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ウェブアクセシビリティについて調べた記録

なぜ書いたのか

アクセシビリティについて、考えたり実施しないといけないことは理解しつつも本腰入れて調べることはしてなかった私。今回、取り組んでいる案件でしっかり向き合う必要が出てきたので、チームメンバーと手分けしてデスクリサーチを行いました。そうして書いたのが本記事です。


そもそもアクセシビリティってなに?

ウェブアクセシビリティ基盤協会のサイト上では以下のように定義されています。

一般にアクセシビリティとは、アクセスのしやすさを意味します。転じて、製品やサービスの利用しやすさという意味でも使われます。
似た意味をもつ言葉にユーザビリティがありますが、アクセシビリティはユーザビリティより幅広い利用状況、多様な利用者を前提とします。
ウェブのアクセシビリティを言い表す言葉がウェブアクセシビリティです。ウェブコンテンツ、より具体的にはウェブページにある情報や機能の利用しやすさを意味します。
さまざまな利用者が、さまざまなデバイスを使い、さまざまな状況でウェブを使うようになった今、あらゆるウェブコンテンツにとって、ウェブアクセシビリティは必要不可欠な品質と言えます。

ウェブアクセシビリティはユーザビリティより幅広い利用状況、多様な利用者を前提とする。つまり、障害者対応に限った話ではないことがわかります。

コンセントのひらくデザイン内の記事「企業サイトのWebアクセシビリティの今とこれから」にはわかりやすく上記の内容が記載されています。


ウェブアクセシビリティの2つの要素

サイボウズさんのspeakerdeckにて、ウェブアクセシビリティの2つの要素について書かれています。

マシンリーダビリティ
- 「機械」にとって解釈しやすいか
- 「機械」が正しく解釈すれば、幅広い表現に変換できる

ヒューマンリーダビリティ
- 「人」にとって、見やすく・操作しやすく・わかりやすいか

コードを触らないデザイナーがまず着手できるのは「ヒューマンリーダビリティ」についてだと思います。が、マシンリーダビリティの側面についても知っておくべきだと思うので、漏れなくインプットすることが良さそう。


ガイドラインの種類

ウェブアクセシビリティのガイドラインは企業独自のものや国が定めているものがありますが、広く使われているものとして以下の3つをよく聞きます。

WCAG 2.0:W3Cの勧告
ISO/IEC 40500:2012:国際規格
JIS X 8341-3:2016:国内規格

ウェブアクセシビリティ基盤委員会のサイト上で以下のように書かれており、3つのガイドラインが完全に統一されることになるそうです。

2004年6月に制定されたJIS X 8341-3は、2010年8月、ウェブアクセシビリティの事実上の国際標準であるW3Cの発行したWeb Content Accessibility Guidelines(WCAG)2.0と協調するよう改正されました。その後、2012年には WCAG 2.0 がそのまま国際規格ISO/IEC 40500:2012となり、2016年3月には、JIS X 8341-3もISO/IEC 40500:2012との一致規格として改正されました。
これにより、WCAG 2.0、ISO/IEC 40500:2012、JIS X 8341-3:2016の3つが全て技術的に同じ内容になり、W3Cの勧告、国際規格のISO、国内規格のJISが完全に統一されることになります。

技術的な内容は同じだとしても、ガイドラインとして多少異なる内容もありました。例えば、WCAG 2.0では「AA」「AAA」とされているレベルの表記が、JISでは「A」「AA」に変換されています。


よくある誤解

ウェブアクセシビリティ基盤委員会のslideshareにおいて、以下のように記載されています

- 障害者のために特別なコトをする
- ウチのWebサイト、高齢者や障害者は使わない
- 色々なボタン / 機能を提供する必要がある
    - 文字サイズ変更ボタン(必須ではありません)
    - 文字色 / 背景色変更ボタン(必須ではありません)
    - 音声読み上げ機能(必須ではありません)
- デザインの見た目がつまらなくなる
- 莫大なコストと時間がかかる(リニューアルのタイミングで行うなど、最小限のコストで抑えられることもあります)

個人的に気になったのが「デザインの見た目がつまらなくなる」点について。私自身はスタイルが得意なデザイナーではないので、見た目がつまらなくなる心配をしたことがないのです。どんな点においてそのように感じるのか、参考までにそう思う方の意見を聞いてみたいと思っています。


ウェブアクセシビリティに取り組む理由

ここまで調べて、ウェブアクセシビリティは加点の要件ではなく、マイナスをゼロにする要件であることがわかってきました。とはいえ、開発メンバー・意思決定者・顧客を巻き込むためにもう少し具体に近い情報が欲しいところ。

