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タンポポの根っこ

道端に生えているタンポポ。根っこから引き抜こうとするが、なかなか抜けない。まわりの土を掘る。まだまだ深そうだ。そのまま引き抜けば、途中で千切れてしまう。少しずつ掘り進めていく。このタンポポに、どれだけの根っこが広がっているのだろうか。そんなことを考える。

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自分の考えが伝わらないことがある。そうしたときは伝わるまで言葉を続ける。それでも伝わらない。相手はくみ取ろうとしてくれるが、伝わらない。どうしてだろうか。話し方が下手だから。語彙が少ないから。いや、そうではない。理由は簡単。考えが曖昧なだけ。

話し方を変えたり、言い回しを変えたりしても、何も変わらない。問題があるのは考えそのものだから。そんなこと、話しているときに気づきそうだが、気づかない。いや、気づかないふりをしている。自分の考えが曖昧なことに。自分の意見がないことに。

考えは、経験や知識から生まれる。とくに本から得られるものは多い。好きな作家であればなおさら。読んだ本の数だけ、自分の考えが形成されていく。しかし、その考えの根本を理解せずに、表面だけを受け取ってしまえば、どこかに矛盾が生じる。その矛盾が、曖昧な自分をつくりあげ、曖昧な考えを吐き出させる。いくら感銘を受けた言葉を借りても、矛盾だらけの曖昧な言葉は伝わらない。

自分の考えを伝えるためには、これまで曖昧に受け取ってきた考えを、言葉の一つひとつから疑ってみる。言葉の表面ではなく、根っこの部分をじっくりと見つめること。その過程が根本の理解を深めていき、その理解が自分をつくりあげる。そこから生まれる言葉は、相手だけでなく、自分自身にも伝わる言葉となる。

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いったいどこまで続いているのだろうか。なかなかしぶとい根っこを千切らないように掘り進めていく。まだ根っこの先が見えないが、少しずつゆるんできた。もう大丈夫だろうと、下のほうから引っ張り上げる。すると、茎よりも太い根っこが姿をあらわした。ふだんのタンポポとは異なる、生々しい姿。その姿を見て思う。

見えぬ根の想いが届く鼓草

昧悟

見えている部分は、見えていない部分があってこそ。黄色の花や葉、茎だけがタンポポではない。隠れているが、根っこもタンポポの一部。この根っこがあるから、タンポポになる。


2020/06/30

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