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今更『勝訴ストリップ』を聴き直して

夕食の後に洗い物をしようとしたら、急に「貴方に降り注ぐものが例え…」の部分が脳内で木霊しだした。ついこの間もこんなことがあったな…ええと、この曲何だったっけと思いながらAlexaに曲名を投げてみた。

最初に思い出したタイトルは「月に負け犬」だったがハズレ、「虚言症」ハズレ。「雨」が付いた気がするし、これらと同じアルバムだった気がする…と言うところまで出てきたがギブアップしてGoogleで歌詞を調べた。ああそうだ「闇に降る雨」だ。

漸く正解に辿り着いた私は、この懐かしい一曲を楽しみつつ洗い物に勤しんだわけだが、やはりそれでは落ち着かない。昔からアルバムは最初から最後まで聴くと決めていて、例え最後の1曲だけが聴きたかったとしても、頭から順番に聴くことにしていた。特にトランスのオムニバスアルバムなんかは最初から最後までうまく繋いであって、その繋ぎ部分がまた醍醐味なのだ。他には例えば「Dragon Ash」の『Viva La Revolution』なども同様の作りになっている。

とにかく、そういった作りになっていようといなかろうと、頭の先から爪先までキッチリと聴かないと気が済まないカラダになっているのだ。ということで最初から改めて聴き直すことにした。初めて聴いたのは私がまだ高校生の頃、椎名林檎のデビュー当時にはどうもピンと来なかったが、深夜ラジオで「歌舞伎町の女王」を聴いてから唐突に俄かファンとなり、友達に借りたCDは何故か『無罪モラトリアム』ではなくてこの『勝訴ストリップ』であった。今蘇る、我が灰色の青春。

1.虚言症

始まりの曲に相応しいイントロと曲調で、このカワイイ系な感じは当時の私にとって意外だった。最初から最後まで豪華なサウンドが駆け巡る、歌よりも曲を聴き込む派の諸兄もきっと大満足の一曲である。
今でも歌詞を殆ど覚えているのは、1曲目だからというだけではないだろう。未だに意味はよくわからない。この曲に限ったことではないが。

2.浴室

新宿のカメラ屋さんと言えばヨドバシカメラを思い浮かべてしまう私は当時よく西口を徘徊していた。全体的にフワフワした雰囲気で歌詞にもある「無重力」が感じられる1曲である。最近こういう曲はなかなか無いのではないだろうか。
いつ聴いても卑猥なことしか連想できない歌詞だが、実際のところどうなのだろうか。ラストで唐突にサスペンス感を強く演出してくるあたり、全然違うのかも知れない。別にどちらでも構わないけれど。

3.弁解ドビュッシー

あまり印象に残っていない曲。
歌詞も殆ど聞き取れなかったので覚えていないし、多分マトモに聴いていなかったのではないだろうか。今聴いても「何だか疲れちゃうな」という感じでどうも私にはハマらない曲のようだ。
人の好みなどそうそう変わるものでもない。

4.ギブス

この曲と「罪と罰」、そして「本能」が本アルバムの目玉なのだろうが、何れの曲も私にはピンと来ないものだった。大人になればまた違う印象になるのかなと思っていたが、大人になった今でもピンと来ない。大人になっていないのだろうか。
また4月が来たよ」の部分だけは何故か好きだった。
どうでも良い話(どうでも良くない話があるのだろうか)だが、この曲で私は「Θ」を知った。

5.闇に降る雨

これこそが聴きたかった曲である。
理由は不明だし、当時も取り立てて好きな曲ではなかった気がする。ただイントロ部分のテクノ感はグっと来るし、やはりこの曲にも当時頻繁に訪れていた「新宿」が登場する。曲中では降ろしてくれないのだが…。
今改めて歌詞を見直すと、実にこの人らしい歌詞だなという感じがする。
ストリングの音色が美しく象徴的な曲で、毛色はかなり違うが「Coldplay」の「Viva La Vida」に通ずるものを感じる。

私は椎名林檎の曲の中で恐らく「眩暈」が一番好きなのだろうと思っているが、それと同様のアンニュイな雰囲気が流れているのも宜しい。

6.アイデンティティ

これもまたあまり印象に無い。当時は何となく次の「罪と罰」への助走な感じがしていた。雰囲気が全然違う曲なのでコントラストが際立つ上に、ここまでの流れをブツリと切る演出も入る。
これ以上特に書くことも無いくらい印象に無い。

