスッと集まって一致団結して課題解決できる家族は、強い力を持っています。
家族の持つ力はいろいろあります。家族看護を行う看護師は、各家庭の家族レジリエンスを確認しながら、弱いところをケアする必要があります。


 最後に、看護師にも専門性の有無、得意とすること不得意とすることがあります。在宅医療は、様々な職種がチームとなって専門性を活かせる職場であり、患者さんを中心に自由な環境を設定できるという特徴があります。今回の事例では看護師だけでなく、臨床心理士や家族の信仰に近い人物が介入することもよい結果をもたらしたかもしれません。
 日々同じ事例はありません。その時々で、皆で考え、患者さんや家族によって、最もよい介入をしていきましょう。頑張れ看護師さん。

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