太陽光発電支援制度と普及の歴史


FIT 総括 と その解決策の提案

この国の太陽光発電の公的支援は1994年、年度予算は20億円の設置時補助金で始ま理、この後、 倍々ゲームで増えていく。この当時の1 kW の設備費は 200 万円程度であった。現時点では25~ 30 万円と言われている。(規模の大きなものは 15 万円以下となっている)

設置時補助から成果評価型=固定価格買取制度への長い道のり

量産効果と学習効果で価格の低減を図り産業政策としての太陽電池メーカーの育成が狙い。補助金と設置者の払うお金が関連産業に供給される。半額補助金で20億円なら40億円が・・・。3年目には3分の1補助金で50億、で150億円が国内市場規模となる。
これを支えたのは1994年から始まった電力の側からの恩恵的な太陽光と風力発電の余剰電力購入制度であった。
これに注目したのが脱原発派である。大資本が集約的に長期投資で確実に収益を上げる国策原子力に対して市民共同発電所 という草の根的なオルターナティブの提案が具体的なものとして始まった。1994 年当時、九州電力が第三の原発サイトとし て計画していた宮崎県串間市に日本で初めての5 kW 足らずだけど系統につながった初めての市民共同発電所が作られた。パネルを一枚づつ出資所有する形で自分の電気を作る運動として始まった。この頃から、地球温暖化対策として所謂、環境派 が太陽光発電支援を声高に叫ぶようになる。
宮崎でも当時原発立地問題が浮上していた串間市に日本で(世界で?)一番初めの市民共同発電所「ひむか1号くん」がパネルを一枚づつ持ち寄る形で運用を開始した。
ここで明かになったのが、設置時補助金の以下の欠点だった。

1. 補助金予算の総額がマーケットサイズの上限を決めてしまう。
2. 受ける補助金の額が少ないと投資費用の回収ができないと辞退者が続出、予算消化すら出来ない年もあったりと資金の効率的な運用ができない欠陥。
ただ、日本政府が地球温暖化対策の切り札としての原子力推進、核燃料サイクルを世界に宣伝しようと高速増殖炉「もんじゅ」の稼働開始とセットで国連の気候変動枠組み締約国会議の開催を決めた COP3 京都会議を きっかけに公的な制度としての再エネ支援制度をとの期待が高まる。
そして、この攻防、経産省、市民団体、政党などが入り乱れての政治的な駆け引きが行われるが結局、 設置補助金 RPS 法(リニューアブル・ポートフォリオ・スタンダードの略だが、リニューアブル・パ ワー・ストップ法と呼ぶ方が正しい?)として制定され2001年に経産省側の勝利で終わる。
この会議の誘致を6月に決めたその12月に期待のもんじゅは冷却材のナトリウム漏れ事故を起こして核燃 料サイクル路線は破綻、その後、作りすぎたプルトニウムの処理に無理くり軽水炉での利用をというプル サーマル路線へ変更を余儀なくされる。行け行けどんどんは得意なのだが、撤退戦が下手、手仕舞いをしな ければ行けないのにそれを見誤っているのが原子力産業である。
RPSは、電力供給会社に決められた義務量としての再エネ利用を義務づけるということで、自分でやってもいいし他から買ってもいいというものであった。その義務量は市場で購入しても良いということでその環境価値 の価格形成に市場を組み込んでるということでは一定程度、合理性はあったのだけど、余りに義務量が低すぎてまったく役に立たず。結局、これは系統強化費用が最小費用で済むということで、優遇されるべきオン サイト小規模分散型の家庭用太陽光発電を買い叩くことに合理的理由を与えたにすぎなかった。
その後、設置補助金は一定程度の役割を果たしたとして 2005 年に一度廃止。しかし、業界や経産省 のもくろみは外れ、国内設置は一気に落ち込み日本の太陽電池の90%近くが海外に輸出され、国 内の温暖化対策は進まずという惨憺たる結果となった。
一方、FIT(固定価格買取り制度)が地方の1997年に人口20万人あまりの小都市アーヘンで始め られたドイツでは、2001 年に、国策としての原子力からの撤退を機に「自然エネルギー推進法」として国の法律として制定され、太陽光や風力だけでなくバイオマス小水力などのすべての再エネへ規 模や設置場所など細かくオンサイトで小規模なものを優遇する事などを決めて推進、成功を収める。
2008 年、福田政権時に行われた洞爺湖サミットは環境サミットと言われたのであるが、ここで再エ ネ普及の政策をアピールするにはどうしても政策的てこ入れの必要性が出てきた。ここで予算ありき という事で先ずは設置時補助金の復活が行われた。ただ、これだけで劣勢を覆すことは不可能とみ られ、流石に固定価格買取制度の導入を考えないわけにはいかない状況となった。
この時期、民主党がマニュフェストに全量買取を明記、政権交代が起きることが確実となってこの固 定価格での全量買取制度が検討されることとなったのだが、国はそれまで普及を牽引してきた家庭 用の余剰電力購入の枠組みに押し込める方向で、電力の買取りは余剰部分のみ期間 10 年に限定され たものが自民党政権期間内に無理くりパブコメ期間も短くして法律として作られてしまった。
ただ、この制度を検討する審議会の柏木孝夫部会長自らが、「日本にはこの制度は不要だ」ということを国会の参考人意見表明でも行うなど、既存電力側は徹底して抵抗、10 kW 未満の家庭用については余剰のみの買取りとすることに成功した。
ここで更に再エネ政策で設置者や国民を裏切ったのが PV-Netと言う団体の都築健事務局長である。参考人としての意見で「全量買取りにすると汚い電気と混じるから太陽光発電をしている人 たちの電気が汚れる」と言うとんでも発言を開陳し「余剰電力の買取制度は世界一素晴らしい制度だ」と太陽光発電設置者の差別意識を擽って結果、其の生み出された社会的付加価値を明らかにすることを阻み、経済的にも小規模オンサイト発電を貶めたのである。(宮崎ではこのグループに連なっているのが某団体が県から多額の補助金を得て彼らの言う自然エネルギーの普及啓発活動を行っている)
勿論、固定価格買取制度も欠点はあった。その買取価格が高すぎる場合は一気に資金が流れ込み設備投資は 進むものの結果として電力価格の高騰を招くなどの問題点があることは、スペインやイタリアで実施され海 外資本が参入し、国民負担が大きくなることは専門家の間ではとうに知られていた。 後に日本はこの固定価格買取制度をオフサイトの10kW以上のものに採用するのだが、この失敗に何ら学ばず更に酷い失敗をすることになる。

