【書かずの書】(随時更新)

あちこちで我が身を切り売りするようなエッセイを書いているが、ある程度は自覚的に、ほとんどの場合は無意識に、「書かずにいること」というのがある。理由もそれぞれである。たとえば、生まれ育った町のことをはっきり書かないのは今も実家がそこにあるからで、小中高12年間過ごした女子校の名前を伏せているのは、未成年の在校生たちに累が及ぶ可能性が高いからである。この辺りはネットリテラシーの基本と言ってよいだろう。

それ以外にも、書きにくくて書かずにいること、というのがある。学生時代にどんなアルバイトをしていたかは書きやすいが、学生時代に何を思ってどんな講義を受けていたかは、書きづらい。出版社時代にどんな本を手がけていたかはどんどん宣伝するが(今度それで文庫解説も書く)、出版社時代に出版業界をどう思っていたかは、書きづらい。

かつて若い頃は、女子校時代のことだってずいぶん言語化しにくかった。こうした「近しい過去」は、時が経ち、自分自身の中できちんと消化されれば、いつかは表側に書けるようになるだろう。面白おかしく脚色しながら、人も羨むような思い出として、描くこともできるだろう。でも、今はまだできない。「どうして『まだ』できないのか」について、考える場所を作ろうと思った。早く消化されればそのぶん早く大人になれるのだから、悪いことではないはずだ。むしろ、自分の中にある躊躇いの正体と向き合ってみたい。

今までのnote記事に書いてきた通り、「ぴかぴかの完成品なら無料で読ませてもいいけれど、グダグダの草稿状態なので課金する」というスタンスで、メモ書き段階で有料公開する。いつかどこかでまとまった原稿になるかもしれない。そのときには以下の内容をまるごと削除することもあるかもしれない。その意味も含めた「随時更新」なので、物好きな方だけ、入場料を支払って静かに観察していただければと思う。

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