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『未来洞察』大全

いきなりですが、

「2030年(8年後)の日本はどうなっていると思いますか?」

と聞かれたら、あなたはどう考え、どう答えますか?

正直、その答え自体は今回メインテーマではありません。ごめんなさい。
むしろ、”どう考えたのか”に興味がありますし、それがこのエッセイのテーマです。

このエッセイは、世の中で、未来なんてものを語るときの多様なアプローチを整理して、新規事業開発、UXデザイン、組織のビジョン作りやチームビルディング、教育、文学、科学、自己理解、歴史認識という多様な分野で活かされているのはなぜかを考えたいという誇大妄想を無骨ながら形にしようとした断片メモです。

自己紹介が遅れました。
こんにちは。私はOGI(オギ)と申します。普段は、食品メーカー、自動車メーカー、IT、広告、不動産、金融など様々な業界の企業に対して、UXデザインや新規事業開発や組織開発の伴走支援をさせていただいています。

その一環で、未来洞察をする機会が少なくありません。

今回、「『未来洞察』大全」などという神をも恐れぬ尊大なテーマで何か雑文を書いてみようと思った理由が2つあります。

1つは、そもそも未来を洞察することに方法論なんてあるのかというモヤモヤを解消したいからです。多くの方が意外と気軽に未来を語り、そしてそれぞれ割とバラバラな角度から語っている印象で、違う角度から語っている人同士の会話がかみ合わないという現場に仕事柄何度も出くわしました。これは一度整理しないと気持ち悪いなと、答えなんてあるかわからない中で、ちょっと考え始めてみました。

2つ目は、未来洞察の影響範囲の広さにワクワクしたからです。実に多様な未来を語るアプローチを、一度整理してみることは、新規事業開発、組織のビジョン作りやチームビルディング、教育、文学、政治、科学、自己理解、歴史認識という多様な分野で活かせる可能性があると思ったからです。

新規事業開発支援や、データ分析や、組織開発からの伴走支援という仕事柄、未来を語るアプローチは下記の4つに大別される印象です。

あなたはどの考え方に近いか考えながら読んでいただけるならと嬉しいです。
ちなみに、どれか一つだけ、ということはなく複数の要素のブレンドのことが多いですし、未来を考える状況やテーマによって変わるので、どれか一つと固く考えず、楽しんでみてください。

1)構築系
(未来は予想するより発明するもの/予想はナンセンス)
2)データ予測系 
(データ/ロジック/統計学/AI/シンクタンク/延長線上)
3)ビジョン系 
(想像力/アート/意志/パーパス/価値観/希望/宗教/ストーリー
4)予兆系 
(トライブ/エクストリームユーザー/文化の萌芽/テクノロジー)

1)構築系
(未来は予想するより発明するもの/予想はナンセンス)

未来洞察がテーマのエッセイで、いきなり、

未来予測なんて無理。」

という流派を取り上げるのは、躊躇われるのですが、それでもやはり、少なくない人がそう考えている印象です。

有名なところだと、アラン・ケイというパーソナルコンピュータの父と言われる方が、

"The best way to predict the future is to invent it."
(未来を予測する最も確実な方法は、それを発明することだ)

という言葉を残しており、少なくない経営者などの著名人が似たような発言をされています。乱暴にまとめると「未来なんて予測できるわけがない。自分で作るんだ」という、ごもっともだけど、『未来洞察』大全というこのエッセイの構想が早速破綻しそうな破壊力がある言葉です。

最近言及されることが多い、インド人経営学者サラス・サラスバシー氏の成功する起業家の思考法を分析して導き出した「エフェクチュエーション」も似たニュアンスのことを主張しています。

なんかわかる気がしますよね。
未来なんて正確にわかるわけがないし、そんなこと考える暇があったら未来を創るために具体的な行動しようよ!という主張はパワフルです。私もある意味、同感ですし、そう考える人も多いです。

