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2022年J2第10節横浜FC-ベガルタ仙台「飛ばす」

後半11分だった。手塚の縦パスを小川が落とすと、ボールはサイドに開いていた高木へ。左利きの高木は一旦サイドを駆け上がろうとするが、仙台DFがサイドを締めるアクションをしたことで右足にボールを持ち替えた。利き足とは逆に右足で放ったアーリークロスに合わせたのは、起点になった小川。前節千葉戦でも長谷川のクロスを、小川がディフェンスの間に入り込んでほぼフリーな形で決めたのと同じ形を再現したのだった。相手のディフェンダーを飛ばして裏のスペースを狙ってのクロスボールと、そこを狙って飛び込む阿吽の呼吸がこの逆転ゴールを生んだ。

吹き飛ばされて

前半は仙台のゲームだった。横浜が前からプレッシャーに行くことを受け入れて、皆川、富樫といったターゲットになりやすい2人のFWを目がけてロングボールを入れてボールを支配しようとした。皆川はポストプレーは上手い。しっかりとした守備のブロックからのカウンター。シーズン当初に出場していた中山や遠藤らが不在でこれが仙台が本当に目指しているスタイルかどうかはともかく、横浜はこれに苦戦。前線とディフェンスラインの距離感が悪い。常にバイタルエリアを支配されている感じになる。原崎監督は、大宮の元選手。当時4-4-2と言えば大宮、大宮と言えば4-4-2と言われた伝統のシステムをここで体現している。オーソドックスなスタイルにロングカウンター狙いがはっきりしていた。
横浜は今シーズン初めて2トップでフェリペ・ヴィゼウと小川が組み、3-5-2の布陣でゲームを進めた。ガブリエウを中央に残して手塚はサイドでゲームを組み立てるが、ボールがうまく回らない。重心が後ろのサイドにあり、本来真ん中で舵を取る手塚がこの位置にいると、ボールを差し込むところが少ない。仙台の2人のFWもある程度高さを設定してプレスをして、思ったほど食いつかない。安永がボールをもらっても、長谷川は塞がれている。2トップは抑えられているで、横浜は思った様にボールを運べないでいる。大宮式の4-4-2に苦戦してきたなぁと唇を噛む。自分が噛んだところで何も起こらないけども。

前半18分、イサカ・ゼインがフィールド中央でボールを奪われると、仙台のショートカウンター発動。前掛かりになっていた横浜は守備の陣形が揃う前に、バイタルエリアから仙台・氣田にミドルシュートを放たれる。GKブローダーセンが横っ飛びするも防ぐことは出来ず、ゴールを許してしまう。
ミドルシュートも最近放たれる傾向がある。千葉戦でも見木のミドルシュートもヒヤヒヤさせられているし、水戸戦では森に決められている。対横浜のバイタルエリア攻略として何らか指示があるような気もしている。相手が前を向いた場合の寄せるラインが、横浜は全体的に低いのかもしれない。このシーンも、3バックプラス手塚と選手の数的には同数だが、手塚が交わされるとフリーでミドルシュートを打たれている。詰めると交わされる危険性もあり、ボールホルダーに何が何でも迫るとリスクを高める結果にもなるが、少しミドルシュートに対して甘さを感じている。

先制点を得た仙台は、それ以前にも増してプレッシャーを高めてくる。横浜としては、手塚の位置を真ん中に置き直して対処するが、これも上手くいかない。左利きの手塚としては、ここを視野にいれてボールを動かすのでこの位置で躓かれるとゲームメイクに苦心する。安永のポジショニングも良くなく、後ろから見ているとボールを欲しがる動作をする時には相手選手がカバーをしているか、罠を張っているのを立ち位置や目線、足の向きで感じ取っている。サポーターとしては、「そこ出せるじゃん」と思いがちだが、実際は出すと読まれていてサクッとボールを奪われたり、前を向かせてくれないケースは多々あるので後ろからボールを出す側は、前の選手に修正をいれる。ボールの出し手と受け手のその先のイメージがあっていない。

劣勢を吹き飛ばす

後半頭から横浜は一気に3枚替え。前半終了間際に皆川との接触で負傷したガブリエウを前半のうちに交代させず、ハーフタイムに2人と合わせて交代。この交代の効果がすぐに出る。

後半7分、右サイドでボールを持った中村拓海が裏に走る小川に長いパスを出す。バウンドしたボールが前に転がらずその場でバウンドする。スピンがかかっているから先に転がらない。そのボールをトラップせず落ち際を小川はそのまま左足で叩く。ボールは仙台GKストイシッチの左を抜けてゴールに流れ込む。
これまで左サイドからのクロスや、右サイドからのグランダーでのパスからのゴールが得点パターンだった横浜に新しい引き出しが見られた。マークしていた仙台・若狭が「同じような動きを前半にもしていて、けっこうボールが来ない」と語っていたが、ヴィゼウが動き出してもそこにボールは出てこず一種のダミーとして受け止められていたところが、本当に出てきてワンテンポ遅れてしまったのだろう。
前半で退いたヴィゼウのボールが出てこなかった動きは、横浜側から見るとかみ合ってないと思われたが、それが結果的には後半の小川のゴールにつながるのは何とも皮肉ではある。

