水深800メートルのシューベルト|第911話
僕は手紙を握りしめると部屋のドアを開けた。リビングではルース叔母さんがコーヒーを片手に小さなベビーベッドの柵にもたれ赤子を見つめていた。
「今眠ったところよ。可愛いわねえ。」
彼女は、僕をいて微笑んでから、再びベッドに目を落とした。僕は封筒をそれとなく彼女に見せてから「ちょっと出かけてきます」と言った。
叔母さんは目を上げて小声で言った。
「その人と会うのね。どう? トリーシャは許してくれた?」
「ええ、今からです。でも、何も心配は要りませんよ」
トリーシャの言葉で覚悟が決まっていた。彼女に会うんだ、会わなければ。叔母さんは予想に反して止めなかった。
「そう、行ってらっしゃい。あの子はいつもあなたに強く当たるから心配していたのよ。ごめんなさいね」
それには何も答えず、笑顔を作って玄関に向かった。
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