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E123: あ、並一つください

今日は38日目です

約25年前、私に妹ができた。
弟の妻、つまり義理の妹である。

弟とは学生時代からの付き合いなので、
学生の頃には、もう実家に遊びに来ていた。

当時からほんわかしていて、話しやすい人ではあったのだが、

弟と結婚してからも、
この頼りない兄を大事にしてくれる、
素敵な人である。

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まだ甥っ子たちが生まれる前の話。

新婚早々、用事で大阪に出た義妹は、慣れない大阪市内で完全に迷子になってしまった。

今なら、スマホを頼りに、目的地に着くことぐらい簡単であるが、まだ携帯なんてない時代、土地勘のないところで、迷うことほど心細いものはなかった…。


「…でね。私、困り果ててしまって」


「仕方ないから、『吉野家』に入ったんです」


「え?どうしてって…。だってね、吉野家だったら必ず誰かいるじゃないですか?」

「で、私が勇気出して入って行ったら、『いらっしゃいませ!』なんて言うんですよ!」

「カウンター越しに、お茶まで出されてしまって…なんとなく私座ったほうがいいのかなと思って…」

源太注:
現在は分かりませんが、私が吉野家のバイト店員だった頃は、「ドアのところから、お客様の姿が見えたら、その時点で、手にはお茶を持ち、お客様の着席と同時にお茶を出すこと」というマニュアルがありました。

吉野家店員 心得

「私、お茶まで出されてしまって、どうしようもなくなって」

「でね、お茶を出された後、その店員さんがずっと私の顔見るんですよー」

「私、困ってしまって、仕方ないからとりあえず
『並一つください』って」

「お金持ってたし、せっかくだから、牛丼食べて、帰ってきました」


「あまりのことに呆然としていたら、店を出た後、道を聞くの、すっかり忘れてたことに気づいたんです…」

「でも、そんなにお腹空いてなかったんですけど、牛丼はとてもおいしかったです!」

「やっぱり牛丼屋に入ったのは、私だし、お茶まで出されると断れなくて、やっぱり食べて帰らないといけないかなと思いまして…」

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この一件以来、私は
義妹を人としてすっかり気に入ってしまった…。

あからもう、四半世紀
月日の経つのは早いね。
いつも大事にしてくれて、ありがとう。
これからもよろしくね。

義兄より

【66日ライラン 38日目】

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