見出し画像

E134:なんで謝ってるの?

今日は49日目です


「あの……お客様。先ほどから、なぜそんなに謝ってらっしゃるのですか?」

その店員さんは、穏やかな笑みを浮かべながら、そうやってまっすぐ、私に聞いてきた。

「…………。」

改めて聞かれると、こちらも(なんでだろう?)と考え込んでしまった。そして、ハッとした。

近所のUNIQLO。

試着室で、チノパンの裾上げをしてもらうため
マチ針を打ってもらっていた。

私は超絶足が短い。祖父からの隔世遺伝ってやつか?
つくづく要らぬものを受け継いでしまったものだと思う。

若いころはダボダボっとした服装で、いろいろ着回して、ごまかしていたけれど、おじさんになってからはうまくいかなくなった。

普段は平気なのに、試着室で店員さんにマチ針をうってもらう瞬間が、なんとも気恥ずかしくて、自分でも滑稽なほど、「すみません。お手数をおかけします」を繰り返していた。

裾上げは確かに手間をかけるけれど、それはサービスの一環で、私が悪いわけでもない。

何も謝る必要なんかないのに、なんとなく「短くて、布を無駄にしてゴメン」的なことを思ってしまう自分がいた。

きっと私の奥の奥の方に、「生まれてきてゴメン」と思っていた10代の自分が眠っていて、ふとした瞬間に顔をのぞかせていたのだろう。

「すみません……」か。

そう言えば、その頃、悪くもないのに、無意識によく口から出てきた言葉だった。

このできごとは、今から約10年前のこと。

実は、この店員さんの「素朴な疑問」のおかげで、自分の生き方における重大な問題点に気づいた。

そしていつしか、不要な「すみません」のかわりに
「ありがとう」が、自然に言えるようになった。

最近はオンラインで買うので、こんなやりとりはしなくなったけれど、今なら、ニコッと笑って「ありがとね!」なんて言える気がする…。



今日もズボンを干しながら、ウチのツレが笑った。
「それにしても短いよね……」

あんたねー。今さら言うのナシでしょ!

それに、あのとき聞いたよね?
「ごめんね、オレ、短足だけどいいの?」って。

【66日ライラン 49日目】

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?