Webアクセシビリティセミナー2 なぜ企業はWebアクセシビリティに取り組むのか?のpdfによると、ウェブアクセシビリティに取り組む理由について以下のように触れられています。

Webアクセシビリティに取り組む「攻めの」理由
- 高齢者のインターネット・ネットショッピング利用率増加
- 障害者のインターネット利用率の高さ
- ユーザビリティが向上する
- 指名買いするユーザーが現れる
- 効率よくビジネスを回す下地となる
- 対応しない=見えないコスト流出と同義

Webアクセシビリティに取り組む「守りの」理由
- 海外諸国で進む法律による義務化と訴訟件数増加
- 日本で施行された「障害者差別解消法」
- 総務省 みんなの公共サイト運用ガイドライン

ビヨンセの公式サイトが差別禁止法を根拠に提訴されたケースが印象的でした。例えスピード重視のスタートアップのプロダクトだとしても、グローバル展開を視野に入れている場合は初期段階からウェブアクセシビリティについて検討した方がリスクが低い、という説明のしやすさはあります。
とはいえ、国内外問わず多くのプロダクトにおいてウェブアクセシビリティを考え、適切な対応をしていきたいところ。

長谷川恭久さんの記事に書かれている内容も参考になります

誰でもアクセスできるようになることで、マーケティングファンネルの一番上にある「認知」が広がるでしょうし、セールスまでの過程もスムーズになるかもしれません。ただそれは、仮説というより全体的に言える展望に近いものだと思っていて、それではビジネスへの具体性が弱い状態です。
ここで言う「ビジネス」とは、売上に留まる話ではありません。ブランド価値や顧客満足度の向上も含まれています。アクセシビリティが儲かる・儲からないという枠組みだけで話をすると限界があると思っていて、異なる角度からビジネス貢献を考えるのも手段だと考えています。例えば以下のようなことも含まれています。
- エラーの見せ方を工夫して、お問い合わせ数を減らす
- ソーシャルメディアから聞こえるお客様の声の変化を調査
- 今まで取りこぼしていたデバイスからのアクセスの仕方の変化
- メタデータを整備して、サイトへの窓口を増やす

さらに、freee Debeloper Blog内の記事にて、freeeでは、ミッションとビジョンを実現するための取り組みの1つにアクセシビリティがあると取り上げられていました。個人的には取り組む理由としてかなり納得度高いです。


JIS X 8341-3:2016の各項目サマリ

JIS X 8341-3:2016 達成基準 早見表をもとに、各項目を紹介します。とても簡略化しているため、詳細についてはガイドラインを確認いただくのをお勧めします。

1 知覚可能

1.1 代替テキスト

すべての非テキストコンテンツが、テキストでも利用可能であるようにする。「テキスト」とは、文字画像ではなく、電子テキストを指す。電子テキストには、提示中立であるという類を見ない利点がある。すなわち、テキストは、視覚的、聴覚的、触覚的、又は任意の組み合わせによってレンダリング可能だということである。結果として、電子テキストでレンダリングされる情報は、利用者のニーズを最もよく満たすどのような形態であれ提供可能なのである。テキストはまた、容易に拡大する、読字障害のある利用者にとっても理解しやすい形で音声読み上げをする、利用者のニーズを最もよく満たす触覚形式でレンダリング可能である。

1.1.1 非テキストコンテンツ A
非テキストコンテンツにより伝達される情報を、テキストによる代替を用いることによってアクセシブルにする。
例えば、写真を見ることのできない利用者は、合成音声を用いてテキストによる代替を読み上げさせることができる。また、音声ファイルを聞くことができない利用者は、テキストによる代替を表示させることで、読むことができるようになる。

1.2 時間依存メディア

時間の経過に伴って変化する、同期したメディアへのアクセスを提供する具体的には、次のようなメディアがある:
- 音声しか含まない
- 映像しか含まない
- 音声と映像を含む
- インタラクションを組み合わせた音声と映像、又は音声あるいは映像のどちらかを含む
コンテンツ制作者が、そのコンテンツにはどの達成基準が適用されるのかを素早く容易に判断できるように、各達成基準が適用されるメディアの種類をその簡潔な名前で示している。

1.2.1 音声だけ及び映像だけ(収録済み) A
収録済の音声しか含まないコンテンツ及び収録済の映像しか含まないコンテンツの伝える情報を、すべての利用者が入手できるようにする。テキストは利用者のニーズに合った、あらゆる感覚モダリティ (例えば、視覚、聴覚、又は触覚) を通じてレンダリング可能であるため、時間依存メディアの代替は、情報をアクセシブルにする。