設置時補助金で設置設備容量は確かにわかるのだが、成果としてどれほどの電力がどの時間帯に生み出され どれほど CO2 削減に役立ったのかなどが全く分からないという恥ずかしい話になってしまった。今では日本全国で 1000 万 kW 程にもなる10 kW 未満の小規模オンサイト太陽光が国民負担で運用されている(2017年時点)のだが、 その発電量の総量はカウントできず自家消費分は可視化されることがないままとなっている。
勿論、これは私たちの社会にとって実に経済的にも勿体無いことだとに気がつかねばならない。つまり、固定価格買取制度というものは、設備投資を行なったその費用に一定程度の利益=付加価値を加えて、その事業者に支払らわれる事で次の経済活動をドライブするという社会経済的な正しい評価を行なうという事で、一般的に設置時補助 金によって過小に評価され歪んでしまう制度よりははるかに健全であると考えられる。
そして、余剰電力購入では、生み出された価値=その成果が正しく社会に還元されないということになって いるとも認識すべきなのだ。

そして、2009 年8月、政権交代、マニュフェストにも掲げられていたので全量買取制度への変更が期待された。ところが・・・。

新エネ部会のメンバーは数人が新たに加わったものの期待ほどには変わらなかった。というよりは、 経産省を抑えたのは電力労組を中心とする連合が押す勢力で、彼らは既得権を持った産業資本の意向を代弁する人たちであって原子力は勿論のこと推進するし、再エネは市民主導、地域社会主導などという発想は一切ない人たちだった。
そして、議論の焦点は普及、つまり設備容量が増える=太陽電池が売れる事のみが議論された のである。
(でもね、電力供給にとって大事なのは、必要とされるときに必要な量だけ供給されることで、わざわざ必要でもない時間帯に不必要な電力を作ってダンピングするようなことでは無いし、そもそも電力を生むということがもっとも大事な事なのに、それが把握できないというまったくお粗末な制度設計になっていたって事が問題だったと言う事だよね)
その上、此の 10 年後の昨今の状況は完璧にに彼らの思惑からかけ離れた日本の太陽電池製造業の崩壊、中国メーカーの繁栄というお粗末な状況となってしまった事は誰もが知るところである。シリコン系でない太陽電池に期待をかける向きもあるが、大事なのは制度設計の方だと思う。良いものさえ作れば売れるということではないぐらいは誰だってわかると思うのだが・・・。
そして、おかしなことに、それまで太陽光発電を普及牽引してきた「10 kW 未満の小規模オンサイ ト分散型の全量評価への改定が行われることはすで議論済み」ということで経産省によって拒まれ、 以降、規模の大きな事業用の買取制度へと議論の焦点が移ってしまった。

