19『ジム史上最弱女がトップボディビルダー木澤大祐に挑んでみた』
#19 ジュラシック・ワールド
今回はトレーニングの具体的な指導内容というより、パーソナルの雰囲気をメインにお伝えしたい。トレーニングのコツは木澤さんが毎日19時にYouTubeで更新してるので、そっちを見てもらったほうが遥かにわかりやすい。
まず、ジュラシックアカデミーには独特の匂いがある。入った人には分かると思うが、鉄工所と整備工場と汗の混じった匂いがする。扉を開けた途端、まじでやばいとこ来ちゃったなと確信できる。私はこの匂いを嗅ぐと心拍数が136くらいになる。有酸素要らずだ。
でも、この日はすごいラッキーがあった。入った時に木澤さんの脚トレが見られたのと、2階で杉中選手に会った。一度も会ったことがないので、木澤さん経由でアイアンマンの表紙にサインを委託させてもらっていた。
図々しく話しかけさせてもらって、媚を売っていたときだった。
「あのツイッター、あの、やってます?よね?」
「お花やさん?」
終わった。
これからどう取り繕おうとも、印象がインターネット下ネタオタク女になった。実は杉中さんとは以前から相互フォローで、たまに私の木澤さんネタをリツイートしてくれている。でもあんな白飛びしたアイコンごときで気づかれないと思ってた。
その後ひとしきりツイッターの話になり、選手とファンの邂逅がオフ会になってしまった。恥ずかしすぎて「木澤さんのパーソナルですよね!頑張ってください!」しか覚えていないのが悔やまれる。
「杉中さんにお会いできたんですけど、なんかいきなりネットの素性が割れました」
「……ああ、杉中でも分かるくらいやばいオーラ出てるからじゃないですか。やばいやつだからわかったんでしょ」
出会って3分でこんな罵倒を受けるパーソナルがあるだろうか。杉中さんにも被弾してるし。木澤さんは言葉に衣を着せ(られ)ないことで有名だが、私については特に何を言ってもいいと思っている節がある。
ただ、これは概ね正しい見解であり甘んじて受け入れていこうと思ったとき、
「楽しみですね、バリ島」
と半笑いで言われた。これは怒髪天だ。私は3月にバリ島で行われるジュラシックマッスルキャンプに応募して、落選している。
主催者がそれを知らないわけがなく、意気消沈しているのを知っている上での台詞だ。救いは故意に落としたわけではなくて、本当に確率で落ちたらしい。嘘でなければ。
このような感じで、隙あらばメンタルにも過負荷を課してくる。ちなみにこのマッスルキャンプ、「女性は応募してこない」と断言していたが、実際は10名ほど応募があったそうだ。女性限定のキャンプも今後期待したい。
…………
メニューはいつもどおりレッグプレスから始まった。数多の悲鳴を吸ってきた拷問器具であり私にとっても現状最恐の絶叫マシンだが、今回は秘策があった。
「これ見てください」
なにが? という顔をしている木澤さんに向けてハンカチを咥えてみせた。
「声がやかましいって言いましたよね」
「もう今日は大丈夫です」
これは書かなかった前回のパーソナルで、
「声めっちゃデカい!『ぴゃ〜〜〜↑ひえぇゃ〜〜〜↑』(笑)とかいって」
という最悪な物真似(顔真似付き)をされたからである。屈辱すぎて、もう絶対に声は出さないという誓いを立てた。同時に、金山ゴールド時代の木澤さんのオマージュでもある。物真似された意趣返しというわけだ。
効果覿面で、予備動作の段階では全く声が漏れなかった。いつもより踏ん張れる気もする。ところが、いざセットに入った途端問題が発生した。
これ、ボールギャグ噛んだときくらいよだれでる。噛んだことはないが、そのくらい出てる。あと、いつもより吐きそう。舌にものが触れてることが、より吐き気を増幅してくる。
何回か堪えたが、ついに「ゔぉえ!!!」というエグい嗚咽音を出してしまった。奇声を上げるゾンビから、涎をたらしながら奇声を上げるゾンビにランクアップした。
当然、優しい声かけなどあるはずもなく、「なんでこんなんで吐きそうになってんすか」という冷たい追撃がきた。
タオルが揶揄であることにも気づかれないし、パーカーの紐をあえて毎回すごい左右差出してることにも未だに気づかれない。
一人相撲なだけでなく、やることなすこと裏目に出す才能がある。
「これまたお腹押されて吐きそうになってるでしょ」
「なんか食べましたよね」
「……食べてな
「食 べ た で し ょ」
「はい。食べました」
「何食べたの」
「豚汁とご飯です」
何故もっと可愛いものをセレクトをしなかったのか。嘘を見破られただけでなく、男子高校生の部活後みたいなおやつを食べていることを知られてしまった。
「でも、2時間も、前です」
「全っ然だめ。遅い。4時間はあけて」
