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10 恐竜体験記『ジム史上最弱女がトップボディビルダー木澤大祐に挑んでみた』

#10 スクワット禁止令

ひさびさにパーソナルに行ったので、やっと更新できる。さぞウキウキで行ったと思ってるかもしれないが、実際こうだ。

表と変わらない意味のない裏アカウントにて
友人にあてた死地に赴く前の遺書



毎回、扉を開けて木澤さんの顔を見た瞬間、失禁しそうになる。処刑台を前にして毅然とできるのは、マリー・アントワネットくらいだ。私とは浪費癖しか共通点がない。で、3週間ぶりにみたけど、やっぱりめちゃくちゃ怖い。


恐怖で気が遠くなってたら第1種目、バーベルスクワットが始まっていた。でも、まあこれはいつも自主でやってるし……と思ってしゃがんだ途端。

「ダメ」

え!? なにが? 狼狽しながらも続けるが、呼吸が上手く吸えない。でも確かに、何かおかしい。でもなに?なにを怒られるの?
木澤さんが失笑みたいな唸り声を上げた。

「……ちょっと、完全になまってますね。本当に週2もいけてる?」

「……はい。一応やってます」

「うーん……」

ほんとに、週2は死守している。クソみたいなスケジュールで死にかけながらだが、なんとかやってる。しかし、確かにひどい。安定できない。しゃがめない。そして、2セット目に入った途端、強烈な重さと眩暈が走り、思いっきり崩れた。

「ダメ!もう、ちょっと、一回バー置いて」

すぐさま、バーを戻すように指示が走る。

「自重でやってみて」

初回と同じセリフ。情けなくて泣きそうだ。そのまま、自重でスクワットの姿勢に入る。

「違う!今、足裏どこに重心かかってる?」
「足首浮いちゃってるじゃん」
「そんなしゃがんだら意味ない。違うって!ここで、この姿勢で維持できないの?」

ことごとく修正がはいる。完全にふりだしだ。例によって、聞こえてるけど身体が言うことを聞かないパターン。というか、苦しくて姿勢の維持さえできない。えっと、膝に肘を置いて、脚を開……

「ダメ」
「レッグプレスいきます」

言うが早いか、木澤さんの背中がレッグプレスに向かう。見切られた。頭の中の鱗滝さんが「判断はっや!!!」と言った。

まじでこんなノリ


呆然と後を追った私に、かなり難しい顔で木澤さんが言った。

「しばらくスクワットしなくていいです。今、そのレベルじゃない。脚はレッグプレスだけでいいから、スタンスだけ変えてひたすらやって」

はい、泣きそう。原因は正直明白で、ここずっと仕事がやばすぎて、休みもないし、ろくに睡眠もとれてない。でも、自分ではなんとかトレーニングできてたから、なんとかなってると思ってた。全然なってなかった。それを正直に話した。

「なんでそんな働くの」

遊ぶ金欲しさです、と冗談を言ったら、やばい表情になったので実情を話した。「頼まれると断れないんです」と。今考えると、押しに弱いヤリマンみたいな台詞だ。

「……あー、それは、僕もそうですね」

初めて、分かられが発生した。意思の疎通が成功した。よかった。
それから、しばらく「忙しい」の大先輩である木澤さんの休み方のコツを聞いてみたけど、普通の人でいう「働いてる」の状態を「休息」の概念として捉えていて、これは参考には出来ないと思った。意思の疎通終了。種族の壁は高かった。

2種目目。レギュラースタンスレッグプレス。ご存知の絶叫誘発拷問機だ。思い出すだけで吐き気がする。

たまに夢に出る


座るが早いか、「GO」の掛け声が無慈悲にくだる。さようなら下半身。

「はい!下げて下げて下げて上げる!今!」

「上、伸ばしすぎだって!それはレストの時だけ!」

「伸ばした後とめるな遅い!続けて、すぐ下げる!」

「上止めないって!すぐ下げるの!」

「下げすぎ!負荷抜けてるから!垂直の位置でピタッと止めて、すぐ上げる!ここ一番大事だから!」

始まった途端、永遠に続く繰り返しと叱咤。
返事ができない。はいって言ってるつもりが猿叫になる。でも絶対に潰れてやらねえ。スクワットで恥かいたぶん、言われた回数何がなんでもやってやる。

「はい!あと3」
「3!?」
「まだいけるね、あと2」

つい頭に血が上って口答えしたら、増えた。えるしってるか。人はめちゃくちゃ辛いと笑いが込み上げる。意思とは無関係に笑い声が出る。はたから見たら拷問にかけられて笑ってるヤバい女だ。でも、もう笑うしかない。こんな辛いこと、笑わないと耐えられない。

「……フォームがすぐめちゃくちゃになる。重量とか回数の前に、フォームを徹底しないとダメ」
「正直、今の重量だったら50回でもいけるはず」

インターバル中、そんなことを言われた気がする。いけませんよ。私は人間で、恐竜ではないので。膝の開きと可動域を延々と注意されながらそう思った。いつか出来る日がくるんだろうか。


……その後、ナロースタンスで完全にとどめをさされて喉が潰れて、ラットプル(2種)の後半からまじで記憶がない。無事に帰って来れてよかった。どうやって帰ってきたんだろう。久しぶりのパーソナルはこうして終わった。
なんかもうしっちゃかめっちゃかで、とりとめのない内容になってしまったのが、混乱の証だと思って欲しい。

余談だが、雑談の流れで木澤さんは私のことを「ヤバい人間」のくくりに入れているということが発覚した。失礼な。ネットの言動は確かにアレだけど、ちゃんと相対したときの礼儀は心得ている。本当にちゃんと距離感はわきまえてるので、出禁だけはやめてください。
来週もまたよろしくお願い申し上げます。

これはヤバい女だと思われても仕方ない


#11へ続く

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