民主党政権下で起こった福島原発事故と間違った再エネ推進政策の不幸

そして 2011 年3月11日午後2時46分に三陸沖を震源とするマグニチュード6.0の東北地方太平 洋沖地震と津波によって福島原発事故が起き、俄か脱原発ムードが醸成され一気に 事業用FIT が導入され る事なる、それも、制度設計に問題があるままに・・・。
少し詳しく言うと、あの311福島事故の午前中の閣議で、CO2 削減対策として原子力で7割、再 エネで3割。その3割のために FIT を入れるという事が決定されていた。が、その日の午後に起こった東日本大震災による311福島事故の為、原子力で CO2 削減という話は見事に吹き飛んでしまった。(と思ったら10年たって自民党政権は再び原子力を推進し延命させようとしている)
事故前のことではあるが、大事なことなので記しておく。マニュフェストに全量買取りを掲げていた民主党政権に変わった後のことだが、何よりもその本人すらが驚いたのが国会で FIT 不要論を語った新エネ部会部会長の柏木孝夫氏の留任だった。(これにつ いては数年前に滋賀県が開催している琵琶湖環境メッセの基調講演の中で本人が自分でも驚いたと話された)だが、そもそも、この再エネ部会などでも委員は経産省の官僚らが選ぶのだから経産省の意向を汲んだ向こう寄りの議論をするものしか出てこないというのは業界の常識で、これは、官僚があたかも中立性を装いそれなりの権威づけをを行うためにこうした審議会は行われるものだとも言われてる。

そして、その後、事故が起こるまでは原子力が環境に優しいと思っていた当時の総理大臣、菅直人氏が、「この法案を通さなければ総理の椅子を降りない」と大向こうに受けの良い啖呵を切って、自公にも賛 成させて通したのが「再生可能エネルギー特別措置法」である。それも、10 KW を境に余剰のみ 10 年と、10 KW 以上は規模も設置場所もその条件も無視した明らかに誰が見てもおかしな歪んだ制度設計のまま日本版 FIT は導入されたのである。
それも、この事業用の設備からの買取価格は当時の市場価格から見て政治的に異常な高額買取り価格 に設定されることでソーラーバブルが引き起こされてしまった。当然、地価が安く日射条件の良い田 舎が有利と言う事で、高度経済成長期とその後も「人もの金」が出て行くばかりで、最後に残されていた地域固有の競争力の無い自然資源の潜在的付加価値までが一方的に奪われることなってしまったのである。
さらに最近の調査研究で明かになったのが、当時の政権にはキチンとした説明もなく導入実施され たグリーン投資減税がさらにとんでも無い経済格差拡大策となって国民にその政策運用期間を通じ て100兆円もの負担を強いることである。
※これについては、https://www.facebook.com/notes/1125383474525769/ に詳報
此の間違いが起きた原因は、行き過ぎた原子力偏重政策とその失敗に対する反動としての行き過ぎた 再エネ偏重政策が歪んだ形で出てしまった事にあると私は見ている。