1.2.2 キャプション(収録済み) A
ろう又は難聴の利用者が、同期したメディアによる提示を見られるようにする。キャプションは、音声トラックを通じて利用可能なコンテンツの一部を提供する。キャプションは、会話を含むだけでなく、誰が話しているのかも特定し、意味のある効果音を含む、音声によって伝えられている非音声情報も含む。

1.2.3 音声解説又はメディアに対する代替コンテンツ(収録済み) A
全盲又は視覚障害のある利用者に、同期したメディアによる提示にある視覚的な情報へのアクセスを提供する。2つのアプローチについて説明しているが、いずれかを使用できる。
1. 映像コンテンツの音声解説を提供する
2. 同期したメディア (視覚と聴覚の両方) のすべての情報をテキスト形式で提供する

1.2.4 キャプション(ライブ) AA
ろう又は難聴の利用者がリアルタイムの提示を見られるようにする。キャプションは、音声トラックを通じて利用可能なコンテンツの一部を提供する。キャプションには、会話を含めるだけでなく、誰が話しているのかも特定し、そして、効果音及びその他の重要な音声を表記する。

1.2.5 音声解説(収録済み) AA
全盲又は視覚障害のある利用者に、同期したメディアによる提示にある視覚的な情報へのアクセスを提供する。音声解説は、映像部分が利用できない場合に、必要とされる情報を持つその提示の音声部分を増強する。会話の切れ目の間に、音声解説は、重要かつ主音声では説明又は話されていない、動き、登場人物、シーンの変化、画面上の文字に関する情報を提供する。

1.3 適応可能

例えば、音声で読み上げたり、より単純なレイアウトで提示したりというように、すべての情報をすべての利用者が知覚できるように提供する。すべての情報が、ソフトウェアによって解釈できる形式で利用可能な場合、情報を様々な方法で (視覚的、聴覚的、触覚的など) 利用者に提示できる。構造及び情報が支援技術経由でプログラムによる解釈ができないような、特定の提示で情報が埋め込まれる場合、その情報は、利用者が必要とするその他の形式でレンダリングできない。

1.3.1 情報及び関係性 A
視覚的又は聴覚的な体裁によって暗に伝えられている情報及び関係性を、その提示形式が変わったときにも保つようにする。例えば、コンテンツがスクリーンリーダーによって読み上げられたり、コンテンツ制作者が提供するスタイルシートがユーザスタイルシートに置き換えられたりしたときには、提示形式が変わる。

1.3.2 意味のある順序 A
コンテンツの意味を理解するのに必要な音声読み上げの順序を保ちながら、ユーザエージェントがコンテンツの代替表現を提供できるようにする。意味のあるコンテンツの少なくとも一つの順序がプログラムによる解釈が可能であることが重要である。この達成基準を満たしていないコンテンツは、支援技術がそのコンテンツを正しくない順序で読み上げたり、代替スタイルシート又はその他の書式変更が適用されたりしたときに、利用者を困惑あるいは混乱させてしまう恐れがある。

1.3.3 感覚的な特徴 A
形又は大きさを知覚できない、もしくは空間的な位置又は方向に関する情報を利用できない場合でも、すべての利用者がコンテンツを利用するための指示にアクセスできるようにする。コンテンツによっては、コンテンツの構造からは入手できない対象の形又は位置の知識 (例えば、「円いボタン」又は「右のボタン」) に依存していることがある。障害のある利用者は、使用している支援技術の性質のために、形又は配置を知覚できないことがある。このような情報に依存しているあらゆるものを明確にするために、補足の情報を提供する。

1.4 判別可能

いくつかのガイドラインは、代替フォーマットで提示できる形式で情報を利用できるようにすることに焦点をあわせているが、このガイドラインは、デフォルトの提示を障害のある利用者にとってできる限り知覚しやすくすることに関心がある。利用者が前景の情報と背景とを区別しやすくすることに主な焦点を置いている。視覚による提示の場合は、これは背景の上に提示されている情報とその背景とのコントラストを十分に確保しているかどうかを確認することを意味する。音声による提示の場合は、これは前景音が背景音よりも十分に大きいかどうかを確認することを意味する。視覚及び聴覚に障害のある利用者は、前景と背景の情報を区別することがはるかに困難である。

