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【目印を見つけるノート】1484. 池澤夏樹さんのお話を観覧しました2

さて、今日もきのうに引き続き、
『神奈川近代文学館開館40周年記念企画 文学・どこへゆくのか 第II期 作家が受け継ぐもの②』の観覧メモで、出演は作家の池澤夏樹さん、聞き手・ナビゲーターは文芸評論家の湯川豊さん、尾崎真理子さんです。

整理番号88でしたので嬉しい✨

なかなか、1日でパッと書くってできないのです。ていたらく。

ちょうど、ギリシアの詩人さんのところまで書きましたが、そのあとお話は池澤夏樹さん個人編集の『世界文学全集』30巻と『日本文学全集』30巻(河出書房新社)の話になりました。

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ここで、
禁じ手なのですが、自分の話を入れます。
飛ばして結構です。すみません🙏💦💦
この全集、書店で見ただけで欲しくて欲しくて欲しくて……『路上(オン・ザ・ロード)』がいっこめなんて😆‼️コンラッドさんにヴァージニア・ウルフさん、石牟礼さんも入ってる😊と、歓喜するポイントだらけです。とある図書館に開架で出ていますので、今借りている資料が終わったらぜひとも。
買いなさい、でしょうか。それではいっこずつ😅

2015年、私は書店に『日本文学全集』の直近の3タイトルが平積みしてあったのを見つけました。迷いに迷って、やっと1つ買いました。3冊買うお金はないのです。それがこちらです。

手前は封入のリーフレットです。

あとのふたつは8の『日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集』と24の『石牟礼道子』です。それぞれとても欲しかった。その上でなぜこちら?かというと、タイトル(作品)と現代語訳者の妙でしょうか。もちろん、現代の作品は訳していませんが、その妙が素晴らしいと思ったものでした。『春色梅児誉美』は少女漫画の波乱万丈ストーリーを思わせて楽しかったです。
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🌟『世界文学全集』について

もとい、
先発は『世界文学全集』だったわけですが、その類例のない全集発刊に際してのエピソードを教えていただきました。

「文学全集というのは、日本人は好きですね。大正時代から教養とセットになって、あれば読む。ですので出版社は手を替え品を替えいろいろ何かしら出してきた。それが衰退して、文学は教養から娯楽にシフトしていった。古典ではなく読み終わったら捨てて次の新しいものへというようになった。そんな時に河出書房新社から声をかけられた。『今さら何を。全部終わってるよ』と言ったんです」

これまでの文学全集といえばバルザック、スタンダールなどの定番がありますが、まるで違うものにしなければ意味がない、企画として成立しないと考えられた。そこで池澤さんが読んできた本も含めて20世紀のものを中心にリストを作っていったそうです。第二次世界大戦以前のものはいらない、それによって変わった世界を文学はどう表現してきたのかと。
この全集の3ー04は石牟礼道子さんの『苦海浄土』ですが、それについては特別な思いがあったそうです。

「(素晴らしい文学作品であるにも関わらず)戦後の文芸評論は彼女を誤読していた。それに対する『ちゃんと読めよ』という憤りがあった。独立、亡命、内戦、難民、統合、離別、移動。ここに20世紀後半の文学のテーマはある。全集は全体が冒険になっているが女性の力というのもある」

抑圧された位置で『ペンがなかった人たち』だった女性が、ペンで男性中心の世界をひっくり返した。ジェンダーギャップが最も少ないのは文学の分野だーーと池澤さんはおっしゃいました。
そのような思いもある。
「いい気持ちです」と締めくくられました。

🌟『日本文学全集』について

続いて『日本文学全集』のほうへ。
さきに、約9年前の自分のしょぼくれた話を出しましたが、こちらはまた少し異なる色合いがあったそうです。

「始まりは『世界~』以上にためらいました。どこも出しているものだし」

原典を通読していないからダメだと伝えていたそうです。
それが変わったのは2011年の東日本大震災でした。それは『世界~』の最後の巻の頃のことで、池澤さんは被災した現地に行って半年ぐらいそれを新聞に書いていたりしたそうです。

「(被災地を)歩いていて、『なんでこんな目に遭うんだろう』と泣きましたよ。原発事故もあったし。何でこんな国に住んでいるのだろう。自然災害がこんなに辛い国はないです。でも、自然が与えてくれるものも多い。日の光、雨、稲、島国で攻め込まれにくい。それは運がよかった」

そのようなことを考え、全部ひっくるめて日本人とはどんな人たちなのか。この日本のことをよく知らないと、これまで避けてきた道に引き戻されたそうです。そこで『日本文学全集』の方にシフトしたのです。

「古典の現代語訳はたくさんあるが、今の時代の人に頼みたい。じゃもう一度、誰がよいかと考えて、文学をやっている人、今の作家・詩人と決めました。それでリストを作って、西鶴なら島田雅彦とか、そんな風に決めていった」

上の書影はその巻です。
人選のなかで、長い『源氏物語』は誰に頼もうかと考えて、角田光代さんに白羽の矢を立てたのですが、今いちばん忙しい作家さんなので受けてもらえるのかと思ったそうです。でも受けてくれた。その作業の間他の仕事をせずにやってくれたので、「他の編集者には恨まれた」そうです。

