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ほぐし続けた日々

皆様はお気づきだろうか。いつのまにかコンビニの冷たい蕎麦から「ほぐし水」の姿が消えたことを。

「ほぐし水」とは、固まってしまった蕎麦の麺を食べやすくほぐすために付属されている水のことだ。そのキャッチーなネーミングや袋に筆文字で書かれた「ほぐし水」の文字のインパクトなどで、我々の生活の中において独特の存在感を放っていた。ここ数年はちょっとしたおもしろ単語としても認識されていた気がする。

その「ほぐし水」が、ある日突然消えてしまった。パッケージにはご丁寧に「当製品にほぐし水は付いておりません」とある。どうやら商品開発部の涙ぐましい努力により、水をかけなくても麺をほぐすことが可能になったらしい。より食べやすく便利になったわけだが、それにより我らが「ほぐし水」は存在意義を失ってしまった。

まるで12時を迎えたシンデレラである。魔法使いがかけてくれた魔法は解け、馬車はカボチャに、ドレスはみすぼらしい服に、そしてほぐし水はただの水へと戻ってしまったのだ。紅の水も言っていた。ほぐさない水はただの水だ、と。

これから我々は「ほぐし水」のない世界を生きていくことになる。しばらくはその不在を意識してしまうかもしれないが、それもすぐに慣れるだろう。いずれ、我々の記憶からも「ほぐし水」の存在は消えてしまう。そして、まるで初めからそうだったかのように、「ほぐし水」不在の世界は今まで通り問題なく回っていくのだ。

なんだか悲しいような気もするが、別にそうでもない気もする。


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