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四月六日 晴れのまま つき

四月六日 晴れのまま
 久しぶりに再会した友だちと、楽しくお話をしました。


「なんでこのアイコンなの?」
「なんとなくかな」
 私たちは教室に入るなり、さっそく連絡先を交換しました。同じクラスでした。はなちゃんは、私がアイコンに設定しているお花について聞いてきました。このお花は、毎年お母さんと一緒に育てているひまわりです。私が手入れをしていない日は、お母さんが代わりにやってくれます。もう少ししたら、今年も種まきをします。
 はなちゃんのアイコンは、自分が写っているものでした。水辺で楽しそうに笑っている瞬間を切り取った写真です。

「アイコンってね、その人そのものなんだよ。だからね、犬にしてる人の正体は犬だし、建物にしてる人の本当の姿は建物なんだよ」
 はなちゃんは、訳のわからないことを言います。私は自分がひまわりだとは思いません。思えば、はなちゃんは昔からこんなことばかり言っていた気がします。
 でも、くだらない話は好きです。

「自分の好きなものとか、大事にしているものをアイコンにするんじゃないかな」
「ああー、そうかも。つきちゃんはひまわりじゃないもんね」
 はなちゃんは笑います。にこやかな表情を向けてくれるのが嬉しいです。私がつられて笑ったのをみると、はなちゃんは嬉しそうに体を傾けました。

「じゃあ私はこれにしようかな」
 そう言ってはなちゃんは、自分の鞄を持ち上げて膝の上に乗せ、写真を撮りました。少しすると、はなちゃんのアイコンが変わります。はなちゃんのアイコンに表示されていたのは、三日月の形をした髪飾りでした。

「ねえ、これって」
 それは、はなちゃんとお別れをしたあの日、私がはなちゃんに渡したものに似ていました。下の部分が少しすり減って、白くなっていますが、私が昔愛用していたものに思えました。

「この前金具が壊れちゃったんだけど、捨てたくなかったからストラップにしたんだよね」
 笑っているはなちゃんは、少し眉が下がっていました。はなちゃんは、私が一方的に渡しただけのものを、大事にしてくれていたようです。あまり丈夫なものではないと思うので、とても大切に扱ってくれたのだと思います。すごく嬉しい。

 私の表情は、笑顔になっていたと思います。しかし、どうやらはなちゃんは恥ずかしいらしく、すぐに話題を変えてしまいました。深くは語らせまいとしているのは明らかでした。
 はなちゃんはこういうことをよくしていた気がします。照れ屋さんです。たぶん、さっきずっと手を握っていたことに触れたら、真っ赤になると思います。ちょっと見たい気もしましたが、やめておきました。あのはなちゃんは、私の中に大事にしまっておきます。
 そのあと私は、また変な話をし始めたはなちゃんに提案をしました。

「今度一緒にお出かけしよう」
 はなちゃんは今日にでも行こうと言いました。毎日でも行きたいとまで言っていた気もします。楽しくなってずっと笑いながら話していたので、詳しいことは忘れました。
 そして私たちは、学校の帰りに駅前に行きました。昔の私は、はなちゃんに振り回されてばかりだった気もしますが、今の私は、はなちゃんを振り回せるようになっていました。

 これから、はなちゃんと一緒に、大事なものを増やしていきたいです。

 つき