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2024年J2第3節横浜FC-モンテディオ山形「きっかけ」

選択肢一つ

オフシーズンの坂本亘基の山形への移籍には、非常に強い反発があった。「でも僕はこんなもんじゃないです。もっとやれるし、もう一度、価値を証明します。」というコメントに対して、それで移籍するのかと。ここ横浜で証明しないのかと。怒るサポーターもいた。
ただ、彼の意図は理解できる。あれだけ走り回る役目しか与えてもらえないのであるなら、出ようと考えてもおかしくない。監督も続投となれば大幅に戦術を変えないだろう。そうなると自分が本来担ってきたサイドからのドリブルや裏に抜けての突破は我慢しなくてはいけなくなる。山形の渡邉監督の基本サッカーは4-3-3。熊本で坂本が輝いたサイドに持ち場がある。こうして自分に合う環境に移籍することを逃げるという人もいるが、言い訳に出来ない環境に身を置いたともいえる。移籍したから活躍が保証されている訳でもないし、移籍したら移籍元のクラブが昇格してしまうケースもある(臼井幸平とか。彼も昇格できるクラブにと言い山形に移籍にしたが、その翌年横浜がJ1昇格を果たした)。

最近夜はyoutubeやtiktokを見る生活になっている。テレビのリモコンはここ数年触っていない。さすがにtiktokに投稿する程若くはないのでもっぱら見る専ではあるのだが。
山形戦の前夜もtiktokを見ていたら、おすすめに流れてきたのは乃木坂46の「きっかけ」。やはりいくちゃん、いや生田絵梨花の歌の上手いこと上手いこと。アイドルの曲だけれども歌が上手いと、どんな曲なのか調べたくなった。

決心のきっかけは理屈ではなくて いつだってこの胸の衝動から始まる
流されてしまうこと抵抗しながら 生きるとは選択肢たった一つを選ぶこと

乃木坂46「きっかけ」

坂本も最後は条件とか、環境とかサッカーの内容とかそんなのより、降格した時に一番強くそこにいたいと思ったクラブが山形だったんじゃないかな。自分も転職経験があって、残った方がいいか、出た方がいいか。今留まることは現状維持=それは後退だと思い込むように色んなものに目を瞑って衝動的に退職届を書いた。残ろうが移ろうがどちらにしても選ぶ選択肢は一つ。彼はそれを山形に求めた。

思い出を振り切るように

狙ったのか、はたまた偶々戦術を練ったらその結果だったのか、山形の3トップの両翼には、イサカ・ゼインと坂本がスタメンで出場した。ただ彼らの動きは正直芳しくなかった。イサカ・ゼインは武田と福森で前進を許さなかった。局面的には3バックから4バックになってもよいので、イサカのサイドはしっかりと後ろへの誘導を見せておいて、狭くなると右足を使いにくくなるを嫌がるイサカは誘導に乗らずカットインを見せるがここをユーリと3バックでしっかりとカバーした。
坂本のいる右サイドは、それとは違って間合いを詰めて彼のスペースを使って加速するようなドリブルを封じていった。対面する岩武は恩返しを許さぬ鬼気迫るタイトな守備を見せて山形の両サイドを封じ込めた。

山形はサイドバックのビルドアップに難があった。左サイドは、小川が川井を見て縦パスを止めつつ、ここで緩い動きがあると和田さえも飛び出していって高い位置からボールを奪いに行くプレーが何度もあった。低い位置から蹴ってサイドに展開したいが、それはコンセプトから外れるし中盤を使うにしても、小川と和田でプレスが来たときに無理につなごうとするとユーリに回収される。そうなるとここで下げざるをえず、前半から横浜は山形の右サイドバックを機能不全にしてゲームを支配できた。イサカや坂本の思い出すら出てこない程横浜は圧倒していた。

好事魔多し

良い形でゲームを支配していた横浜。それまでも何度かチャンスはあったが、山形GK後藤に防がれていた。この流れは大分戦と同じで、自分たちで迎えたチャンスをフイにし続けると守備がどれだけ抑えても勝ち点は1しか積めない。そういった思いを払拭したのがカプリーニのゴールだった。
左サイドで福森から小川に縦パスが出ると、敵陣深くまで侵入。右サイドから飛び出してきた山根にパス。パスを受けた山根が力一杯振り切ったシュートは明後日の方向に飛んだが、飛んだ先にいたカプリーニが利き足とは逆の右足でシュートを放つと、GK後藤の手に当たり、DFもクリア出来ず山形ゴールに吸い込まれていった。