ヴィゼウに代わって小川が1トップに入り、伊藤翔が2列目に。山下も右のウィングバックに入ったことで攻撃陣は活性化。2点目は同点弾のたった4分後だった。小川がポストで落としたボールがつながって、小川に戻ってきて彼が決める。交代策がハマりすぎて気持ち悪くなる位会心の逆転弾となった。

横浜はガブリエウに代えて武田をいれ、これで手塚を下げないことで中盤の改善を図る。前半当初は高さを警戒してかガブリエウを真ん中にして手塚を左に下げ、失点後辺りからは手塚を真ん中に置いてビルドアップしたが、上手くいっていなかった。仙台のFWが深追いしに来ないのと、右利きのガブリエウを左に配したことで窮屈になってしまったこと。実質横浜も4-4-2の様な形で優位性を作れないままだった。手塚をビルドアップの際に一列上げることでリスクもあるが、失点して攻めることに重心を置く覚悟ができたのと、彼に食いつけばブロックを剥がせた。相手FWのプレスの高さを見て、ボールの出しどころの高さを変えた好采配だった。

横浜が逆転してからの仙台は勢いがなくなった。デサバトが入って中盤は厚くなったが逆にキレが減り崩されるシーンは減った。カルドーゾには空中戦でも勝てており、中島や名倉が下がってくれたのは横浜にとってむしろ助かっただろう。後半は無失点でゲームを終えた横浜が2-1で10試合無敗を継続。これまでは、アップアップになりながら逃げきるゲームが多かったが、後半楽な気持ちで見ていられたのは久しぶりである。

We're Not Gonna Take It(受け入れられない)

また、この日の高山主審のジャッジにも批判はあるが、前半横浜はそのジャッジに苦しんだが、後半それに対応して競り合いでもプレーを止めなくなった。この日の傾向は、基本的に強度のある接触はファウルにせず、足を出したり手を出したりする小さなものは明確に笛を吹いた。ファウルは、競技規則に書いてあるが実際にその基準を作るのは主審を含めた審判団。それにいかに対応するかも選手の力である。前半仙台に甘いジャッジと見えたのも、強度の高い接触は取らないというだけで、後半横浜の激しいプレスで笛が吹かれないのは理にかなっている。好き嫌いというよりも、癖を理解しておかないといけないだろう。個人的には笛そのものよりも、イエローカードの基準の方がバラバラに感じたものだ。
審判は石ころのようなものだといわれるが、主審に激高して口角泡を飛ばしても何も得をしない。もっと酷い主審を何人も見てきた立場からすると、激高するほどおかしなジャッジではなかった。仙台のチャントで有名な曲「ツイステッド」がある。これはTwisted sistersの「We're Not Gonna Take It」が原曲であるが、意味は「受け入れられない」。でも、主審のジャッジは受けいれて対応していくものである。

順番を飛ばす

このゲームで一番驚きがあったのは、キックオフ前の事。小川航基が水戸戦でJリーグ通算100試合出場のセレモニーがあったが、ここに呼ばれたのは奥様と娘さん。あれ、小川って2021年の大みそかに入籍していたはず。となると、、、順番が。これを飛ばしてしまったみたいで。スタンドも湧いた。

順番なんて関係ないよという声もあるし、実際それで家族内で問題がないとされるのが今の時代。自分もそう思う。

順番を飛ばすという意味では、10戦10ゴールのFWにはわずかに残っている順番を飛ばす可能性に挑戦してもらいたい。そう、今年はワールドカップイヤーである。3月に本大会出場を決めた日本代表は、ここからの数か月が選手たちの生存競争である。現在でも明確なレギュラーと呼べる選手がいないポジションの一つがセンターフォワード。森保代表監督の中ではある程度の序列や枠はあると受け取っているが、それを試してもしっくりきていないのが現状でもある。

本日、夏のE1選手権が日本で行われることがリリースされた。J2の選手が日本代表に選出される可能性は当面低いが、ここから先もずっと様々な形でゴールを重ねていけば無視できなくなる。J2で〇〇ゴールが目標よりも、逆転日本代表入りを目指してほしい。もともと世代別代表で日の丸を背負い、東京五輪のエースストライカーとして期待された選手。日本代表初出場の試合でハットトリックをした選手。彼への期待論が横浜サポーター以外から出ているのも、現状の代表FWへの落胆とこの特筆すべきゴール数から生まれたものだ。J2だからね、なのか、J2でもなのか。一度森保代表監督は見に来てほしい。他の選手の視察の順番を飛ばしてでも。

チームとしてもこれで10試合終わって8勝2分。四方田監督の言葉を借りれば「出来すぎ」ではある。水戸戦あたりの逆転劇はドラマ仕立てとしか思えなかった。でも、まだ1/4終わっただけ。2位の町田とは勝ち点差はたったの8しかない。小川が好調であるが、彼が何らかの事情で抜けた場合得点力は数字上極端に落ちる。ゴール数に対して彼への依存度が高いのが強みでもあり、不安材料でもある。中盤でボールを運んでいた齋藤功佑も負傷で長期の離脱が発表になった。

上記のデータからすると10戦無敗のチームが昇格できなかったのは、50%とある。しかし、その中には5分や6分も含まれているので、2分以下に限ってみると、過去5チーム中4チームが昇格しているので、昇格への可能性は80%。この数字だけでは何とも言えない。勝ち点差をどんどん広げたい。まだまだアクセル全開で飛ばしたい。魔境J2はまだ入口に差し掛かったに過ぎない。


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