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エンゲージメントされた組織     クリニック偏 第1回


1.自己紹介・私の使命とビジョン

株式会社S-TASHIRO 代表取締役
田代 清美

 皆さん初めまして、私は、長年看護師の仕事をしてきました。その中で、満足することより私ではどうすることもできない医療を取り巻く環境に不満足を感じることが多かったように思います。だから、いつも誰に言っていいのかわからない中、「それはおかしい」、「何でそうなるの」などと荒々しい言葉で吠えていたように思います。「また、田代が吠えている」そんな感じでした。そんな私が、2年前に起業した経緯も含め自己紹介させていただきます。
 私は、看護師の仕事を通し、数々の違和感を覚えることがありました(違和感の具体的な内容は、別の機会で)。それは、私自身の価値観や信念と矛盾する事柄だったために、自身が納得しないことに対しては、組織人としての発言と、私が考える発言の2種類を使い分け、大切なモノやヒトを守ってきたように思います。もちろん、大切なヒトは、部下の看護師さん、病棟の患者さんです。病棟師長の頃は、怖いものなしで、田代カラーの強い病棟が作られていきました。看護の醍醐味を味わい、人を育てることを楽しいと思った瞬間でした。そのころから、見えなかったことを(暗黙知)見える化することが得意だったように思います。個々人が思っていることを言語化して、看護師同士の知の共有につながることが、看護師のモチベーションにもなったと思っています。
 数々の違和感を抱えたまま、それを解消すべく、2年前、起業をしました。患者さんが不利益を被らず、納得のいく医療やケアを受けられるようにしたいという思いからスタートしましたが、今年、第一の目的を「看護師を悦びで満たす」に変更し「看護の価値を高め、看護師がいきいきと働き続けられる環境を提供する」ということをビジョンに掲げました。その理由は、看護師さんが悦びある仕事をしていくことが、患者さんを幸せにすることになると考えたからです。病気の情報、病気や障害への向き合い方、意思決定、療養生活など、いわゆる生老病死を支えるのは、どのようなステージにおいても私たち看護師の存在は大きいのです。

2.エンゲージメントとは


 昨年末より私は、iCPカフェに参加し、エンゲージメントについて学んでいます。
 iCPとは愛に満ちたクリニックつくりましょうプロジェクトという意味です。エンゲージメントされた組織を作る魔法のチームです。企業もクリニックも施設も組織はエンゲージメントで決まると言っても過言ではありません。時代が変わり、働く環境の整備がされるようになった反面、働く人が、組織の中で愛着を持ち、自主的な貢献意欲をもって働いている組織はまだ少ないのが現状です。この、組織や職務との関係性に基づく自主的貢献意欲がエンゲージメントと言われています。このiCPカフェの出会いは楽しくワクワクするもので、今の私の仕事の使命である「看護師を悦びで満たす」ということ、ビジョンに掲げている「看護の価値を高め、看護師がいきいきと働き続けられる環境を提供する」ということに対してヒントをたくさんいただく場となっています。
 これまで私が仕事をさせていただいた病院、クリニック、施設で、看護師が職場の中で、よい関係性を作り、結果を出している組織の共通点は、エンゲージメントが高いということがあります。エンゲージメントの高い組織を創るためには、看護師へのアプローチだけにとどまらず、管理者をはじめとした組織へのアプローチの両輪が必要になるということは言うまでもありません。

3.職員が喜べば患者も喜ぶ


 「職員が喜べば患者も喜ぶ。」「卵が先か鶏が先か」というように、どちらが先かわからない言葉はたくさんありますが、病院やクリニックは、当然、職員が先ですね。患者の満足度調査と職員の満足度調査には相関があることは明らかにされています。では、職員の喜びは何をもって喜びに変わるのか、その喜びはどのようにして作り出すのかという点が、皆さんの関心が高いところだと思います。私が、最近出会った事例から、「喜びはどのようにして作り出すか」を今回出会った事例をもとにお話してみたいと思います。

4.グッド事例からみえるもの


    ウララ歯科クリニック理事長 
   石井 敏裕先生



〈グッド事例のクリニックのご紹介〉
 茨城県土浦市にある、100年続くウララ歯科クリニックをご紹介します。
「年中無休で昼休みなく、患者様に合わせた最適な治療で、いつでも、いつまでも通える安心を提供する歯科クリニック」ですというのがキャッチフレーズで、この言葉の通り、「患者にとっての最もよい治療を一緒に考えていく。あなたの家族だったらどうしたいか」ということを職員に問うのを口癖にしているのは、理事長であられる石井敏裕先生です。まさに掲げている理念を行動化している歯科クリニックです。