1-0となった横浜だが、この一連のプレーの中で潰れ役となった森が負傷。一時は治療してプレーを続行するものの最終的には交代となった。前節はガブリエウが芝に足を取られ負傷退場、井上も開幕戦の怪我の影響か前節から欠場をしており、これで開幕戦に出場したセンターライン3人が第3節までに負傷で退くこととなってしまった。森自体にゴールはなかったが、開幕戦から徐々に周りとの呼吸があってきた矢先の負傷交代はチームの戦略に大きく影響するだろう。

代わりに出場した櫻川は森と違った形でボールを収めたいポストプレーヤーで、その体躯を生かしてチームに貢献したいがどうだろうか。チームとしては、櫻川がどの位ボールを収めることができるかで今後変わってくるだろう。櫻川のポストプレーの弱点は、目測が甘くボールを後ろを通過する事が多いことと、収めた次のプレーに意図を感じにくいので周りとの連携を高めたい。

それとやはりこのゲームでも何度か櫻川らしさは見られたがゴールが遠い。まだ何か戸惑っているのか、集中できていないのか。素材は良いので、春が来て萌芽してくれるとよいのだが。

横浜はややディフェンスラインを下げてロングボールに警戒しつつ、山形が後ろでボールを持とうとすると前半のようにプレスをかけてボールを奪いにいった。ショートカウンターがハマっていた。

中野との邂逅

後半アディショナルタイムには、途中出場の中野がカウンターから持ち上がり、カットインして放ったシュートが山形ゴールを捉えて追加点。2-0とし、これでゲームの行方は決まった。
坂本が自分の価値を証明する為に山形に移籍したなら、中野は自分の価値を証明するために横浜に来たと思っている。元祖ヌルヌルドリブラーと言われた彼も既に30過ぎ。そして湘南ではリーグ戦10試合で出場は500分にも満たず、夏以降は補強した選手に押し出されるようにベンチにも入ることができなかった。選手としての賞味期限は切れていないはずだと。

条件はきっと下がるし、まがりなりにもJ1ではなくなる。それでも未来を信じてここに来た。後悔をしたくないから、この道を選んだ。きっかけはこの胸の衝動から始まった。一度きりの人生だ。

決心のきっかけは時間切れじゃなくて 考えたその上で未来を信じること
後悔はしたくない思ったそのまま 正解はわからないたった一度の人生だ

乃木坂46「きっかけ」

これで横浜は勝ち点3を積み重ねて5とした。開幕から2試合連続の引き分けでどうなるかと思われたが3試合目にして勝ち星を挙げることができた。それも攻守ともに意図した戦いを披露した。山形のサイドを抑えることと同時に、そのパスへの起点をプレスによって良いパスを出させなかった。相手選手で何名か欠場はあったのがお互い想定外だったかもしれないが、それでも相手にボールを持たれても怖がらず「持たせている」と割り切ってゲームを運べたのは大きい。ボールポゼッションが結果を決める訳ではない。

ほら 人ごみの誰かが走り出す 釣られたみたいにみんなが走り出す
自分のこと自分で決められず 背中を押すもの欲しいんだ きっかけ

乃木坂46「きっかけ」

開幕から勝ち星がないと不安になるし、みんな立ち止まってしまう。足を止めて何かが過ぎるのを待ってしまう。そうではなくて、一人ひとりが走って汗かいて、ファイトすればみんな背中押されて動き出す。その決心のきっかけはどこにあるのだろう。

決心のきっかけは理屈ではなくて いつだってこの胸の衝動から始まる
流されてしまうこと抵抗しながら 生きるとは選択肢たった一つを選ぶこと
決心は自分から思ったそのまま… 生きよう

乃木坂46「きっかけ」

それは自分たちの中にあるはずだ。この先もきっと辛い道のりがあって、違う道に逸れてしまいがちになるだろうけど、未来を信じること。J2は今年から20チーム編成になった。未来の選択肢は20個あるけど、その中で1位を選ぶことができる場所に横浜が立つ。

決心は自分から思ったそのまま 生きよう。この胸の衝動がそう言ってるんだ。昇格したいと。優勝したいと。

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