7.罪と罰

これと「本能」は激しめのMVだったような気がするし、当時の私はそれがどうも苦手だった。ただ当時はそういった感じの映像が多かった気がする。所謂ビジュアル系バンドも流行っていたし、バブル崩壊以降ダラダラと続く鬱屈した雰囲気を吹き飛ばすような勢いが支持される頃だったのかも知れない。
私自身も何を言っているのかよくわからない。少なくとも曲の感想ではない。

8.ストイシズム

一転して能天気なこの曲。一分半程度の短い曲なこともあって、箸休め的なポジションなのだろうと思っていた。しかし私にとってはかなり大切な曲で、大変失礼ながら「アイデンティティ」と「罪と罰」を半ば我慢しつつ聴いた先に差す光明とも言える曲であった。
当時ハマっていたゲームである「beatmania」的な楽しさを感じさせる名曲である。今でも感想は変わらない。やはり大人になっていないのだろうか。

9.月に負け犬

曲に関してはそうでもないのだが、珍しく歌詞とタイトルにグっと来た曲。「負け犬」というフレーズが何だか気に入っていた。歌詞についてはどこにグっと来たのかは良く覚えていないが、今聴いても成程良い歌詞だなと思う。
ネガティブな印象の曲だが、実はかなりポジティブな歌詞だと思う。そういう意味では珍しいタイプの一曲と言えるのかも知れない。そしてそのポジティブさが、中2病患者である私にグサリと突き刺さったのかも知れない。
真相には神もきっと興味が無い。

10.サカナ

サビの「足の指五本 踵一個」が印象的な曲。しかもタイトルはそもそも脚の無い「サカナ」だ。そういうところが気に入って好きな曲だった。全編通してトランペットの音色が印象的で、この曲もオンリーワンな感じがした。
今聴くと少しギターのサウンドが重すぎて疲れるが、そういう一見バラバラな要素の組み合わせで構成されたアンバランスでミステリアスな魅力の一曲であると言えよう。

11.病床パブリック

この曲も好きだった。ガラリと変わる曲の様子を絶えることない疾走感で纏め上げてある。当時は歌詞のことなど何も考えていなかったが今改めて見直すと、やはりこの歌詞も椎名林檎らしいものであった。しかもかなり濃度は高めだと言える。
月に負け犬」とは反対に、曲は明るいが内容はちょっと暗めな印象の面白い一曲だ。

12.本能

ピンと来ないシリーズ最後の刺客。
今聴いてもピンと来ないので、多分最初から私はターゲットに含まれていない。

13.依存症

トリを飾る名曲。私が聴いていたのは当然のことながら「黄色い車の名」が吹き込まれていたバージョンである。このデータは壊れたHDDに封印されてしまっているので、いつかサルベージしたい。
曲の半分程度がアウトロになっていて、そのあたりもラストに相応しいものだと感じさせる。アウトロでは繰り返し泣くギターが印象的だが、キーボードの美しさも見逃せない。「The Beatles」の「Hey Jude」みたいな愉快さこそ無いものの、充分な余韻を感じさせつつアルバムを締め括る名曲である。

この曲は結構な頻度で聴きたくなることがあって、その度に私はアルバムを頭から聴き始めることになるのだ。何でわざわざ…と思われるかも知れないが、この曲の良さはアルバムを全て聴き通してこそ感じられるのではないかと思っている。

おわりに

一部散々な書きっぷりにはなってしまったものの、私はこのアルバムを名盤だと思っているし、椎名林檎と言えばこのアルバムか『私と放電』だと断言する。言うだけならタダだ。

高校2年生くらいの頃から頻繁に聴いていた椎名林檎だが、その後訪れるプログレッシヴロックブームや根強く脈動するトランス熱に圧されて次第にその頻度は減っていった。やがて東京事変が結成されたものの、ヒイズミマサユ機が抜けてからは聴かなくなってしまった。

群青日和」もアフラックのCMも素晴らしかったのに…!

何はともあれ、数年ぶりにこの名盤を聴き直す機会が訪れた。古い友人との再会みたいで、少しくすぐったいけど幸福な時間だった。

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