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看護の仕事の見える化                                               在宅医療偏 第4回          利用者さんと看護師さんのゆずれないことに折り合いをつけたのは                                            


1. 看護に正解はないが患者と共に考えることが大切

 2年前、私は訪問看護を始めて経験する看護師さんから、糖尿病と心不全を患っている利用者さんへの食事への支援について悩んでいるというお話を聴いたことがありました。利用者さんは、病気の特徴から、決められた塩分やカロリー、水分を守る必要があります。これまで、食事やおやつなど好きなものを食べたいと訴える利用者さんに、訪問看護師さんは、食事制限の必要性を説明してきたのですが、ある時、利用者さんの希望を叶える方法はないのか?どうすることが看護なのかと悩まれている姿に、同じ看護師として共感を覚え素敵だなと感じ、いつか、その看護師さんに会ったら、もう一度、話を聴いてみたいと思っていました。
 通常、入院をしている患者さんに対して提供される看護は「食事指導」と言われるように、医師の指示に基づき、患者さんの病状が悪化しない食事のとり方や生活を指導するということが一般的でしょう。しかし、訪問看護師さんは、患者さんの思いや生活から何なら守れるか、より適切な方法はないかと考えアプローチを考えます。
 今回、インタビューできる機会をいただき、2年前の気持ちやどのように行動されたのか教えていただきました。看護師さんは、熊本市の訪問看護ステーションみゆきの里に勤務されている河島奈甫子さんです。

訪問看護ステーションみゆきの里
訪問看護師 河島奈甫子さん

 河島さんの言葉から発せられたことは、ご本人のひたむきさを予想できる言葉でした。「私は、元気だった家族が目の前で急死する姿に立ち合い、それからというもの、生きることに執着があるんです」とおっしゃいました。目の前で大切な家族が簡単に逝ってしまうことはどんなに辛かったでしょう。「人は死んだら何もできない。だから悔いのないように生きないといけないと思うし、利用者の方にも悔いがないように生きてもらいたいと思ってしまうんです。」あまりにもその気持ちが強いから自分ではよくないと思っていらっしゃった様子でしたが、私はその話を聴いて、自分をどんなときにも開示し、経験を話し、だから私はこう思うということを伝えることが信頼関係を生むことになるのではとお話ししました。まさに、今回、お話してくださった事例は河島さんが利用者さんに真剣に向き合ったことでよい結果をもたらしたと言えるでしょう。

2.  事例紹介

 高齢の利用者さんは、体の浮腫が強くなっては入院し、状態が安定したら退院するという繰り返しの生活をされていました。利用者さんの口癖は「生きているのだったら好きなものを食べたい」でした。河島さんは、そんな患者さんに真剣に向き合い、命を守る上で自分が譲れないことを話しました。「私からみた問題だと思うことを直球で話しました。」とお話しされました。そうすると利用者さんは「え?」と立ち上がり、山盛りのお菓子を持ってこられました。それは想像を絶する量だったそうです。「ヘルシーと書いてあるからいいんじゃないの?」という利用者さん。表示があれば食べていいのではないかと解釈した利用者さんは、必要以上におやつを食べられていた現状が露わになりました。利用者さんの譲れないことはカフェオーレとコーヒーゼリーを食べることでした。希望を取り入れるためには、食事を減らすことで納得をいただきました。
 また、水分は、外来で、担当医師より、ペットボトル1本を飲む指示がされていましたが、食事の時に摂る水分を計算したら、合計2リットル摂っていることがわかり、適切な量を提示しました。
 河島さんは、この利用者さんの行動、認識の変化につなげられたのは、「私の譲れないことも言い、利用者さんの譲れないことを聴き話し合ったことがよかったと思います。」と話されました。今では、入退院をすることがなく、自宅での生活を維持されています。

3. 看護は人と人の関係性から始まる

 看護師さんと利用者さん、看護師と担当医、看護師さんと薬剤師さんやケアマネジャーさんなどの関係者、すべて、人と人が原点です。人と人との関係性により、利用者さんの療養生活を支えていきます。今回、利用者さんとのよい関係がとれたことで、河島さんの行動は、担当医師への配慮、アプローチまでに及びました。在宅という生活の場面を見たことがない医師は、患者さんの生活に問題となることが潜んでいることに気づきにくいものです。それを訪問看護師さんの報告によって、より認識でき、治療計画をするうえでの情報源とすることができます。
 看護師さんと患者(利用者)さんの関係は、お互いをオープンにすることによりよい信頼関係が生まれるものだと思います。特に、生活に近い場にいる訪問看護師さんは、必要なことを指導するという立場ではなく、話し合っていくというプロセスで、利用者さんの希望を叶え、必要な治療ができる環境を提供していくことができました。河島さんは「向き合うことでお互いが折り合いをつけれた」と表現されました。まさに訪問看護師の醍醐味であり、素敵なことだと思いました。


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