1.4.1 色の使用 A
色の違いによって伝えられている情報、言い換えれば、それぞれの色には割り当てられた意味があり、その色を使うことによって伝えている情報に、すべての利用者がアクセスできるようにする。画像 (又は、その他の非テキスト形式) で色の違いによって情報を伝えている場合、色覚異常の利用者はその色が分からないかもしれない。この場合、色で伝えている情報を他の視覚的な手段で提供することで、色の分からない利用者もその情報を知覚できる。

1.4.2 音声の制御 A
スクリーンリーダーを使用している人は、同時に他の音声が再生されている場合、スクリーンリーダーによる読み上げ音声が聞き取りづらくなる。スクリーンリーダーの読み上げ音声が、(今日ではほとんどがそうであるように) ソフトウェアをベースにしたもので、システム全体と同じ音量コントロールによって制御されていると、この状況はさらに悪化する。そのため、利用者が背景音の再生をオフにできることが重要。

1.4.3 コントラスト(最低限レベル) AA
(コントラストを強化する支援技術を使用していない) 中度のロービジョンの人がテキストを読めるように、テキストとその背景との間に十分なコントラストを提供する。読解力で評価すると、色覚異常ではない人にとって、色相及び彩度は文字の読みやすさにほとんど又は全く影響がない (Knoblauch et al., 1991)。色覚異常は、輝度コントラストに多少の影響を及ぼす可能性がある。したがって、WCAG 2.0 勧告では、色覚異常の人でもテキストと背景との間の適切なコントラストを持つように、色が主要因とならないような方法でコントラストを算出している。

1.4.4 テキストのサイズ変更 AA
テキストベースのコントロール ([ASCII などのデータ形式であるテキスト文字に対して] 視覚的に見ることができるように表示された文字) を含む視覚的にレンダリングされたテキストを、例えば画面拡大ソフトのような支援技術を使わずに軽度の視覚障害のある人が、そのまま読むことができるように保証する。利用者はウェブページ上のすべてのコンテンツを拡大することでメリットを得ることができるが、テキストは最も重要。

1.4.5 文字画像 AA
テキストによる特定の視覚的な提示を必要とする人が、必要に応じてテキストによる提示を調整できるように、所望のデフォルトの視覚的提示を達成できる技術をコンテンツ制作者に推奨する。テキストに、特定のフォントサイズ、前景色及び背景色、書体、行間、又は配置を必要とする人を含む。


2 操作可能

2.1 キーボード操作可能

すべての機能がキーボードを用いて実現できる場合、キーボードの利用者、(キーボード入力を生成する) 音声入力、(オンスクリーンキーボードを使用する) マウス、及び出力として疑似的なキーストロークを生成する様々な支援技術により、その機能を実現できる。キーボード入力が時間に依存しない限り、この柔軟性がある、又はあまねくサポートされる、及び様々な障害のある人が操作可能な入力形態は他にはない。
汎用キーボードの入力を提供することは、他の入力方法をサポートしないほうがよいという意味ではないことに留意すること。最適化された音声入力、最適化されたマウス/ポインタ入力なども好ましい。鍵となるのは、キーボードによる入力及び制御も同時に提供することである。

2.1.1 キーボード A
可能な限り、コンテンツをキーボード又は (代替キーボードが利用できるような) キーボードインタフェースで操作ができるようにする。コンテンツがキーボード又は代替キーボードで操作できるとき、(目と手の協調運動を必要とするマウスのようなデバイスを使用できない) 全盲の人にも、代替キーボード又はキーボードエミュレータの機能を果たす入力デバイスを使用しなければならない人にも操作できる。キーボードエミュレータには、音声入力ソフトウェア、息操作ソフトウェア、オンスクリーンキーボード、スキャニングソフトウェア、そして様々な支援技術及び代替キーボードが挙げられる。ロービジョンの人はまた、ポインタを目で追うのが困難なことがあり、キーボードからソフトウェアを操作できる場合、ソフトウェアの使用がはるかに容易になる (又は、単に使えるようになる)。

2.1.2 キーボードトラップなし A
コンテンツが、ウェブページ上のコンテンツのサブセクション内で、キーボードフォーカスを「トラップ」しないことを確実にするためのものである。これは、複数のフォーマットが 1 ページ中に組み合わされ、かつ、プラグイン又は埋め込みアプリケーションを使用してレンダリングされるときによく起こる問題である。

