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歳時記を旅する48〔雛(二)〕中*雛壇の端に贔屓の洋人形 

 佐野  聰
(平成六年作、『春日』)
 田山花袋『時は過ぎゆく』(大正五年)に、母親を亡くした娘が雛を飾る場面がある。 
 「毎年三月の節句には、お初の残して行つた雛壇が奥の四畳半の薄暗い空気の中に飾られた。(略)下の段にはお初が持つて遊んだ人形だの、十五六になつてから丹念に自分で縫って着せた人形の着物だの、小片の入ってゐる文箱だの、きんからかはの箱だのが一面に並べて据ゑられた。(略)「誰も見るものもないけどもね。目鼻のあるものを藏ひ切りにして置くとわりいつて言ふから、毎年出すけれど……もう古くつて駄目なんだよ。」」
 句はすでに平成の世。着物の雛たちに混じって洋服の人形たちがいる。子供は違和感なく雛の仲間に入れている。

(岡田 耕)


(俳句雑誌『風友』令和六年三月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)



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