珍しいバイトには気を付けろ!

皆さんは2020年オリンピックの最中、ある極秘プロジェクトが行われていたのをご存じですか?その夏僕はIndeedで短期バイトを探していまして、当時から芸人を目指していましたから、面白そうなバイトにしようと思い『珍しい バイト 短期』って検索窓に入力したんです。そしたら怪しいバイトがひっかかりまして、誘い文句が『巨大なミシンで地球に2本目の赤道を縫い付けませんか?』って、それだけしか書かれてない。時給も場所もどこにも記載されてない。なんだこのバイトは、めちゃくちゃ面白そうじゃないか!と思い早速応募しました。すると、こんなメールが届いたんです。『吉野家、羽田空港第3ターミナル店で『ネギ玉牛丼超盛、ネギ、牛、ご飯少なめ、卵黄抜き、セットでお新香みそ汁を付けて、お新香はみそ汁に入れて持ってきてください』と注文してください』なるほどな、この注文をしたら裏に通されて、秘密の地下通路の入り口とかに案内されて、そこ進んでいった先にある小さな一室で面接をやるんだなと、もうクレイジージャーニーの中山ゴンザレスさんが紹介するような世界です、まさか自分がこんな世界に足を踏み入れるなんて、ワクワクしてきました。羽田空港の吉野家行きました。そして注文するわけです。「すみません、ネギ玉牛丼超盛、ネギ、牛、ご飯少なめ、卵黄抜き、セットでお新香みそ汁を付けて、お新香はみそ汁に入れて持ってきてください」何回も言う練習してきたんで、よどみなく言えましたよ。そしたらですね、1分もしないうちに注文通りの商品が出てきたんです。どういうことだ?いつ裏通されるんだ?店員さんをチラチラ見たけど、全然目が合わない。「今忙しいからもう少し待ってくれ」とかそういうアイコンタクトも一切なく。目の前には超盛で頼んだはずなのに注文通り少なくなってほとんど並盛と同じ量の牛丼とおしんこ入りみそ汁。なんだこれ、騙されたのか?よく見たらお客さんいっぱいいるんです。こいつらも騙されてきたんじゃねぇか?ああくそやられた、もういい。むしゃくしゃしてあまり噛まずにかき込んで、ごちそうさまでした。レジ行ってお会計お願いしまーすって、値段忘れましたけど、本来は超盛だから量の割に高いんですよ。クソっと思いながら財布の小銭取り出してるとガクッと視界がズレて、そこから何も覚えてない。次目覚めた時、薄暗い空間で僕は体育座りをしていた。灰色の作業服に着替えさせられていて、周りに僕と同じ格好をした人が何百人も規則正しく並んで座っていた。すると、前の方でスポットライトが当たって、恰幅のいいスーツを着たおっさんが現れたんです。「皆さんご応募いただきありがとうございます。現在、巨大なミシンで地球に2本目の赤道を縫い付けている最中です。あなたたちにはその協力をしてもらいます」えぇ、なんだなんだ、って会場がどよめくんですよ。で「お静かに、あなたたちには今から赤道を作ってもらいます。タイムリミットは1週間、それではよろしくお願いします」スポットライト消えて、周りがざわつくんですよ。僕も雰囲気に飲まれて、不安になってきました。横見たら隣の人がすごい落ち着いてるんですよ。経験者みたいな面してまして「すみません、これどういうことですか?」って尋ねたんですよ。そしたら「こんなのただのバイトですよ」って。「以前やられたことがあるんですか?」「いや、友達がやってたんですよ」「そうなんですか?」「友達が副業でこの赤道を縫い付けるプロジェクトに参加したら、あか抜けた顔で帰ってきてなんだか悔しかったんです。だから僕も自分を変えたいと思い参加しました」素人メインのバラエティ番組のオーディションか!なんて思いつつ、そしたら視界の右端にスポットライトが当たって、赤いタキシードを着た司会者風の男が「ここで、プロジェクトのPR大使から皆様への激励のメッセージがあります」って、で井上咲楽さんが出てきたんです。さっきまでざわついてた会場にまた別のざわめきが生まれて、マイク渡された井上さんが「いざとなったら私が赤道になります!」って意味不明ではあるけど元気いっぱいのコメントをして、周りの連中が訳も分からず「うぉー!!」って拳掲げて会場に初めて一体感がうまれました。その中で一人微動だにせず立っていた若者がいて鋭い視線で井上さんをにらみつけてるんですよ。でもチャック全開でした。あと「鶴田真由を呼べ!」って怒鳴り散らしているおっさんとかもいて、警備員に外に連れていかれてました。赤道を作ることになるんですけど、彼ら曰く、赤道ってのは、蟹をプレスしてできたせんべいを地球の円周およそ4万キロになるように繋げたもののことを言うらしいんです。僕たちはそれを作り上げ、次にミシンでそれを縫い付ける工程に入りました。巨大なミシンは前回の人員募集の時に作られたものだそうで、中にパイロット室のようなものがあり、そこで操作して、赤道を縫い付けるんです。でやっぱりこの工事って宇宙でも珍しいものなんですかね、歴代のウルトラマンたちが地球にやってきて見学しているんですよ。腕を組みながらミシンの動きをじっと見ているんですよね。ただ、途中でそれぞれのカラータイマーが鳴り響いてめちゃくちゃうるさかったんですよね。

銭ズラ