結局、布を透過して悲鳴はあがるわ、吐きそうになるわで最悪だった。木澤さんの追い込みに声出ない人いるんですかと聞いたら、「まあ、皆でますね」「声でかいっていうか、うちでは普通の声量だけど、やってる重量のわりにうるさいだけです」と言われた。
しかも、帰りに長谷川さんに「なんでタオル噛んでたんですか?」と聞かれたことから推測するに消音効果はさほど無かったと思われるので、やっぱり声を出さないようにするのは根性だけしかないっぽい。まじで意味なかった。
ただ、トレーニング自体は「力は出るようになってきてる」と言われた。喜ぼうとしたら、「いやこれ褒めてないですからね」「褒めてないから」と念を押された。褒めるのは本当に上手く出来たときだけと決めているらしい。
あと、自分と背丈の近いビキニ選手の写真を見せて「こんな感じの筋肉がつけたくて」と言ったら私を一瞥して、
「ああ、まあ頑張ってください(笑)」
「頑張ってくださいとしか言いようがない」
と言われた。普通、パーソナルトレーナーの方って「なれますよ」とか「一緒に頑張っていきましょうね」とか伴走感出すじゃないですか。商売的に。そういうの全然ない。その次のローイングトレーナーをやっているときになど、
「今日、腰痛いんすよ。さっきスクワット途中でやめました。もう帰っていいすか」
と、夜職に擦れたキャバ嬢みたいなことを言い出した。筋肉酒場であんなに楽しそうにパイナップルを破壊していた接客力はどこに行ったのか。
「せめて私が終わるまではちゃんとやって下さい」と伝えた。その結果、3種目目のラットプルダウンでは打って変わって、
「オイオイオイオイ!なにやっとんだオイ」
「全然下がっとらんやろ」
とドロップで泣きそうになるまで追い込まれた。言葉の治安が悪すぎて、MEGAドン・キホーテUNY東海通店かと思った。木澤さんは名古屋弁が出ないとよくコメントされてるが、普通にすごくイントネーションが名古屋弁だ。
こっからもう完全に余談にはいる。木澤さんのコアファンと、パーソナルを受ける予定の方だけ見てほしい。
木澤さんは指導は非常に事細く熱心に教えてくれるが、雑談を自分からあまりしない。あとインターバル中すぐどこかにいく。人によってはそっけないとか冷たい印象を持つかもしれない。
理由をきいてみたところ、「もう何も話しかけないでって状態になる人が多いし、僕が近くにいると休めない感じがあるから」という気遣いからの行動だそうです。「インターバル中にどっか行くことに文句言われたのは初めてですよ」と聞いてびっくりした。内心、喋りたい人たくさん居るだろうに。
私も全身が震えるほど瀕死になるが、口だけは動く。逆にドーパミンが出過ぎて完全にハイになる。喋れるほうがおかしいとつっこまれたとき、「疲れマラと同じですね!」と言おうとしたが、人として問題があると思ったので、「辛すぎて逆にハイになっちゃうんですよ」とちゃんと言い換えた。だからせっかくなので、雑談で聞けたことを共有したいと思う。
【木澤さん豆知識】
・昔吸ってた煙草はマルボロメンソール
・綿素材の服が苦手
・安い食べ物が好きで蕎麦で言うとスーパーで80円で売ってるボソボソの袋蕎麦が一番美味しいと思う
・わきの開いたトレーニングウェアはなんか集中ができないので極力着ない
・ラルフローレンのパーカーが好きで同じ柄を2着持ってる
・車を運転するのが好きで全国を車で旅したことがある
・高いところから見る夜景が好き←夜景を綺麗と感じる感性があることがツボに入って笑い転げたので睨まれた
大阪のおばちゃんなら30分で勝手に聴ける情報量だ。あとは、「東京に用事があるときは横浜にホテルをとった方がいいです。同じ価格で全然ランク違う部屋泊まれるので」といった、RPGの村民のような便利情報がもらえる。
お話してみたいなという方は、「インターバル中も居てください」とお願いするといいと思う。喋れるならもっとやれよと言われる代わりに、話しかけるまで所在なさげに延々とストレッチをしている姿を間近で見られる。今回は足裏までほぐしていた。自由すぎ。
最後に、心折れかけていたときにテレパシーのようなウィスパーボイスで(ブログよんでます!頑張ってください!)と声をかけてくださった方、ありがとうございました。あと、「ネットで喧嘩してるの見たことある」とお伝えくださった方、それは全然言わなくて大丈夫でした。
これからもジムとSNSの隅でひっそりと頑張って、ときおり綴っていきたいと思います。
ジュラシックアカデミーは杉中さんと長谷川さんがめちゃくちゃ優しいし会員さん同士も仲が良く、すごく良いところです。木澤さんは、ほんとにあの木澤さんの感じです。
#20につづく
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