では、未来を洞察することに全く意味はないのでしょうか
個人的には、そんなことはないと思っています。

未来は私たちが創るにしても、社会全体がどうなりそうかわからなければ、どんな未来をつくれば価値があるかなんてことなのかわかりません。
未来づくりを自分のエゴだけでなく、だれかによって価値のあるものにするためには未来ではどんな人が何に困っていて、何を求めているのかが見通せなければ、あなたが創る未来は自己満足になりかねません

このあたりを話すと長くなるので、ここまでにしますが、ここで何が言いたいかというと、

・確かに、未来予測なんて結構無謀なこと
・だから、未来がどうなるかで、うだうだ言っているより、行動して未来を作ったほうがいいというのも共感
・でも、だからといって、未来の可能性を洞察することに意味があること自体は揺るがない

というのが私の考え方であり、それに基づいて残りの未来洞察アプローチの話を続けようと思います。

2)データ予測系 
(データ/ロジック/統計学/AI/シンクタンク/延長線上)

2つ目の未来洞察のアプローチは、「データ予測系」です。
官公庁やシンクタンクなどが出している未来予測はこのパターンが多いです。また企業の中期経営計画や将来の市場規模予測なども、このパターンが多いです。

このアプローチで、オーソドックスなのは下記の3つでしょうか。

統計学的予測 
現在のトレンドをひっぱり、いまの変化の延長線上を描く 
(人口動態、経済成長予測、シンクタンクのレポートなど)
AI 
過去及び現在の多様なデータから、相関や類似などを見出し、未来を予測 
(レコメンド、不動産価格予測など)
シナリオプランニング
不確実性が高く、かつインパクトが大きい変数で、複数のシナリオを構築

統計学的予測
一番オーソドックスで、多用されるのが一番目の統計学的予測です。
(ご安心ください!このエッセイで小難しい話は一切しませんので、読むのを止めないでください!)

わかりやすいのは、人口動態ですね。10年後の世界の人口は~~というような予測はよく出ていますが、このような現在のトレンドの延長線上で比較的予測しやすいもの(モデル化しやすいもの)ではとても有効なアプローチです。

このアプローチもなかなか奥深く、意外と(?)面白い分野ですが、今回は深堀しません。ただ、未来洞察といったときに、一つのパワフルな流派であり、独自のメリットとデメリットで存在感をもっていることは覚えておいてもいいでしょう。

以前話題になった『ファクトフルネス』という書籍も、統計学的な予測や事実と、人間の感覚のギャップが生み出す影響を捉えて、多くの人に支持されました。

AI
AI(人工知能)、機械学習と言われる分野です、統計学と地続きな分野ですが、専門的な深い話はおいておいて、人間の直感による因果関係や相関関係(気温が高くなるにつれて、アイスの売り上げが上がるという2つの要素の連動性)では捉えきれないものを見出して、未来を予測するアプローチで、今様々な分野で注目されています。
 ただ、その予測がどういう考えで出されたのかという理由がブラックボックスになってしまい、人間にはわかりにくいので、理解を得たり、対処したりが難しいなどの課題も議論されています。

シナリオプランニング
 「未来なんて”こうなる!”って1つに予測できないんだからさ、発想を切り替えて、複数のありそうなシナリオを想定して、それぞれの未来になったときどう対応していくか、それにどう備えるか、立ち向かうかを考えようよ」というアプローチがシナリオプランニングです。(厳密に言うとデータ予測系以外のニュアンスで行われていることもありますが、今回はこのパターンとして取り上げます。)

 実際には、しっかりとしたステップがあるのですが、めちゃくちゃ端折ってお話すると、未来へのインパクトが高くて、かつ不確実性(どうなるかわからない、振れ幅が大きい)の高い変数を二つ選んで、それを組み合わせて、例えば下記のような4象限で、ありそうな極端な未来を思考実験として描きます。

引用:https://note.com/kazumaeda/n/n6c66403631ed

 あの石油で有名なシェルが、1970年代初頭、シナリオプランニングで未来をシミュレーションして備えていたおかげで、のちに訪れるオイルショックを競合よりうまく乗り越えたと言われています。