  • 2001 年に RPS を導入する事 で正しい成果評価が行わず、問題を先送りしてしまった事。

  • 自民党政権時に電力会社の意向を汲んで 中途半端な形での固定価格買取り制度とした為に、小規模オンサイト発電が正しく評価されずに矮小化された事

  • 民主党政権成立後にこれを正す機会があったにも拘わらずこれを放置した事

  • 更に、 311福島事故を悪用し、異常な高額買取りを政治的に行わせたひとたちがいた事。

そうした事を 総括し、正しい制度設計をして提示することが必要と思う。
再エネは地域の資源 地産地消経済へ

ただ政治的には、ここで民主党の主張した大きな流れとして戦後の日本の企業優先の高度経済成長 路線で東京一極集中となったの日本の有り様を大きく変える発想が出てきていた。「地域主権」という 発想。鳩山政権時に総務大臣となった原口一博衆議院議員が主導した「緑の分権改革」で、人もの金を産業資本へと動員するという明治維新以来の右肩上がり経済から、地域の自給力、地域の資源 を活用し価値を生み出す力をつけようというこれまでと異なる真逆の地域からの発想によるものだ。
これは、明治維新=日本における産業革命以来の枯渇性資源を一方的に地球から収奪し増殖する巨大な資本を道具として富の極大化を図るという文明のあり方が招く地球環境の悪化、経済の格差拡 大などの問題が顕在化しているとの認識が底流にあって、此の反省から持続可能な世代間にわたる不公平と不公正を生まない文明へと転換させるという時代の要請に応える政策を実現しようとするものであった。当然、これは明治維新以来の産業を中心に経産省主導で進めるとする中央集権的国家像とはかなり様相が異なる。
そもそも、中央集権的発想では無いので中央で考えると云う事にはならない。具体的に、それぞれ地域の特性や持てる資源も異なっているわけだから、それは現場で考えることが一番いいに決まっ ている。中央で決め、それに従うと云うものでは無い。ピラミッド型国家とは異なり、地域が独自に持てる資源を生かして価値を生み出すと云う発想に変えるということだった。ただ、このことは これまで霞が関がシンクタンクで政策を作り実施すると云う「お上下々」のピラミッド型垂直構造とは異なるものなので、これに慣れた権力者には勝手がよく無いものであったらしい。更に、地域もそう した発想にはなく中央からの予算や補助金にブラ下がると言う長年の慣れ親しんだ発想から抜け切れていない状態に あった。
ただ、ここで注目したいのが、地域の資源を地域で活かす地産地消経済と言われる考え方である。 つまり、地域自給を行うことで資金の外部流失を抑え、その分の資源=人もの金を地域社会のために使うという発想である。構造を変えること、域内でのキャッシュのフローを重視すると云うことだ。お金 の流れを地域に作って地域の人々が参加する、地域の実体経済を支えるものとするシンプルな考え方 だ。ドイツではこれをシュタットベルケと称している。日本でも里山経済という考え方で最近人気を集めている。
そこで、考えなければならないのは先ずはその実態調査だ。自分たちの地域にどれほどの潜在力があるのかを知ることが必須である。手始めに、基礎自治体は太陽光発電の住民票、戸籍登録を作 るべきだろう。その所在地と発電実績や売上げ等を報告することを可視化することも必要だ。そうした実態がわかれば、どのようにそれを活かすべきかという議論もできる。いったいどれほどの価値を生み出しているのかを把握することができる。
いずれは廃棄される太陽電池はマテリアルリサイクルが行われる様になるが、その費用は製 品価格に初めから載っていればことはそう難しくは無かった筈だ。テレビなどの家電製品に 義務化されたデポジット制度の様なものが作られているが、太陽光発電いついてはその対象 発電所の所在地基礎自治体に最終廃棄までの期間、事業者からデポジットとして預かってお けば、最後は別会社を作って逃げられても処分費用は用意できる。

小規模分散の優等生10 kW 未満の発電所に正しい経済評価を・・・

オンサイト小規模分散型で地域住民が主体の地域経済に最も貢献する10 KW 未満の設備の買取 期間の 10 年が経過し今年の 10 月末で終了したものがこれから顕在化する。その後の買い取り価格 は回避可能費用が支払われるのが精々と言われていたが、実際に電力企業が提示した価格は7~9 円程度。これ迄の7~5分の1程度で此のオンサイト小規模事業者は軒並み6~10万円程度の年収減となって地域の実体経済はそれだけ縮小している。
ただ、地域の普通の人たちの暮らしを支えるエネルギーであることを考えても、これを機会に期間 の10年の延長と自家消費分の正しい経済評価、より地域経済に貢献する様にすでに実験的に取り組まれている地域商品券での評価などを基礎自治体が取り組む事が考えられて良い筈だ。因みに FIT 先進国ドイツでは自家消費分には全量評価以上にプレミアを付加し系統強化の必要を下げるオンサ イト利用を進めていた。
勿論これも、地域経済への貢献度を考えれば地域主導で制度を作りこむべきだ。また買取り価格につい ても設置時期毎にリターンが公平になる様に精査して見直していくべきだろう。より良く正しい制度設計にを礎自治体が取り組み制度を充実させていくことこそが地方のあるべき未来の姿を地方発で見せ ていくこととなるのだと思う。
今、何よりも求められているのは高齢化対策である。戦後の高度経済成長を支えた団塊の世代が年金生活に入り、さらには介護の必要となる時代を迎えて、そうしたサービスを支える資金の流れをどう作って行くのかが問われている。ここに20年間、お金の流れが作られる固定価格買取制度を組み合わせて考える事で未来世代に負担だけを押し付けることは避けられる。
60歳以上の国民全員に上限10 KW の固定価格買取り保証の太陽光発電の権利を持ってもらうこ とが前提という風に現行制度を組み替えて国民参加型の再エネ制度とすればこれによって今後予測される極端な格差と不公平で不公正な世代間コンフリクトを緩和することも出来るだろう。
現時点では FIT は残念なことに、銀行の金庫の中で失業していたお金がより大きな利益を求めて太 陽電池に姿を変え、人もの金が出て行った地域の唯一手つかずで残っていた自然エネルギー資源までもを動員、より地域を経済的に貧しくしてるに過ぎない。これを地域社会に取り戻し域内経済循環を支える地域商品券や距離減価する地域ポイントのような地域内でのものとサービスの交換を促すような 仕組みとすることも考えられなければならない。

2017,11,01 初稿。2019 年 11 月 5 日、2023年3月2日、3月5日 5月2日
加筆訂正 NPO 市民ソーラー・宮崎 中川修治
TEL携帯  090−9409−2160


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