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エッセイのご紹介423 懐かしき人の…(小黒恵子著)

 こんにちは。小黒恵子童謡記念館です。

 今までは、神奈川新聞のリレーエッセイをご紹介してきましたが、今回は、讀賣新聞のフリースタイルに掲載されたエッセイをご紹介いたします。

 フリースタイルには4作品掲載されていて、すべて自筆原稿が残っています。また、担当者に宛てたメッセージが添えられているものもあります。今回は、第二回目の「懐かしき人の思い出を呼ぶ季節の花や木」をご紹介します。
 詩人の書いたエッセイ、独特の言葉選び等を感じていただけると幸いです。

讀賣新聞「フリースタイル」の原稿


「懐かしき人の思い出を呼ぶ季節の花や木」
                            小黒 恵子

 初夏の訪れと共に、真白い十字の形のどくだみの花が、裏庭いちめんに咲いた。
楚々とした美しさ。私はどくだみの花を一輪ざしにいけるのが好きだ。
  赤い茎とハート型の青い葉が、花の白さを引き立てて美しい。
どくだみは娘時代に、亡き母が煎じて飲ませてくれたのを思い出す。「これを飲むと肌が、とても美しくなるのよ」。母のすすめ方よかったのか、紅茶いろした特有の匂いと、苦みも嫌いではなかった。
 かつて私は日本画で、どくだみの絵をかいた事がある。
 私が主催した世界自然保護基金(WWF)のチャリティー展に出品し、売れたのが嬉しくもあり寂しくもあった。
 元上野動物園々長の故古賀忠道先生、当時の園長の浅倉繁春先生、作曲家の高木東六先生他の方々の賛助出品を戴いたお陰で、WWFに百十四万円の寄附ができた。
 いま常緑樹の衣替えの季節だ。庭の月桂樹の緑も美しい。
 毎年夏の夕方、月桂樹の木の下に積った枯れ葉を、まだ若かった亡父がいぶして、木々の間に一面に漂うお香のような香りで、小さなドラキュラ退治(蚊取)をしたものだ。
  ♪おいらはやぶっ蚊 吸血鬼ブーン ブーン 
  うまい匂いだ もう待てない 網戸なんかなんのその
    やみにまぎれて「コンバンハァ」 
    ドラドラ キュッキュッドラキュラ ドラキュラ♪
 こんな歌がヒットしたのも、現在のように下水道設備が完全ではなかった、時代背景があったからだ。
 季節の植物を眺めていると、家族や知人のその時々の思い出が、懐かしくよみがえる。

讀賣新聞 フリースタイル 2003(平成15)年6月27日
 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 次回も、読売新聞に掲載された小黒恵子の原稿をご紹介します。(S)

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