2.2 十分な時間

障害のある多くの利用者は、大多数の利用者よりもタスクを完了するのにより多くの時間を必要とする。障害のある利用者は、身体的に反応するのにより時間がかかることがある、何かを読むのにより時間がかかることがある、ロービジョンのために何かを見つけたり読んだりするのにより時間がかかることがある、又は、より時間を要する支援技術によってコンテンツにアクセスすることがある。このガイドラインは、利用者が個別の反応時間でコンテンツに要求されるタスクを完了できるようにすることに焦点を当てている。主なアプローチは、制限時間を取り除くこと、又はタスクを完了するために十分な追加時間を利用者に提供することを挙げている。これが不可能な場合に対する例外が提供されている。

2.2.1 タイミング調整可能 A
障害のある利用者がウェブコンテンツを操作するのに十分な時間の提供を、可能な限り保証する。全盲、ロービジョン、巧緻性障害、及び、認知能力の低下している利用者は、コンテンツを読んだり、オンラインフォームに記入したりするような操作を実行するのに、より長い時間を必要とする場合もある。そのため、ウェブコンテンツの機能が時間の経過に依存している場合、制限時間内に必要な操作を実行することが困難な利用者もいるだろう。このことは、サービスをそういった利用者に対してアクセシブルではないものにしてしまう。そこで、機能を時間の経過に依存しないように設計することで、障害のある利用者がその操作を完了させやすくなる。制限時間を解除する、制限時間の長さを調整する、又は時間切れになる前に制限時間の延長を要求する、といった選択肢を提供することは、作業を無事に終えると見込まれているよりも多くの時間を必要とする利用者の助けになる。これらの選択肢は、利用者にとって最も有用なものから順に書かれている。時間切れになる前に制限時間の延長を要求できるようにすることよりも、制限時間の長さを調整できるようにすることのほうが望ましく、さらにそれよりも制限時間を解除できるようにすることのほうが望ましい。

2.2.2 一時停止、停止及び非表示 A
利用者がウェブページとやりとりしている間、他の事に注意をそらされないようにする。
「動き、点滅、スクロール」は、目に見えるコンテンツが動きの感覚を伝えているコンテンツのことを指している。一般的な例は、動画、同期したメディアによる提示、アニメーション、リアルタイムのゲーム、スクロールする株価表示などがある。「自動更新」は、あらかじめ設定された間隔で更新したり、消えたりするコンテンツのことを指している。一般的な時間依存コンテンツは、音声、自動的に更新される天気情報、ニュース、株価更新、及び自動進行する提示やメッセージなどがある。動き、点滅、スクロールするコンテンツ及び自動更新するコンテンツに対する要件は、次のものを除いて同じである:
- コンテンツが自動的に更新される際に、コンテンツ制作者が利用者に更新頻度を制御する手段を提供するという選択肢がある。
- 5秒間だけ自動更新をして、その後に停止するのはほとんど意味がないので、自動更新には5秒という例外はない。

2.3 発作の防止

発作性障害のある利用者は、閃光を放つ視覚的なコンテンツによって発作を引き起こすことがある。ほとんどの利用者は、発作が起こすまでは自分がこの疾患を持っていることに気づかない。1997 年に、日本でテレビのアニメ番組が 700 人以上の子どもたちを病院に搬送させる事態を招き、そのうち約 500 人が発作を引き起こした。特に、警告を実際に読むことができない子どもの利用者に警告はよく見逃されるので、その警告はあまり効果がない。

2.3.1 3回のせん(閃)光、又はしきい(閾)値以下 A
利用者が光感受性による発作を引き起こすことなく、サイト上のすべてのコンテンツを利用できるようにする。
光感受性による発作性障害のある人は、特定の周波数で数回以上の閃光を放つコンテンツによって発作を引き起こす恐れがある。人間は他の色よりも赤色の閃光に対してさらに敏感であるため、彩度の高い赤色の閃光に対して特別な試験方法が提供されている。このガイドラインは、コンピュータの画面にも適合するような、放送業界向けのガイドラインに基づいている。そこでは、コンテンツがより近い距離で (より大きな視角を用いて) 閲覧される。

2.4 ナビゲーション可能

利用者が必要とするコンテンツを見つけるのを助け、自分の現在位置を把握できるようにする。このタスクは、多くの場合障害のある人にとってはより困難である。検索、ナビゲーション及び位置確認のために、利用者が現在位置を知ることができることが重要である。ナビゲーションのために、考えられる行き先に関する情報が利用可能になっている必要がある。スクリーンリーダーは、コンテンツを合成音声に変換する。合成音声は音声であるため、線形順序で提示されなければならない。このガイドラインの達成基準では、スクリーンリーダーの利用者がコンテンツをうまくナビゲートできるようにするために、どの条項に対応する必要があるのかを説明しているものがある。他のものは、利用者がナビゲーションバー及びページの見出しをより容易に認識できるようにし、この繰り返されるコンテンツをスキップできるようにする。 見慣れないユーザインタフェースの機能又はふるまいは、認知障害のある人を混乱させることがある。

