「山毛欅と樅」「ぶなともみ」「ブナトモミ」。漢字とひらがなとカタカナ。同じ言葉でもイメージチェンジしてしまう不思議。
埴谷雄高の著作「濠渠と風車」の初めに「寂寥」と題されたお話がある。その本にして8ページくらいの量なのだが、何回読んでも膨大な時間の流れと広大な宇宙とある種の夜を感じる。
山毛欅と樅の森の朽ちた木の下に石のように座っている「そいつ」。
深くうねった谷を超えた向こうの糸杉の山にいる痩せた狼。
飛び立つ白い小さな羽虫。漆黒の夜のような寂寥。
それだけのページの中で、時間の流れは止まり果てしなく続き、風が吹き抜ける。
月が出ていないのに明るい夜。そんな時間が好きなのに、どうにか捉え