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【後編】 『花のズボラ飯』原作、久住昌之さんに聞いた食卓と料理に本当に必要なものとは。「料理も肩の力を入れずに、”今日は練習”っていうぐらいの方がいいのかも」

オイシックス・ラ・大地の広報室が運営するいま伝えたい情報を発信するnote「The News Room」。
前回に引き続き、ゲストは『花のズボラ飯』などの漫画原作者、久住昌之先生です。
前編で触れられた、「日本の食は過剰になってきている」「もっと適当でいい」について。それは先生の仕事に対する姿勢にも通底するそうです。
久住先生が考える肩の力を抜いた「今日は練習」の精神とは?

久住仕事場

ゲスト/久住昌之さん
1958年東京都生まれ。漫画原作者、漫画家、エッセイスト、装丁家、作曲家と、幅広いジャンルで創作活動に携わる。代表作に『花のズボラ飯』『孤独のグルメ』

●「今日は練習」と思って肩の力をぬいてみる

___前編では、今の日本の食のシーンが、過剰で性急なものになってきているというお話を伺いました。作ることも食べることも、気負いすぎず、もっと適当でいいんじゃないか、と。

久住昌之先生(以下、久住):
だいたい自分の経験からいっても、適当なほうがいい時が多いんだよね。
あんまり肩の力が入っていると、漫画でも何でも良いものってできないですよね。僕は音楽もやっているけれど、テイク6とかテイク7になると、頑張りすぎちゃってダメなこと多いもんね。

料理でもきっとそうなんじゃないかな。肩の力を入れずに、「今日は練習」っていうぐらいの方がいいのかも。

____練習という考え方は、素敵ですね。料理をするのが、楽になりそうです。

久住:
ちょっと話は違うけれど、若い時に、泉昌之さんと二人で、『ダンドリくん』という漫画を初めて週刊連載したのね。
自分は原作だったのだけれど、週刊の連載をやるのはすごく大変だと思っていたから、引き受けるべきかどうか迷っていたんです。
そうしたら、別の出版社のおじいちゃん編集者が、「そんなの、迷わずやれよ」って。「王とか長嶋のような人でも、3割くらいしか打てないんだよ。ましてや4割打てたら、天才なんだ」って。

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週刊誌でレギュラーになっている人は、だいたい2割ちょっと打てる人だと思われているということ。だから、5本に1本、ヒットがあればいい。そう言われて、かなり気が楽になったんだよねー。

だから料理もそうじゃないかな? 5回に1回おいしいのがあれば十分。3割おいしいのがあったら、すごいと思えばいい。

___久住さんは、子どものころ、どんな食事をされてきたんですか?

久住:
うちの親のご飯も適当だったよ。
強烈に覚えているのは、中学校の時のお弁当。白いご飯の横に、昨日の残りのサツマイモの天ぷらが1枚っていうのがあったな。笑っちゃったもん。「これ、どうやって食えっていうんだよ」って。でも、笑ったあと、考えるんだよね。これをどう攻略するかって(笑)。

さっきの(前編参照)病院の話じゃないけれど、そういう地味な弁当もあったり、たまにおいしい弁当があったり。それが日常だったし、料理に過剰な期待をしなかったよね。

今となっては、「適当なお弁当をありがとう」という感じ。毎日ごちそうばかり食べていたら、こんな漫画は描いていなかっただろうね。

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© 久住昌之・水沢悦子(秋田書店)2010

●長く読める、何度も読める漫画を描きたい

___先生の漫画には、いつも料理を作る人へのまなざしのようなものを感じて、それが印象的です。

久住:
僕は長くやっているお店が好きなんですよ。五つ星とか、人の評価とかは、どうでもいい。
長くやっている店には、長くつぶれなかった理由が必ずあるはずなんですね。それは安かったり、おいしかったり、店の人が感じ良かったり。

でもみんな、そんな何十年も続いている店にたかだか一回行っただけで、「特徴のない味だが、コスパはいい。ただし出てくるのが遅い」なんて、平気で評論みたいに書くじゃない。星までつけて。本当に嫌な時代だなって思うね。
時代が変わって、大変だった事故もきっとあって、それを乗り越えたんだよ。それを何も知らないで、大きなお世話だよね。
僕は、店の評論みたいな作品は書きたくない。何も知らずに、食べさせていただいてるって立場でいたいです。

つまり、そういった長くやっている店を良いと思うのであれば、仕事人として自分ができることは、長く読み返してもらえる漫画を描けってことだよね。

___長く読める、何度も読める。このSNSの時代に、そういった創作は本当に貴重です。どうすればそういうものが生み出せるのでしょう。

久住:
それは、心の底から「おいしい」と思ったり、「伝えたい」と思うことからスタートするんだと思う。

一昨日、雑誌の連載のために宇都宮に取材に行ったんですよ。宇都宮といえば餃子なんだけれど、実は焼きそばやもたくさんあるの。僕、餃子よりも焼きそばが好きなので、人に聞いて行った店があったのね。でも、そこが臨時休業だったんです。

で、仕方ないからしばらく歩きながら焼きそばが食べられる店を探していたら、ものすごく古くて渋いビルの横に、ちょこんとくっついたような焼きそばやがあった。

その店のメニューがね、実にシンプル。大・普通・少の3つしかない。飲み物も一切ない。「小」じゃなくて「少」って書かれているところが、おもしろい。
「大」の横に「空腹男用」って書いてあり、「少」の横には「幼児用」と書いてある。しかも「普通」は250円。安すぎる!持ち帰りもできる。

具はキャベツのみ。肉は入っていない。これ以上切り詰められないソース焼きそば。でも、すっごくおいしかったんです、ほんとに。

肉厚のキャベツがパリパリで甘くて、酸味のあるソースが合う。固い麺も、食べているうちにどんどんおいしくなっていく。この初めてなのに懐かしい味はどこからくるんだろうと思って。

こういう焼きそばの「おいしさ」を、漫画なり文章なりドラマなりで、どう伝えるのかと考えるのが、自分の仕事。

それって、味だけの話じゃないんだよ。背後にあるドラマなんだ。それを、自分がこれまで食べてきたもの、経験してきたことを通じて感じられたりすると、その店を泣けると思ったりする。

長く読める漫画や、何度も観たくなるようなドラマにはそういうものが必ずあると思うんです。「もう一度食べたいな」って思うように、もう一度読みたくなる漫画が描きたい。それは、決してすごいごちそう漫画じゃないと思う。

だから、この店のことも、右から左にとすぐには書けないと思う。自分の心の中にずっとあって、ずっと忘れなかったら、いつか書くんだと思う。

___料理も仕事も、人生も。人間はそんなにすぐに変わったりしないし、答えを早く求めすぎちゃいけないという先生のメッセージを、何度も受け取った気がしています。

でもそれは、自分が漫画を描く者としての話でさ。読んでくれる人は適当でいいわけだよ(笑)。漫画なんて、そういう気楽なものだから。

自分はそういう気持ちを心の中に据えている。
でも、読んでくれる人はインスタントラーメン食いながら楽しんでくれるような漫画を描かないとね。

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このたびは、久住昌之先生のインタビュー記事をご覧いただき、ありがとうございました。今後の運用の参考とさせていただきたく、アンケートのご記入をお願いできれば幸いです。

聞き手/佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。

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