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ガールクラッシュの行く末

2023年は「アイドル」の年でした。YOASOBIの発表した曲が日本のみならず世界でヒットしました。紅白歌合戦でのアイドル勢ぞろいパフォーマンスは大きな反響を呼びました。一方で旧ジャーズの経営姿勢が問題視されるなど決して華やかなだけでない側面もクローズアップされました。

ガールクラッシュを体現する主人公
そんな今だからこそおすすめしたいのが「ガールクラッシュ」というマンガです。LINEマンガで配信されているこの漫画は、K-pop業界に練習生として挑む日本人女性を主人公にしています。
そもそも「ガールクラッシュ」とは何でしょうか。手ごろなところから引用すると以下のように説明されています。

韓国人に聞くと、「女が惚れる女のことです」と説明される。“ガールクラッシュ”とは、媚びない力強いスタイル、また、それを体現する韓国のガールズグループを表現する言葉である。

女性をエンパワーする、韓国 “ガールクラッシュ”新定義。(Toru Mitani)
https://www.vogue.co.jp/fashion/article/toru-mitani-girlcrush-korean-culture

この言葉通り、この作品の主人公百瀬天花は常に強くあろうとしています。物覚えが早いため、完璧な模倣を目指して努力を続けるといった戦い方をします。しかし逆に言うと歌が格別にうまい、人の目を惹くダンスを踊れるといった能力はありません。彼女が踏み入るのは100点は取れて当たり前、その上で110、120点もしくはそれより上を出さなければいけない世界です。練習生は月末ごとに行われる評価で自分の価値を示すことができないと退社を余儀なくされます。そういう世界では彼女は優等生ではありません。不利な状況でもプライドと根性のみで強くあろうとする姿は「ガールクラッシュ」を体現しているといえるでしょう。
彼女と対照的なキャラクターが今作の序盤に登場します。同級生の佐藤恵梨杏です。彼女は歌もダンスも未経験、決してうまいとは言えません。しかし真っ直ぐな気持ちで人を引き付ける能力を持っています。
オーディション踊っているこのページだけでも彼女の力を垣間見ることができるでしょう。

ガールクラッシュ1巻 p167より引用

恵梨杏のほうが読者の共感を得やすく主人公に向いているように思います。しかし、あえてその対極にいる百瀬を主人公に据えているところがこの漫画の大きな特徴といえます。

岐路に立たされるガールクラッシュ

いったん、リアルのK-popに目を当ててみましょう。この漫画の連載が始まった2021年と比較してガールクラッシュが流行っているかといわれると幾分かの留保が必要だといえるでしょう。2NE1から誕生したガールクラッシュはBLACK PINKによって成熟を果たしました。2ndアルバム『BORN PINK』が、Billboard 200で1位、2022年に発表した「Pink Venom」はビルボードグローバル200(Billboard Global 200)とビルボードグローバル(Billboard Global Excl. U.S.) チャートで1位を記録。K-popの枠を超え世界的なアーティストとなりました。
しかし、2023年はガールクラッシュとは別の潮流が大きな人気を獲得しました。
一番注目されたのはNewjeansです。ミンヒジン代表のもと懐かしさやジュブナイルな作家性を作品に反映させています。明らかにガールクラッシュに対するオルタナティブを狙った戦略は大成功しました。2023年、韓国国内のあらゆるアワード総なめにし、あっという間にトップミュージシャンになりました。ちなみに筆者はサマーソニックに出演した彼女たちを見たのですが、真夏のマリンスタジアムに所狭しと集まった人たちの中で死にそうになったことを思い出します。FIFTY FIFTYは内輪騒動で存続が不透明な状況ですが、カーディガンズをサンプリングした切ない曲がアメリカで支持されました。元AKB48の宮脇咲良が所属するルセラフィムはデビュー以来タイトな曲調で「私は傷つかない」とメッセージを歌にしてきました。が、昨年FIFTY FIFTYに呼応するような緩やかな曲を発表しました。
タイアップソングとはいえここではガールクラッシュ的なコンセプトは後退しています。この曲はじわじわと人気を伸ばしグループで一番のヒットとなっています。世の中の潮流はそちらの支持に向かっているといえそうです。    

もちろんフィクションですので必ずしも作品が現実に対応している必要はないです。しかし天花がTWICEが所属するJYPグループを明らかにモデルにした事務所に所属していることからも現実への目配せが行われていることは明らかです。
新たな流行が席巻した2023年を経た2024年の動向と常に有利ではない状況に立ち向かっていく彼女を重ねてみると面白いかもしれません。
「ガールクラッシュ」は単行本7巻発売中、今最も熱いマンガの一つです。ぜひ読んでみてください。

※トップ画はガールクラッシュ公式Xより引用


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