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日本酒のふるさと

日本酒のふるさと、という言葉があります。

日本酒は米を麹菌で発酵させたお酒なので、

ふるさとというのは即ち原料となる酒米(さかまい)の産地になります。

父の故郷、兵庫県北播(ほくばん・北播磨の略)地域は

日本酒原料米である山田錦のシェア6割を占める酒米の産地です。

例えば日本酒の銘柄としてよく知られている高知の地元のお酒にも、

私の故郷埼玉のお酒にも、その他たくさんの地域産の日本酒に、

兵庫県産の酒米・山田錦(やまだにしき)が使われています。

以下こちらのサイトから引用させていただきました。



「山田錦」は、日本酒の原料として開発された「酒造好適米」のなかでも、知名度、人気、作付面積でトップを誇る品種で、「酒造好適米の王様」とも呼ばれています。
酒造好適米は、食用米に比べて粒が大きくて吸水性がよく、粒の中心にある「心白(しんぱく)」と呼ばれる白くて不透明な部分が大きいのが特徴です。心白は醪(もろみ)に溶けやすく、麹菌が入り込んで発酵を促進するなど、日本酒造りに適した特性があります。
「山田錦」は、この「心白」が線状の形をしているため、たくさん精米しても心白が壊れにくいという特徴があります。薫り高く、味わいのバランスに優れた日本酒に仕上がるため、飲み手にも蔵元にも人気です。


そこは加古川という大きな河川が平野部をゆったりと流れる豊かな農業地域で、

父の実家の周りは今でも田んぼが広がっています。

何気なく父に家の周りの田んぼがなんのお米を作っているか聞いたことがありました。

「この辺りは酒米が多い。山田錦(やまだにしき)の産地だ」

という返事に、日本酒はおろか酒も飲めない10代の私は、

「お酒を造るお米って、食べるごはんのお米と違うんだ。

この辺のお米はごはんで食べてないんだ。食べてもおいしくないのかな?」

とだけ思い、

酒米の産地という話を

それ以上深く考えることは今までありませんでした。

「山田錦」で造られる日本酒は飲み手を選ばず、消費者や蔵元の人気が高いことから、その栽培は全国に広がっています。
広範囲で栽培される「山田錦」ですが、やはり品質に定評があるのが兵庫県産、それも「特A地区」と呼ばれる六甲山西部の三木市(吉川・口吉川)や加東市(東条町・社町東部)のもの。これら地域では、夏場には昼夜の気温差が10度を超え、粘土質の豊かな土壌が上質な「山田錦」を育てているのです。

父の実家周辺は特A地区ではないものの、ざっくりその辺なので、栽培適地には変わりないのでしょう。

山田錦、稲の背丈が130センチもあるそうです。(食用米は100センチぐらい)

茎が長く粒が大きいということは稲穂が重たくて、倒れやすいということで、おまけに害虫にやられやすく晩生(おくて)は成長がゆっくりなので、

農家さんはめちゃめちゃ気を遣って育ててはるんでしょうね…と

小さいながら畑をしている今なら

その作物としての希少性が私にもわかります。


父のふるさとに子どもの私が行くのはいつも夏休みか春休みのどちらかで、

稲穂が垂れる季節はこの目でみたことはありません。

夏休みには緑の稲が、風になびきます。

私の生まれた埼玉東部もまだ細々と田んぼをされている農家さんがいたころで、

田んぼ自体はは珍しくはありませんでしたが、

兵庫北播のそのどこまでも広い青い田んぼに風が渡る風景は、

町育ちの私のなかではとても大事なものでした。

帰りたい風景のひとつなのです。


さて

高知の家のお隣の奥様が好きなお酒は亀泉という銘柄ですが、

そちらも兵庫の山田錦を使っています。

住む町にある酒蔵でも、山田錦を使ったお酒を販売しています。

町内会の集まりではそれで皆さんが和やかに乾杯しています。


あの父のふるさとでみた田んぼで育ったお米が、

巡り巡って高知でお酒になって、


土と発酵に目覚めたおばはんとなった下戸の日本酒スキの私に出会い、

地域の人と飲み交わす、コミュニケーションの手掛かりとなり、


父のふるさとこそが

「日本酒のふるさと」だったのだ、

と長い月日を越えて教えてくれました。


物語の何気ない伏線回収にも似た、不思議なご縁を感じます。


※以下のリンクもよかったらどうぞ。面白いですよ。



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