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FAX送って被害は数億?そんな危機とも知らず被告人は「おもろいでんがな」(偽計業務妨害) 傍聴小景#84

東京から関西に引っ越して12年が経とうとしているのですが、僕自身は全然関西弁になりません。正直なりたいのです。
うつるなんて言いますが、語尾のちょっとしたイントネーションで関西らしさを感じることはありますが、東京だったり九州だったりいろんなエリアの人がいますから、ごちゃ混ぜになっている印象があります。特に仕事関係の付き合いだと標準語になることも多いですし。

でも、裁判では関西弁がよく出ます。法曹関係者からはあまり出ませんが、バリバリ関西に定着している被告人さんからは、東京人が憧れる「こ、これがあの関西弁…」と思うことが多々あるのです。


はじめに ~偽計業務妨害ってどんな罪?~

罪名 :偽計業務妨害
被告人:50代の男性
傍聴席:平均7人(傍聴した4回)

見た目、喋り方、お住まいのエリア、まさに関西のおじさんという感じの被告人。なにかのきっかけで、傍聴席に「なんやこら」と言ってきそうとすら感じてしまいます。そんなことはありませんでしたが。

偽計業務妨害ってあまり聞かない罪名でしょうが、僕は割とチェックする罪名の一つです。人を騙したり、知らないことなどを利用して、業務を妨害する行為のことを言います。これは実際、今回の例を見ていただくのがいいかと思います。


事件の概要(起訴状の要約) ~唐突な下ネタ~

配送業者に勤務する被告人は、元・同じ会社の従業員Kと共謀の上、

①A社に「お前のとこの入口わかりにくくて、方向転回やりにくいんじゃ」
②B社に「お前んとこ誘導下手やわ」、「受付の〇〇のおっぱいえぇわ、オ〇ニーできるわ」
③C社に「ちょっと当たっただけでなんや、寝言は寝て言え。お前が邪魔なとこに置いているんやろ」

と、書いた紙を自身が勤める会社の実在する従業員のOさんの名前を使い、会社の取引先各社にKがファックス送信して、それにより会社代表に各社に謝罪対応させるなど、正常な業務を妨害した疑い。

なんと迷惑な行為なのでしょう。でも、なんというか関西っぽいっすねぇ。無理やり下ネタぶっこむあたりの雑さもポイント高いです。

謝らさせられた社長の迷惑も相当ですが、名前を使われたOさんも大変ですよね。
さすがに、こんな訳分からないこと自分の名前使われるはずないかと、一瞬で疑いは晴れるかなとは思いますが、誰かが自分を陥れようとしているとドキドキするかもしれませんね。

この内容に被告人は、

告「Kに指示などしていません」
裁「関与はしていないのですか」
告「薄々はKが何かするのかなと感じていたので、いらんアドバイスをしてしまったかなとは思っています

との反応。弁護人は罪の成立は争わないものの、受け身であるなど積極的な関与ではないと主張をしました。
これはなかなか揉めるのかもしれません。


採用された証拠類 ~億の被害になる恐れも?~

検察官立証
勤務先には事件の1年ほど前に入社し、Kはその3ヶ月後に入社。

Kは家で骨折したことから会社に休暇を求めたところ拒否され、被告人に相談した。長期の休暇届を出したらKは解雇された。
Kは会社を困らせてやろうと思い、被告人に起訴状にある文面を見てもらうなどしてFAXを送信した。

被告人とKのLINEのやり取りでは、被告人は「やるのは〇〇(なにか暗号めいたもの)ですわ」、「ジャンジャンFAXせんとあきまへんで」、送ろうとしている書面を見せられ「おもろいでんがな」と送ったり、その日程前後に多くの通話履歴があることも確認されている。

勤務先の代表は厳しい処罰を望んでいる。FAXを送られた会社は取引額が大きく、何千万、何億の損害になる恐れがあった。FAXを送られた各社はいずれも代表の謝罪を受け、以下のように述べている。

「とても恐縮していたので、「大変ですね」と声をかけた。取引を止めるつもりはない」
「10年来の付き合いなので、止めるつもりはない」
「迷惑をかける会社なら打ち切ろうと思ったが、代表の方の誠意を感じた」

Kは個人として別の裁判にて、罪を認めている(後日、有罪判決)。

被告人とKとしては、「これでも食らえ!ガハハ」的な気持ちだったんでしょうけど、何億の被害の可能性と聞くと事態の大きさを感じます。絶対、こんな文面作っている時点で、ここまで大事になるとは思っていなかったことでしょう。

もしかしたらこんなFAXで数億の損害、それにより会社は倒産、従業員が路頭に...なんてこともありえた訳ですよね。送ったのは数社だけでも、「あそこの会社は無礼だ」なんて噂が広がる恐れもあったんでしょうし。

でも、もしかしたらその取引先とは関係性が強固になったかもしれませんね。そんなこと被告人の量刑に1ミリたりとも反映させなくていいですが。


証人尋問 〜怯えるKと弁護人の鋭い追及~

被告人はKが勝手にやったことという姿勢なので、検察官がそのKを証人として呼ぶことになりました。

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