「現代の作家は選びたい放題でした。吉田健一、丸谷才一、中村真一郎をやりながら今後のいくつかの方針もできてしまった」

そのような大仕事が何年も続いて、『日本文学全集』も無事に全巻が刊行されました。

🌟古典を作品に生かす

池澤さんは『日本文学全集』の中で『古事記』の現代語訳をされています。
「陣頭指揮を取っているのに何もしないわけにはいかない。『古事記』はセンテンス自体は短くて、心理描写などはない。ことを決めるのも早い、気持ちのいい世界です。そして、これを応用しないのはもったいないとムズムズしはじめた」

それがこちらの『ワカタケル』(日本経済新聞出版)です。

ワカタケル=雄略天皇は、今の歴史につながる制度のできかたなどファクトで固めやすい、長編ができると考えたそうです。考古学で分かっている部分もある。それらの断片を組み立てて命を吹き込んでいったそうです。
「難しいのは女性の扱いでした。女性はまじない、占い、霊的な力を持つ存在だった」と当時の女性の持つ役割についても語られました。作品にもそれが織り込まれています。

🌟移動する人

お話も終盤になりました。
プルーストさんやジョイスさんなどの紹介に代表されるモダニズム文学の手法の影響についてーーなどのやり取りのあと、「移動」のお話がありました。
池澤さんは定期的に住まいを移動されています。ギリシア、沖縄、フランス、北海道、長野。
「地理的なもの、土地への関心が非常に強い。『この辺は家賃いくらですか』と聞き始めたら怪しいです。多文化への関心です。北海道は入植者が多く歴史としては若い、道が広く空間があって(ふわりとした)軽さがあるけれど、ワカタケルで訪れた奈良は密度が濃くてちょっと息苦しい。沖縄にも数年暮らしたけれど、一通り分かったとき、次へ、となる」

聞き手・ナビゲーターの湯川豊さん、尾崎真理子さんからは「推し本」の紹介がありました。湯川さんからは新聞連載をしていた『また会う日まで』、尾崎さんからは『花を運ぶ妹』が挙げられました。
『また会う日まで』(朝日新聞出版)

『花を運ぶ妹』(集英社)

「何を書いても大体活字にしてもらえる。それならば書きたいことを書こうと。歴史ならば、まず日本の地理を書かなければということで、全体で見ようとしたし、発信しコミットしてきました」と池澤さん。来月には短編や以前の長編を圧縮したものをまとめた本が出るそうです。難民がテーマとのこと。
……ここでメモが地名ばかりに……シリア、ウクライナ、ガザ、南スーダン……を挙げられました。
タイトルは、『ノイエ・ハイマート』(新しい家)です。
近日刊行の
『ノイエ・ハイマート』(新潮社)

「希望のサンプルです」

と池澤さんはたいへん強く印象に残る言葉で締めくくられました。

✏️感想

えーと、メモから起こす自体が感想ではだめでしょうか(泣きが入る)。

帰路、『大佛次郎記念館』にも寄ってきました。

それはさておき、縦横無尽でたいへん興味深いお話でした。このイベントのテーマでもある『文学・どこへゆくのか』にも十分合致するものだとも感じました。行動やお仕事、存在自体がそうなのかもしれません。
その意味で、会場にいる最年長が私ぐらいならばいいと思いましたが、私より若い人はあまり多くないように見受けられました。
読書は個人的なものですので、わざわざ話を聞きに行こうとは思わないのかもしれませんが、「書きたい」とか「書いてみたい」という方には特に大きな学びがあるものです。少なくとも私にはたいへん貴重な機会でした。

文学全集についてはーー1冊しか買っていない身で言うのも何ですがーー注目していましたので想定外で編集秘話が聞けて嬉しかったです。
あとは、日本から世界を見るまなざしです。20世紀の海外文学ばかり読み耽っていた方が『古事記』の現代語訳をするに至る。そこからまた世界に視線を投げかけている。そのダイナミックな(ダイナミックです)道筋を伺えたこともたいへん光栄でした。

メモがミミズの行進で🙏💦💦採録できない部分もかなりあったので、お詫びします。いつかもっとうまくできるようにがんばります。

パワーを分けていただいたと感じます。貴重なお話をありがとうございました。

ここまで来て、思い浮かんだのはこの曲でした。
Bob Dylan『With God On Our Side』

神はわれらとともにある、という言葉に疑問符をつけている曲です。それが合言葉となって利用されてしまうならば……今はそんなものを吹っ飛ばしてもやってしまうように感じていますが。
「それならば、次の戦争を止めてくれよ」と締めくくるところに打たれます。
今の戦争も止めてほしいです。

なぜこの曲が思い浮かんだのかよくわかりませんが、コンテンポラリーなのかもしれません。

それではブログとしてはそこそこ長文、お読み下さってありがとうございます。

尾方佐羽

追伸 手が腱鞘炎ぎみです。

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