あの日に焦がれて

こんな街嫌いだったはずなのに
その日の黄昏は泣いていた
家々の屋根に埋もれた地平線と雲との間から
腫らした目だけを覗かせて
薄い光に覆われたセピア色の街は
どこか思い出の街に似ていた

気づいた頃には跡形もなく消えている
ただ目に浮かぶ八幡坂から望む海
懐かしいような異国の香り
そこには聞こえるはずの波音は聞こえず
そこにいるはずの人はいない!

哀しきかな!
冷徹とさえ感じた街が
今ではその過去に浸って泣いている
私には欠けた宝物を
胸に抱えて泣いている

私の記憶とはクッキー型のような不完全な脱け殻
ただその画だけが
この両瞼に焼き付いている!
無味乾燥の思い出には
温もりも音もない!

目を閉じれば聞こえるはずの君の声は何処?
どうして僕だけこんなにも孤独の才に恵まれているのか
誰よりも愛されたい
また新しい今日が始まる
思い出は今ここから始まる


これも公募で出したけど普通に落ちたやつ。

私がよく言う「クッキー型の記憶」の話ですな

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