2.4.1 ブロックスキップ A
コンテンツを通して順を追ってナビゲートする人に対して、ウェブページの主たるコンテンツへより直接的なアクセスをできるようにする。ウェブページ及びウェブアプリケーションには、他のページ又は画面でも現れるコンテンツがしばしばある。コンテンツの中で繰り返されているブロックの例には、ナビゲーションリンク、見出しのグラフィック、及び広告のフレームなどを含むが、これに限定されるものではない。個々の単語、フレーズ、又は単独のリンクなどの小さな繰り返されるセクションは、この達成基準が意図するブロックとはみなされない。

2.4.2 ページタイトル A
各ウェブページにその内容を示すページタイトルを付けることによって、利用者がコンテンツを見つけやすく、自分の現在位置を確認しやすくする。タイトルは、ページのコンテンツを読んだり解釈したりすることを利用者に要求することなしに、現在位置を特定する。タイトルがサイトマップ又は検索結果のリストに表示されたときに、利用者は自分の求めているコンテンツをより素早く確認できるようになる。ユーザエージェントは、利用者がそのページを確認できるように、ページのタイトルを容易に見つけられるようにする。例えば、ユーザエージェントは、そのページタイトルをウィンドウのタイトルバーに表示するか、又はそのページを表示しているタブの名前として表示する。

2.4.3 フォーカス順序 A
利用者がコンテンツ内を一つずつ順を追いながら行き来している際に、キーボードにより操作可能な順序でコンテンツの意味に添って、情報と出会うようにする。このことにより、利用者のコンテンツに対するメンタルモデルを一貫したものとし、利用者が困惑する可能性を引き下げる。コンテンツの論理的な関係性を反映した異なる順序になることもある。例えば、テーブルのある行又は列にある構成要素内を一度に移動する際には、行を移動する際も列を移動する際もコンテンツにおける関係性を反映した順序になる。どちらの順序もこの達成基準を満たすことができる 。

2.4.4 リンクの目的(コンテキスト内) A
利用者がリンクを辿りたいかどうか決めることができるように、各リンクの目的を理解することを助ける。可能な限りいつでも、追加のコンテキストを必要とせずに、リンクの目的を特定するリンクテキストを提供すること。支援技術は、ウェブページにあるリンクの一覧を利用者に提供することができる。可能な限り意味を持たせたリンクテキストは、このリンクの一覧から選択したい利用者の助けとなる。意味のあるリンクテキストはまた、リンクからリンクへと Tab キーで移動したい利用者にとっても役に立つ。意味のあるリンクは、ページを理解するために複雑な戦略を必要とせずに利用者が辿るリンクを選択するのに役立つ。

2.4.5 複数の手段 AA
利用者が自分のニーズに最も合う方法によってコンテンツを見つけることができるようにする。コンテンツを見つける手段が複数あれば、利用者は、自分にとって使いやすい又は分かりやすい手段を選ぶことができる。

2.4.6 見出し及びラベル AA
ウェブページにどんな情報があるのか、及びその情報がどのように構成されているのかを、利用者が理解するのを手助けする。見出しが明快かつ内容が分かるように記述されている場合、利用者は自分の探している情報をより容易に見つけることができ、コンテンツ内の様々な部分間の関係をより容易に理解できる。内容が分かるように記述されているラベルは、利用者がコンテンツ内にある特定のコンポーネントを識別するのに役立つ。

2.4.7 フォーカスの可視化 AA
キーボード フォーカスを持っている要素を利用者が認識しやすくする。
この達成基準の意図は、複数の要素のうち、どの要素がキーボード フォーカスを持っているか利用者が認識しやすくすることである。スクリーン上にキーボード操作可能な要素が一つだけある場合には、視覚的にはキーボード操作可能な要素を一つだけ提示するため、達成基準が満たされることになる。


3 理解可能

3.1 読みやすさ

利用者及び支援技術がテキストのコンテンツを読み取りを可能にし、理解するために必要な情報が利用可能であることを保証する。

3.1.1 ページの言語 A
ユーザエージェントがテキスト及びその他の形式の言語学上の言語によるコンテンツを正しく提示するために必要なウェブページの情報を、コンテンツ制作者が提供することを保証する。支援技術と従来のユーザエージェントはともに、ウェブページの言語が識別されるとき、テキストをより正確に描画することができる。スクリーンリーダーは、正しい発音規則を読み込むことができる。ビジュアルブラウザは、文字や書体を正しく表示することができる。メディアプレーヤーは、キャプションを正しく表示できる。結果として、障害のある利用者がコンテンツをより理解できるようになる。

