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歳時記を旅する

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土生重次とその師系の主宰の句を足掛かりに、季語の現場を時空を超えて訪ねる旅のエッセイ。〔毎月投稿〕
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記事一覧

歳時記を旅する50〔薔薇〕中*蔓薔薇や端から埋まる駐車場 

佐野  聰 (平成六年作、『春日』)  この童話のバラは作者の妻コンスエロがモデルだと…

岡田耕
1日前
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歳時記を旅する50〔薔薇〕前*ことごとく刺す意あらはに薔薇の棘

土生 重次 (昭和五十三年作、『歴巡』) 童話『星の王子さま』(サン=テグジュペリ 一…

岡田耕
9日前
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歳時記を旅する49〔麗か〕中*うららけし窓で商ふ周旋屋 

佐野  聰 (平成七年作、『春日』)  不動産仲介業者は江戸時代から存在した。土地取引には…

岡田耕
1か月前
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歳時記を旅する49〔麗か〕前*うららけし渡しの杭の舫ひ疵

土生 重次 (平成七年作、『刻』) 江戸時代から続く江戸川の「矢切の渡し」は、伊藤佐千夫の…

岡田耕
1か月前
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歳時記を旅する48〔雛(二)〕後*わだつみの風にたゆたひ吊し雛

磯村 光生 (平成十八年・十九年作、『千枚田』)  伊豆の稲取温泉に伝わる雛祭りには、古…

岡田耕
2か月前
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歳時記を旅する48〔雛(二)〕中*雛壇の端に贔屓の洋人形 

 佐野  聰 (平成六年作、『春日』)  田山花袋『時は過ぎゆく』(大正五年)に、母親を亡…

岡田耕
2か月前
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歳時記を旅する48〔雛(二)〕前*昼も灯をともし駅舎の土雛

土生 重次 (昭和五十五年作、『歴巡』)  土雛の起源は京都伏見にある。  伏見人形は江戸時代後期に最盛期を迎えた最も古い郷土玩具。全国で九十種類以上もある土人形のなかで、伏見人形の系統をひかないものはないと言われるほどの土人形の元祖である。当時、伏見街道沿いには、約六十軒もの窯元が軒を連ねたが、現在では寛延年間(一七五〇年頃)創業の窯元、「丹嘉」のみが残る。(「丹嘉」HP)。  丹色に染め抜いた暖簾をくぐると、並べられた人形の中に、雄雛と雌雛が一体となった藤の花柄の着物の

歳時記を旅する47〔浅春〕後*侘助てふ菓子のうす紅春浅し

磯村 光生 (平成五年作、『花扇』) 「和菓子は五感の芸術である」とは、虎屋十六代当主で…

岡田耕
2か月前
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歳時記を旅する47〔浅春〕中*浅春や語尾曖昧に読経終ふ 

 佐野  聰 (平成七年作、『春日』)  「浅春」は「二月ごろ、春になってもまだ寒く、春…

岡田耕
3か月前
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歳時記を旅する47〔浅春〕前*浅春や埴輪の胸に鋲の乳

土生 重次 (平成七年作、『刻』) 古代遺物のうち、縄文時代に土で作られた人の形の焼…

岡田耕
3か月前
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歳時記を旅する46〔左義長〕後*堪へ切れず達磨の転ぶどんどの火

磯村 光生 (俳句雑誌『風友』平成二十七年四月号) どんどの火には、厄病災難を避ける民間信…

岡田耕
3か月前
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歳時記を旅する46〔左義長〕中*左義長の炎の追ひ縋る注連の幣

 佐野  聰 (平成七年作、『春日』)  左義長とは、三本の杖、竹、丸太などを三角形に組み…

岡田耕
4か月前
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歳時記を旅する46〔左義長〕前*炎柱に闇おしよせるどんど焼

土生 重次 (平成十一年作、『刻』)  どんど焼は全国で行われる正月行事。左義長、賽の神、…

岡田耕
4か月前
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歳時記を旅する45〔聖夜菓子〕後*オリオンを見上げつ湯浴む去年今年

 磯村 光生 (平成三年以前、『花扇』) 『新約聖書』では、イエスがベツレヘムで誕生した後、東方の博士たちは、新しい星が見えたときユダヤの新しい王が生れたことが分かりエルサレムに旅する。途中、ヘロデ王に「ユダヤの王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方で、その星を見たので、その方を拝みに来ました。」と尋ねた。 この星がベツレヘムの星で、クリスマスツリーの上に光る星はこれを表している。  ヨーロッパなどでは、クリスマスツリーは、三人の博士たちが幼子イエ