 私も仕事柄、何度かやったことがありますが、有益なだけでなく楽しいですし、組織開発の観点でも意味がある手法だと思います。

3)ビジョン系 
(想像力/アート/意志/パーパス/価値観/希望/宗教/ストーリー)

未来は、データの計算の積み上げではわからない。数字だけでは表現しきれない。未来とは私たち人間の感性で描き切れるものだ、という考え方も多いです。

ここは宗教やイデオロギーの構想や終末観や思想など、これはこれで古今東西を問わず様々な領域に根付いていて、実に奥深い世界で、このエッセイでは詳細まで語りだすと、みなさん読むの止めちゃいそうなので、ここでは深堀はしません。
ただ、宗教や文化やイデオロギーを、未来洞察の観点で眺めてみると色々面白い発見があると思います。

もう少しオーソドックスなところで言うと、ビジョン系では下記のものが流派として存在感があると思います。

・企業、NPO、ビジョナリーな経営者のビジョン
 (ミッション、パーパスなどと呼ばれることも)
スペキュラティブデザイン
 (思考するきっかけを与え、「問い」を生み出し、
  いま私たちが生きている世界に別の可能性を示すデザイン。)
SFプロトタイピング(SiFiプロトタイピング)
 (SF小説家などが、特定のテーマに対して短編小説を書き、あり得る未来を描き、問いやディスカッションやプランニングの起点にする)

・企業、NPO、ビジョナリーな経営者のビジョン
一時期、パーパスがバズワード化していましたが、企業やNPOなどのミッション、ビジョン、パーパスという(細かい定義はおいておいて)企業やNPOなどの存在意義や実現したい未来像を定め、浸透されることへの関心は高いです。

その中でも、ビジョン(実現したい未来像)は、様々な場面で話題に上がります。企業戦略として企業全体の方向性を定めるため、組織としての一体感や自走力を高めるため、企業ブランディングのため、新規事業開発のため、人材育成のため、などです。

正直、その解像度や未来を描いている度合は、様々なのですが、本質的には、未来はどうなっていくと考え、どうしていきたいかという未来洞察が根本にあるはずで、ビジョンの設定や浸透や更新のプロセスで向き合わざるを得ません。

私があるスタートアップのビジョン策定の伴走支援をしたときには、未来をどう描きたいかという話ばかりしていました。

スペキュラティブデザイン
スペキュラティブデザインという言葉を聞いたことはありますか?
英国の王立芸術大学(RCA/Royal College of Art)の教授が提唱した考え方で、ときにデザイン思考と対比して語られます。

ものすごくざっくりお話すると、未来に関して考えるきっかけを広く提供するために、現在の社会、価値観を揺さぶるような、ありうる未来のデザインを、現在の我々の前に提示することです。

例えば、長谷川愛さんというアーティストが提示した(IM)POSSIBLE BABYという作品があります。
実在する同性カップルの一部の遺伝情報をもとに、生まうる子どもの遺伝データを生成し、それをもとに「家族写真」を制作した作品です。

現在は実現不可能だし、やろうという発想すらないものに対して、(現在の延長線上にはない)ありうる未来として形にして現在の私たちの目の前に提示することは未来洞察の一歩目になりえます。

SFプロトタイピング(SiFiプロトタイピング)
スターウォーズ、バック・トゥ・ザ・フューチャー、電脳コイル、ブレードランナーなどを見たことがある方は身近かと思いますが、SF小説(サイエンスフィクション)というジャンルの小説があります。

空想上の技術や社会を描き、具体的なストーリーを展開していくフィクションですが、最近、企業の新規事業開発やビジョン作りの手段として、そのSF小説というアプローチが使われることがあります。

あるお題に対して、SF小説家やその企業の社員が、短編小説を書くようにありえる未来を、思考を飛ばしながら、妄想ドリブンで描きます。
インテルなども本格導入していたアプローチです。

4)予兆系 
(トライブ/エクストリームユーザー/文化の萌芽/テクノロジー)