〈ウララ歯科クリニック  グッドエピソード〉
 iCPカフェで、iCPの日野さんから常にコア・バリューを意識するための具体についての質問がありました。その時に紹介されたのが、年末年始の救急患者さんのエピソードでした。片方の顔面の痛みと歯の痛みを訴えた患者さんは、1月1日にウララ歯科クリニックに来院することになったのですが、患者さんは12月30日、31日と他の病院を受診しても痛みが続くための受診でした。電話を聞いた石井先生は、症状からすぐに帯状疱疹ではないかと予測したそうです。来院後、歯の治療により、歯の痛みは消失したものの、帯状疱疹の治療をする必要があり、職員は、自ら救急病院に電話をし、その手配をしたそうです。常に「自分の家族だったらどうする」と言われている職員の行動としては当たり前だったのかもしれませんが、石井先生はとても嬉しかったと紹介されました。このように、言葉や文字で、クリニックのコア・バリューを意識することと同時に、グッドエピソードがあった時、それがなぜできたのか、コア・バリューにつなげることができる学習をしているとおっしゃいました。つまり、演繹法だけでなく、具体から抽象につなげる帰納法の学習を取り入れていることが組織の学習につながり、定着した風土を作っていくということになると考えます。
また、ハッピーコールは、演繹的に導かれたサービスです。「すべては患者さんの笑顔のために」という理念から、治療後、痛みの出現が考えられる患者さんに夕方、石井先生から状態確認の電話をされるというエピソードでした。まさに患者さんは、ハッピーで安心感を抱くことにつながるでしょう。


 ここで、コア・バリューという言葉について説明をします。
コア・バリューとは、企業あるいは個人が重要視する「中核となる価値観」を示す言葉で、iCPの定義では、「会社が『社員全員に共通して持っていてもらいたい』と考え、戦略的に定める価値観です。コア・バリューは、言い換えれば、会社の「魂」や「信条」、またそこで働く個人の「考え方」や「働き方」の基盤になるものです」とされています。
 ウララ歯科クリニックはエンゲージメントを重視した組織で、エンゲージメントを高めるために、現場の教育、問題分析、サービスの向上に力を入れています。ウララ歯科クリニックの事例を今日のテーマにつなげると、職員が常に患者のためにと考えることが、患者の喜びと感謝をもたらし、その患者の喜びが職員の喜びにつながる。喜んだ患者さんが患者さんを連れてきてくれ、喜びの循環になるということです。
多くの病院や企業に多いのが、理念、行動指針はあるものの、現場の日常の仕事と結びついていないということがあります。コア・バリューを構築することはとても大切なことですが、コア・バリューを創ればよいというものではありません。iCPの嶋谷さんは、「コア・バリューを創るまでのプロセスが大事なんです。話し合い、分かりあい、そのプロセスを踏んでコア・バリューの構築が生きてきます」と言われます。iCPの魔法というか秘密はここにありそうですね。
 クリニックや、病院の職員、患者さんが喜ぶためには、コア・バリュー以前の組織づくり、コア・バリュー以後の喜びの成功の積み重ねが必要と言えます。

5.成功の循環モデル:理論との統合


 私は現場から学ぶことを大事にしています。しかし、現場の人は、日々、大なり小なりの問題をたくさん振り払いながら、進めていかないと仕事が終わらない状況にあると考えます。そこで、立ち止まる時間がない、忙しい現場で、どのようにしたら、組織の成長をもたらすことができるのか、管理者が何もしなくても成長する方法はないのかと考えてしまします。理論と統合させながら、今日の投稿は終わります。
 これは、有名な、MIT組織学習センター共同創始者のダニエル・キム氏が提唱されたモデル「組織の成功循環モデル」です。

https://hrd.php.co.jp/hr-strategy/od/post-1268.php 


成功循環モデル

 グッドサイクルは、組織を構成するメンバー相互の「関係の質」をまず高めることから始めるアプローチです。「関係の質」を高めるためには、メンバーを理解し、お互いを尊重するプロセスが大事になります。一緒に考えることで、コミュニケーションを促進し、相手の考えに気づき、これをやってみようという共通の目標ができます。つまり、「思考の質」が向上すると、自発的・積極的に行動するようになり、「行動の質」が向上すると、「結果の質」が高まって、「関係の質」がさらに向上するというように、プラスの循環が続いていくと言われています。
 バッドサイクルは、結果を追い求め、目先の業績を向上させようとするところから始まります。そうしたやり方には無理があり、やらされ感の高まりによって「関係の質」が低下します。「関係の質」の低下は、「思考の質」と「行動の質」の低下につながり、自発的・積極的に行動しなくなるので、成果が上がらず、「結果の質」の低下、職場のさまざまな問題の発生というマイナスの循環にはまり込んでしまいます。
 つまり、このモデルが主張しているのは、職場の問題を解決する大前提が「関係の質」の向上であるということを示しています。
 今日のテーマは、よい結果は、よい組織を創る、つまり、職員間の関係性を高めることから始める必要があるということをご紹介しました。さあ、始めましょう。

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