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E122: 橋の下に子どもなんていない


今日は37日目です


「あんたは、橋の下で拾うた子なんや…」 


昭和生まれ、かつ、おもに関西人はこのフレーズを聞いたことがある人もいるだろう。

実は私も(冗談で)言われたことがある。

小さい頃住んでいた場所が、それこそ本当に川の近くで、大きな橋もあったので、そういう言い方がよりリアルに感じられる生育環境ではあった。 

ただ、私の場合は、生まれてすぐ、生死にかかわる大変な状況に陥ったので、そんな冗談など言っていられる場合でもなかった。

小学校とか幼稚園の時には、それなりに本気にしてびっくりしたこともあった。けれど、よくよく考えれば出生時の状況と、辻褄が合わないことだらけで、そんな事はすっかり忘れてしまっていた。


昨日、他の人たちの話を聞いていると、急にこのフレーズが出てきて、ずっと気持ちの奥にしまっていた昔のことを思い出した。



10代後半

ちょっと空想してみたのだ。
何でも空想する少年だから。

(まったく本気にしていなかったが)

もし仮に、
橋の下で、両親が、生まれたての自分を見つけて
拾って、家に持ち帰って
ここまで育ててくれたのだとしたら…

もし仮に、そんな状況だったら…

それこそ、うちの親は天才か偉人ではないか……と。

わざわざ橋の下にパトロールに行ったのだろうか?
そんなヒマな大人はどれぐらいいるのだろう?
ましてや、そこで赤ん坊や幼児を拾う確率はどれぐらいあるのだろう?

家に帰って、母にこの考えを伝えてみると
母はお腹を抱えて笑いだした。

「あんた、変なことばっかり考えてんのね。誰に似たの?」

でも…
なぜ急に、こんなことを母に話したのか。
本当のところを、母は知らない。


10代のある時期、こういう話が、冗談ではできない家庭があることを、私は知った。

親と血縁関係のないことを、あろうことか他人から突然ばらされ、自暴自棄になってしまった人が身近にいたのである…。
状況を知ったところで、当時の自分が何をしてあげられるわけでもなかったけれど…。


自分も子供だったから、つい子供の立場で考えてしまうけれど、それでも、その時ふと、思ったのだ。

子どもが荒れてしまう気持ちもよくわかるけれど、我が子同然に引き取って育てる人って、本当はめちゃくちゃ素晴らしい人たちなんじゃないかな。 
その素晴らしい人たちが、荒れていく子どもを見るのは相当辛かっただろうな。
きっと、双方ものすごく苦しんだのではないかな。

そう考えると、詳しい事は何も知らないただのガキのくせに、なんだかいたたまれない気持ちになったのである。


「あんた、橋の下で拾った」
あれ以来僕は、この冗談に笑えなくなったのである。

だいたい言われた子ども本人は、不安だし、悲しくなるだけで、楽しくもなんともない。

そもそも親の立場で、子どもに向かってこんな悪い冗談は、言わないでほしいのである。

あまりにも、リアルな状況を目にしたら、そんなふうに考えるようになった。

かつて、本当に橋の下に子どもが捨てられていた時代もあったのかもしれない。だとしたら、悲惨な話で、やっぱり冗談で言ってはいけないのではないか。

この冗談は、昔はよく聞いたことだけれど、もし自分に子供ができたら、こんな冗談はやめよう、と固く心に誓ったのである。


そうして、固く誓ったのはいいが
私には実子がいない。

あらら……

【66日ライラン  37日目】

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