3.1.2 一部分の言語 AA
ユーザエージェントが、複数の言語で書かれているコンテンツを正しく提示できるようにする。これにより、その言語の提示規則および発音規則に従ってコンテンツをユーザエージェントおよび支援技術に提示することが可能になる。これは、スクリーンリーダー、点字ディスプレイ及びその他の音声ブラウザだけでなくグラフィカルブラウザも適用される。

3.2 予測可能

ウェブページからウェブページへの予測可能なコンテンツの順序を提示することによって、及び機能的でインタラクティブなコンポーネントの動作を予測可能にすることによって、障害のある利用者を支援する。利用者がウェブページ全体の概観を把握するのが困難なことがある。例えば、スクリーンリーダーは、合成音声の 1 次元のストリームとしてコンテンツを提示するため、空間的な関係性を理解しづらくする。認知能力が低下した利用者は、コンポーネントがページによって異なる場所に表示される場合に混乱することがある。

3.2.1 フォーカス時 A
訪問者がドキュメント内をナビゲートする際に、機能が予測可能であることを保証する。フォーカスを受け取ったときにイベントを起動することのできるすべてのコンポーネントは、コンテキストを変化させてはならない。コンポーネントがフォーカスを受け取ったときにコンテキストを変更する例には、次のものがあるが、これに限定されない:
- コンポーネントがフォーカスを受け取るときにフォームが自動的に送信される。
- コンポーネントがフォーカスを受け取るときに新しいウィンドウを開く。
- コンポーネントがフォーカスを受け取るときにフォーカスが別のコンポーネントに変更される。

3.2.2 入力時 A
データ入力又はフォームコントロールの選択の結果を予測可能にする。ユーザインタフェース要素の設定を変更すると、コントロールの状態を変化させ、その状態は利用者がそのユーザインタフェース要素とのやりとりを終了した後も持続する。つまり、チェックボックスを選択する、テキストフィールドにテキストを入力する、又はリストコントロールのオプションを選択すると、コンポーネントの設定を変更するが、リンク又はボタンを動作させるときはそうはならない。コンテキストの変化は、その変化を知覚しづらい利用者、又は変化によって気を取られやすい利用者を混乱させてしまう恐れがある。コンテキストの変化が起こってもよいのは、そのような変化が利用者の操作に反応して起こることが明らかなときだけである。

3.2.3 一貫したナビゲーション AA
ウェブページ一式の中で繰り返されるコンテンツと情報のやりとりをし、特定の情報又は機能を複数回にわたって探す必要がある利用者のために、一貫した提示及びレイアウトの使用を促進する。一度に画面のごく一部を表示する画面拡大ソフトを使用しているロービジョンの人は、繰り返されるコンテンツの位置を素早く探すために、しばしば視覚的な手がかり及びページの境界線を用いる。同じ順序で繰り返されるコンテンツを提示することは、繰り返されるコンテンツを探すためにデザイン内の空間記憶又は視覚的な手がかりを用いる使用する画面を見ている利用者にとっても重要である。

3.2.4 一貫した識別性 AA
ウェブページ一式で繰り返して表示される機能的なコンポーネントを一貫して識別できるようにする。ウェブサイトを操作する際にスクリーンリーダーを使用している利用者は、複数のウェブページで使われている機能に馴染みがあるかどうかに大きく依存している。全く同じ機能が、複数のウェブページ毎に異なるラベルを付けられている場合、そのウェブサイトはかなり使いづらいものになってしまう。それは、認知的限界のある人々に混乱をもたらし、認知的負荷を増大させてしまうことがある。したがって、一貫したラベルが役立つ。

3.3 入力支援

誰でもミスをすることがある。しかし、ある種の障害のある人は、エラーを起こさずに入力するのがより困難である。さらに、エラーを起こしたことに気づきにくいこともある。視野が限られている、色の知覚に制限がある、又は支援技術を使用しているという理由で、エラーを指摘する一般的な方法が障害のある利用者には分かりにくいことがある。このガイドラインは、重大な又は元の状態に戻すことのできないエラーの数を減らして、利用者がすべてのエラーに気づけるようにするとともに、エラーを修正するにはどうすればよいかを利用者が分かるようにしようとするものである。