さて、いよいよ未来洞察の最後のパターン、予兆系です。
データ予測系のように、定量化、モデル化可能なデータから論理的に導き出す未来予想図でもなければ、ビジョン系のように内面の仮説や想いや想像力を大事にするアプローチともちょっと違うアプローチです。

何か変化の兆しを見つけ、それが兆しで終わらず、未来のメジャーになると想定してみるアプローチです。
データ予測のように、現在の延長線上というほどの必然性と客観性は強くありませんが、ある種の定性的な目利きで、これは未来のスタンダードになりうるという種を見つけ、それがスタンダードになった未来はどうなっているかを描きます。

テクノロジードリブン
 (ムーアの法則など、技術の進化や浸透などを一定の前提をおいて、技術が進化した影響を中心に未来を予測する)
トライブドリブン
 (現在、特徴的で非平均的な修正や言動をしている生活者を注目し、クラスター化して、レアなだけか、未来の先取かを見極め、そのトライブがマジョリティになった未来を描き、商品開発やブランディングを行う)

テクノロジードリブン
未来予測の王道と言っていいでしょう。兆しは兆しでも、技術的な兆し、特にまた応用方法も見つかっていない技術をもとに、その技術が量産可能になりコストも現実的になったら、こんなこともできる、あんなものが求められると発想を広げていきます。

前述のSFプロトタイピングよりは、良くも悪くも地に足の着いた未来構想になります。空想ベースのドラえもんよりは、実際の技術をベースに想像を膨らませているミッションインポッシブルのハイテクなスパイグッズ(?)がこの考え方に近いかもしれません。

ハイプサイクルという、兆しが見えた技術のタネが、黎明期の日の当たらない状態から、過度な期待を受け夢物語が描かれ、その後、そんなことはしばらく無理ことがわかると幻滅され終わったものとされるものの、その後徐々に社会浸透していくという考え方は、このテクノロジードリブンの未来洞察の思考の補助線の一つになります。

先述のSFプロトタイピングとの組み合わせなど、様々なアプローチとの組み合わせで未来洞察につなげられうるものですし、楽しいので興味がある方はぜひチャレンジしてみてください。

トライブドリブン
技術の兆しではなく、生活者の価値観や習慣の変化の兆しを掴み、それがスタンダードになる未来ってどんな未来だろうと描き、新規事業開発などに活かすアプローチです。

大手広告代理店の博報堂の社内ベンチャーが、トライブという言葉でそういった生活者を様々な角度から見つけ出し、3~5年後の未来の可能性を見つけ出し、新商品開発や新規事業開発に活用して成功していらっしゃいます。

なお、リードユーザーエクストリームユーザー、など似たニュアンスの言葉がありますし、これらも新商品開発や新規事業開発のヒントになります。
ただ、未来の価値観や習慣の予兆というより、シンプルに現在の消費行動が極端だったり、新しい商品発売にアンテナをはっている層だったりというニュアンスで使われることが多いので、個人的にはトライブのほうが、未来洞察にはフィットしている感じがします。

私もトライブドリブンでの未来洞察を何度かお手伝いしたことがありますが、人間中心に、今の延長線上ではないけどあり得る未来の文化や価値観の可能性を見出す取り組みは、発見が多いです。

未来洞察 for everyone

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
ご縁で、Good Patch Anywhereのアドベントカレンダーに参加させていただくことになり、未来洞察の全体像、というとおこがましいですが、多様な取り組みをラフに紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。

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当然ながら、上記の4パターンのどれが正しいとか、どれか1つだけ選べという話では全くありません。例えば、今回の新商品開発は、予兆系70%、データ予測系30%で種を見つけて、ビジョン系のSFプロトタイピングで描き切ろう、とか、そんな感じでいいのではないでしょうか。

そして、様々な未来洞察がどんなアプローチでなされているかをみるときの参考にしたり、異なるアプローチで未来洞察している人同士の話がかみ合わないときの交通整理をするときの思考の補助線にするなどしていただけたらなと思います。

そして、案外いろんな場面で役立ち、意外と気軽にできて、思ったより楽しい未来洞察にチャレンジいただけると嬉しいです。

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