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コーナーを出る瞬間、誰よりも早く立ち上がるには、入る瞬間が大切。

やっとグラン・ツーリスモ観に行けた。
懐かしかったなあ。
と言っても、一日中部屋にこもってグラン・ツーリスモをやってた訳でもなく、ル・マン24時間耐久レースに出てた訳でもなく、カートをやってたのと、Rに乗ってたってだけ。

スポーツタイプの車が好きだったから、国産車ではRでしょみたいな感じ。
夜、ちょとした山の連続したカーブを走って一息ついて車を降りると、ブレーキディスクがオレンジ色に焼けてて暗い夜に綺麗だった。って書くと、多分、車が好きな人はどんな走り方をしてたかわかると思う。
もちろん、ブレーキパッドがすり減ったまま走っていた訳ではない。

サスペンションはKYB、マフラーはFUJITSUBO、ホイールは鍛造削り出しのVolk Racing。
だけど、外から見て改造してるところはない。
外見をゴテゴテするのは好きじゃなかったから。
見る人が見ないとわからない所をちょっといじってたくらい。

ここからはおとぎの国の話。

むかーし、むかし、ある所に車が大好きな女の子がいました。
女の子は車が大好きなので、エンジンの性能を思う存分発揮させてあげたいなあと思ってリミッターをカットしてあげました。
女の子が住む国の車は180kmをすぎるとリミッターがかかって、せっかくの性能を抑制してしまうのです。それではかわいそう。

だから、女の子の車は200km以上の速度が簡単にでるようになりました。
ドイツという国のアウトバーンに行って、昔の新幹線なんかよりずっと早く走れるぞと思っていました。

女の子はとにかくスピードが大好きで、夜になると高速道路をよくかっ飛ばしていました。法律ではいけない事でしたが、馬鹿な女の子は子供だったせいか、そんなこと気にもしていませんでした。

ある日、いつもの様に走っているとBMWというリッターカーよりおっきな力を持ったバイクが幅寄せしてきて、いかにも「勝負しようぜ」というように煽ってきました。
女の子もお馬鹿なので、そんな挑発に「面白そう」と簡単に乗ってアクセルを踏み込みました。
ある程度、おとぎ話の中でも言えないくらいのスピードで走っていましたが、女の子はフト我に帰ります。

いくら大きなバイクとはいえ、相手は2輪、こちらは4輪、どちらも馬鹿なのですが、この2本のタイヤの差は大きくて、やはり何かあったら2輪の方がひとたまりもありません。あのスピードだと小石一つ踏んでも危険なことになりかねません。
女の子が初めて自分からブレーキを踏んだ瞬間でした。
BMWは嬉しそうに颯爽と駆け抜けて行きました。
女の子は、これが負けるが勝ちっていう事なんだろうか、どうぞご無事でと思いながら、その後ろ姿を見送りました。
ちょっとだけ大人になった瞬間でした。

またそれとは別の日、女の子が普通の道路を走っていると、派手な外見をした車が後ろから煽ってきます。
3車線の道路でしたが、わざと追い越しもせずに後ろからずっと距離を詰めて走ってくるのです。
その車が追い越しやすいように、女の子は、次の信号で車線変更し減速して、横に並ぶように止まりました。

するとその車には狼男3人が乗っていて、自分達が煽ってた車を運転しているのがちっちゃな女の子だとわかると、窓越しにやんややんや言ってきます。
なんだろうね。と思いながら無視していると、次の信号で横に並んできたその派手な車はブオーン、ブオーンと空ぶかしをして、また、何か叫んでいます。
多分、自分の車よりいい車に乗ったちっちゃな女の子が気に入らなかったのでしょう。
ゼロヨンを仕掛けてきてる様子でしたが、頭が悪いのか、女の子の車と狼男の車では初めから勝負は決まっています。

その上狼男が3人も乗っているのですから、そんな重い車どうしようもありません。
でも、女の子の車は見えるところを改造していない車だったし、狼男からすると、運転手はちっちゃな女の子だし、絶対負けねーと思ったのでしょう。

夜中とはいえ、ここは普通の道路です。
いくらなんでも女の子はそんなことはしません。
その後も信号で止まるたびに、狼男たちは同じことを繰り返します。

いい加減頭にきた女の子は、次の信号が赤になって横に並んだ時、自分の車を降りて、狼男の派手な車に近づいて行きました。

そうして窓を開けるように手で合図すると、窓が下がるや否や、運転していた狼男の鼻を目がけてグーパンチを繰り出しました。
もちろん女の子はいつもそんな事をするような野蛮な子ではありません。

でも、普通の道路でそんな事を繰り返してると、他の車にも迷惑だし、何かあってからでは遅いと思ったのです。

狼男がかけていた細い銀縁メガネは、助手席の狼男2号の方にスローモーションで飛んでいきました。
女の子は「警察署行く?近いけど」と言って、自分の車に戻りました。
その後は、もう、狼男の車はついてきませんでした。

もしも、狼男たちがその後もついてきて、仕返しするようなもっと悪い狼男だったらどうするつもりだったのでしょう?
でもその時は、そんなこと考えもしなかったのでしょうか。
もしかすると女の子は、銀縁メガネの狼男が、ボタンを押して窓がウイーンと下がる間に「こいつは、そんなに根性があるやつじゃない、女子供相手だからこういう事をする、貧弱なボンボン大学生だ」と見抜いていたのかも知れません。

まあ、いずれにしろラッキーだったと言う他、ありません。
女の子が無事で何よりでした。
おしまい、おしまい。

このお話には続きがあって、女の子はなぜか法律のお仕事をしていたのですが、あるお仕事の時、偶然にも名刺を差し出した目の前の男は、銀行員になったあの時の狼男だったのです。
だからといって安っぽいドラマのように、女の子と狼男の間に何かが始まるなんてことは全くもって、もちろんありませんでした。
おとぎの国も案外と世間は狭いようです。
どこかの国の、むかーしむかしのお話でした。

やーね、こんな女の子。
こんなだから、おとぎの国から出られなくなっちゃったんじゃないの?
車の話(おとぎ話だよ)はもっとたくさんあるけれど、ありすぎてファーブル昆虫記くらいの長さになりそう。

グラン・ツーリスモ、よかった。お話もあれでいいし、一緒に夢見れた。
テルトル・ルージュでコーナーにインしながら、誰よりも早い立ち上がりに備えて、シフトダウンして力をためる、ヒールアンドトゥでカーブを抜けるちょっと前のあの「飛べるぞっ」て瞬間に、目一杯加速して直線を捉えようと、映画館の椅子に座ってアクセルを踏み込んでいた。










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