3.3.1 エラーの特定 A
利用者がエラーの発生に気づき、何が誤っていたのかわかるようにする。エラーメッセージは、できる限り具体的なものであるべきである。フォームの送信がうまくいかなかった場合に、フォームを再度表示して、エラーになっているテキストフィールドを示すだけでは、エラーの発生を知覚して気がつくに不十分な利用者もいる。例えば、スクリーンリーダーの利用者は、エラー表示が読み上げられるまでは、エラーがあることに気づかない。単にそのページがうまく動作しないのだと考えて、エラーが発生していることに気づく前に、スクリーンリーダーの利用者はそのフォームを使うこと自体をあきらめてしまうかもしれない。WCAG 2.0 での定義より、「入力エラー」とは利用者が提供した情報で、受け付けられないものである。以下のものが含まれる:
- ウェブページでは必須とされているが、利用者が入力を省略した情報、又は
- 利用者が入力したが、要求されたデータ形式あるいは値ではない情報

3.3.2 ラベル又は説明 A
どのような入力データが期待されているのかを利用者が理解するように、フォーム内のコントロールを識別するための説明文又はラベルをコンテンツ制作者が配置する。特に一般的なフォーマットではない場合、又は正しい入力のための特定のルールがある場合、入力欄のデータフォーマットを説明文又はラベルで明示してもよい。特に説明が長く詳細である場合、個々のコントロールがフォーカスを受け取ったときだけそのような説明文を利用者が利用できるように作ることをコンテンツ制作者は選択してもよい。

3.3.3 エラー修正の提案 AA
可能であれば、利用者が入力エラーを修正するのに適切な修正方法を入手できるようにする。「入力エラー」の WCAG 2.0 での定義は、システムによって「利用者が提供した情報で、受け付けられないもの」であるとされている。受け付けられない情報の例には、必須だが利用者によって省略された情報や、利用者によって提供されたが、必要なデータ形式や許容値の範囲外である情報が含まれる。

3.3.4 エラー回避(法的、金融及びデータ) AA
障害のある利用者が、元の状態に戻すことのできない動作を実行するときのミスによる深刻な結果を回避するのを助ける。例えば、払い戻し不可の航空券の購入、又は証券取引口座での株購入の注文は、重大な結果につながる金銭的な取引である。利用者が発着日を間違えれば、その利用者は交換できない誤った日付の航空券を購入したことになってしまう。利用者が購入する株式の数を間違えると、意図した数よりも多くの株式を購入したことになってしまう。どちらのミスも、すぐに処理される取引であり、後から変更することはできないものであり、また非常に高価である。同様に、旅行サービスのウェブサイトにある旅行履歴のように、後からアクセスする必要のあるデータベースのデータを無意識に修正又は削除してしまった場合、そのエラーは回復不能なことがある。「利用者が自分で制御可能な」データの変更又は削除を参照する場合、この達成基準の意図は、ファイル又はレコードの削除のようなデータの大量損失を防ぐことである。保存のコマンド又は、ドキュメント、レコード、もしくはその他データの単純な作成もしくは編集に対して、確認を必要とすることを意図するものではない。


4 堅ろう

4.1 互換性

現在及び将来のユーザエージェントの互換性、特に支援技術との互換性をサポートする。これは、1) コンテンツ制作者が支援技術の機能を損なったり (例: 形式が整えられていないマークアップ)、又は支援技術を回避したり (例: 奇抜なマークアップ又はソースコードを用いる) しないことを保証する、2) 支援技術が認識して情報のやりとりができる標準的な方法でコンテンツにある情報を公開することの両方で達成できる。技術の変化は早く、支援技術の開発者が急速に変化する技術に追従していくことは大きな困難を伴うので、支援技術が容易に新しい技術にも対応していけるように、コンテンツが規則に従っていて API との互換性が確保されていることが重要である。

4.1.1 構文解析 A
支援技術を含むユーザエージェントが、コンテンツを正確に解釈して解析できることを確実にする。コンテンツをデータ構造に解析できない場合、別のユーザエージェントはそのコンテンツを異なって提示するか、又はコンテンツを全く解析できないかもしれない。ユーザエージェントの中には、不適切なソースコードのコンテンツを描画するために「修復技術」を用いる。

4.1.2 名前(name)、役割(role)及び値(value) A
支援技術がコンテンツにあるユーザインタフェース コントロールの状態に関する情報を収集し、有効化 (又は設定) 及び最新の状態を保つように保証する。アクセシブルなウェブコンテンツ技術の標準コントロールを使用する場合、このプロセスは簡単である。ユーザインタフェース要素が仕様に準じて使用される場合、この条件に条項は満たされる。(下記の達成基準 4.1.2 の事例を参照のこと)

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