先達はあらまほしきことなり

子供のまま大人になっている。幼少期に叶えられなかった全てが、十数年ずっと、体の奥でどす黒くなって渦巻いている感覚。自由なはずなのに、過去が私の枷になる、言葉が私の檻になる。普通に生きることがどれほど難しくどれほど正しいのか、普通に生きられなかった私は分かっている。

普通って何だろう。皆がしていること?

大学3年生、社会人というネクストステージがグッと身近になった。“普通”の皆は就活に勤しんでいるようだけど、やっと実家という監獄から解かれ自由になった私は、まだ遊びたい盛りの子供なのだ。門限もない、週9日のシフトも、ヒステリーお母さんも、癇癪兄弟もいない、本当の意味で私の人生になった。

私、就活なんてしてる暇じゃないんです。失くした二十年を、癒えない生傷を。

そこで出会う、最強の先達。
好きなもの、夏。
私の人生を全部ぶっ壊す夏休み。

花火100回やったら死のうね。絶対死のう。夏と墓に入るんだ。遠くで打ち上がる花火を見ながら、近くで見たらどれくらいの大きさかなあなんて考えて、星を見て、灰皿にした空き缶を「匂いが残るから」と手に持って車の窓から出して自由の女神になったりとか、手持ち花火5本持ちしたりとか、打ち上げ花火が横向きに引火して死にかけたりとか、そんなことばかりしている。

北竜町まで向日葵を見に行った。曇り、晴れ、曇り、晴れと車窓からの空模様は不安定で、晴れてないとダメなんだと喚きながら、晴れそうな音楽を流して海辺を走った。こういった時だけは将来に対する漠然とした不安など無く、ただ、空が晴れればいいなとぼんやり考えている。山を超えたら急に晴れて、一面の山吹色がそこにあった。閉業時刻までここにいたら向日葵になるらしいからここで死ぬなどと、またくだらないことを呟きながら向日葵の道を歩き続けた。帰りは畑の傍で桃色の夕焼けを見た。

死んだって構わない、今日にでも。

バイクに乗りたいと言ったら乗せてもらえた。前の人の肩しか頼れない恐怖、生身の時速60km。死ぬかと思ったけれど、それ以上に、生きているって感じがした。風って意外と冷たくて、人って意外と死なないらしい。全財産の八割を使って頼んだラーメンはいつもの倍美味しかった気がする。

それから大学の川でスイカを冷やした。川に入るなと書かれた看板の横でピースをしながら川に入った。くだらなくていい、夏だから。でっかいスイカを食べながら、川辺で遊ぶ家族を見た。知らない家族の形だ、なんて超笑えないブラックジョークを言ったら笑ってくれて、少しだけ救われた気持ちになった。あなたのことを、傷を治すために使ってごめんなさい。家に帰ると靴下が少し濡れていた。

浴びるようにお酒を飲んで、ぶつくさと何かを言っていた記憶もある。ずっとバイトばかりでビアガーデンに行ったことが無かった。行こうと言ったら着いてきてくれる人と出会って、私の人生は変わり始めている。ミステリアスクールビューティになりたいと言いながら、グラスなみなみのビールを飲んでガッハッハと笑っていた。後日、ベロベロになって満面の笑みを浮かべている写真が送られてきて、ミステリアスないい女はいなかったですと言われたが、これでいい。

それから札幌記念を見に行って、穴馬好きでしょ?と穴馬新聞を買わされ、まんまと競馬にハマった。酒とタバコとギャンブルを教えてくれる人は大事にすると決めている。ファンファーレが鳴って、演出確定のパチンコみたいなのをみんなで見て、大声で叫んだ。差せ、差せ!当てたんだよ、ノースブリッジとジオグリフまでは。全部川田が悪いよなんて言いながら海に行った。プログノーシス差せよといいながら、浅い浅い石狩の海を進んでいく頼りない背中がアホらしくて笑えた。背景の夕焼けが嘘みたいに綺麗で、なんだか全部許せる気がした。死ぬつもりで行ったのに、笑いながら帰ってきちゃった。波は私のことをさらってくれないけど、先輩はどこまでも連れてってくれますね。海ってあなたのことですか❓

したかったこと全部できて、知らなかったこと全部知って、やりたくないこと全部やらない。わがままファッションガールズモードのファッション抜き。一人では叶わなかった最強の夏の過ごし方。チーム夏は、あと94回花火をするミッションが残っている。

気付けば毎日が人を殺すような夏でした。思い出ばかり増えて安易に死ねなくなってきている。じゃあ明日は何して遊びますか?え?バイト?バイトは休みます。


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