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【無料公開】EUデジタル市場法によってのAppleのポリシー変更の解説 Daily Memo - 1/30/2024

今日のDaily MemoはAppleのEUデジタル市場法によってのポリシー変更を解説します。こちらはOff Topic Clubメンバーシップ向けに平日に投稿している「Daily Memo」ではありますが、少し長文で画像やSNS投稿を表示する必要があったため記事として書かせていただいてます。気になる方は是非Off Topic Clubに参加してみてください!

2024年3月7日から適応されるEUのデジタル市場法に合わせてAppleは先日複数のポリシー変更を行った。デフォルトのウェブブラウザーの選択画面を表示したり、第三者のソーシャルログインでAppleアカウントでのサインインを必須にしなくしたり、アプリストアのエコノミクスを変更した。まずは細かいところからの話をして、最後に最も話題になっているアプリストアでの変更について解説します。

ちなみに全ての変更点はiPhoneのiOSのみが対象となる。AppleはEUはiOSがデジタル市場法に該当すると思っているため、iPadのiPadOSは違うプラットフォームで対象外と認識している。そのため、iPad上では第三者のアプリストアや第三者の決済サービスは使えなく、同時にiPad上でSafariを開いてもデフォルトブラウザーのオプションを提示しない。以下の変更点のうちクラウドゲームサービスのルール変更だけが基本的にiPadに対象となる。


デフォルトブラウザーの選択画面

まずはEUのiPhoneユーザーはiOS 17.4のアップデートを完了した後にSafariを開くとデフォルトのウェブブラウザーを選択できる画面が表示される。そこでは各国で人気の12個のブラウザーサービスがランダムな順番で各ユーザーに表示される。例えばドイツだとSafari、Chrome、DuckDuckGo、You.com、Brave、Aloha、Firefox、Edge、Ecosia、Onion Browser、Web@Work、Operaが表示される。

Apple

Off Topicの過去のポッドキャストでも話したことがあるが、ロシアでデフォルト検索エンジンを選べる選択画面が必須になった際にGoogle検索エンジンのシェアが落ちてロシアの検索エンジンと同じぐらいになった。12個を選ぶと恐らくより知られている名前の方を選ぶ人が多い気がするので、恐らくChromeが最も優位的なポジションにあるはず。次の1年間でどこまでEU圏内でのブラウザーシェアが変動するのかは気になる。

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NFCチップへのアクセス

さらに変更点としてあるのはiPhone内でのNFCチップを外部サービスへアクセスをオープンにすること。今まではiPhone内のNFC決済機能はApple PayとApple Walletのみしか使えなかったが、EUはそれに対して過去4年間調査を行なっていた。今回のデジタル市場法に合わせて初めて他社のバンキング・ウォレット系のアプリがApple Pay・Walletと直接競争することが出来る。

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クラウドゲームサービスの提供

過去のOff Topicポッドキャストでも解説したことがあるが、Appleは今まで一つのアプリでゲームカタログを提供するクラウドゲームサービスを禁止にしていた。今まではXbox Cloud Gaming、Nvidia GeForce Now、NetflixなどはiOS Safariのウェブブラウザー経由でしかサービスを提供できなかったのが、ネイティブアプリを出すことが可能になった。他の変更と違って、これは唯一グローバルに適応されるルール変更。

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第三者ログインサービス

そしてGoogle、Facebook、𝕏、LinkedInなど第三者のログインサービスを活用するiPhoneアプリは今までAppleのログインサービスも入れないといけなかったが、その必須条件を外した。ただ、その代わりに「特定のプライバシー機能が含まれたログインサービス」は必須になっている。そのプライバシー機能とはユーザーの名前とメールアドレスのデータ収集を制限して、アプリを利用するときにトラッキングしないログインサービスが条件。これは何を意味しているかというと、AppleはAppleのログインサービスを必須にしていないと言いながら、ほぼ必須にしている。開発者にオプションを提示しているように見せながら、実はAppleのサービスをそのまま利用するのがベストなオプションという戦略は今回話題になっているアプリストアのエコノミクスの変更でも同じ現象が起きている。

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アプリストアのポリシー変更

Appleのアプリストアのルール変更は複雑だが、大きく分けると2つのオプションが存在する。

・オプション①:デジタル市場法前のルールでAppleのアプリストアのみを利用
・オプション②:新EUのルールにオプトインする

この二つの違いはかなり重要。一旦全てのアプリはオプション①の方に入っているが、オプション②を選べるようになる。ただ、オプション②を選ぶとオプション①には戻れない。そのため、オプション②を受け入れるかは重要な判断となる。後にも説明するが、特に無料アプリに関しては躊躇するポイントはいくつかある。Appleからするとアプリ開発者に二つのオプションを提示することによってEUのデジタル市場法に従っていると考えているはず。選択肢を与えることで、オプション①で残るアプリ開発者は自らAppleに縛られることを選んでいると主張できる。

もう一つ重要なポイントは、Apple含めて未だに誰もこのルール変更がデジタル市場法に従えているのかは分からない。今回の規制は多少なりやることを定義してはいるが、同時に各企業がどのように条件を満たすかを考えるように指示している。そのため、サービス変更を行った後にしかその企業がその規制に基づいているか判断ができない。これは正直かなり微妙なルールで、恐らくこれから大きくなってデジタル市場法に該当するようなサービスが一番悪影響を受けて、大手テック企業は恐らく自社のポジションをある程度キープできそうな気がする。

オプション①:デジタル市場法前のルールでAppleのアプリストアのみを利用

これは基本的に今までのアプリストアのルールと同じになる。今まで通り、オプション①を選べば全てのアプリはAppleのアプリストアからしか提供できないので、第三者のアプリストアや外部からアプリをダウンロードさせることが出来ない。その代わり、オプション②で出てくる手数料は支払わなくてよく、今までと同じようにAppleのアプリストア決済システムを活用するため、アプリ内課金では初年度は30%、後に15%の手数料をAppleに支払うことになる。

Appleとしては恐らくオプション①に誘導させるために、オプション①を非常にシンプルにしていて、オプション②を複雑にさせた。

オプション②:新EUのルールにオプトインする

新EUルールにオプトインした場合、アプリ開発者はAppleのアプリストアでアプリを提供しながら、第三者のアプリマーケットプレイスなどでアプリを提供することが出来る。もちろん全ての第三者のアプリマーケットプレイスはAppleが承認しないといけないので、どこまでフェアなプロセスなのかは懸念されてもおかしくない。ただ、初めてAppleが第三者のアプリストアを許すことは大きなことではある。

最も変わるのがエコノミクスの部分。Appleはオプション②を提供するにあたり、手数料を切り分けた。Appleはアプリストア、アプリ内決済システム、iOSプラットフォームの3つの軸でサービスを提供しているが、その3つを今までバンドル化して30%の手数料をとっていた。そのため30%の手数料が高いと多くのユーザーが批判していた。実際に私も過去のポッドキャストでAppleのアプリストアは手数料をとっても良いかもしれないが、過去のようにディスカバリーのバリュー提供をしていないので30%が適切ではないと言ったことがある。ただ、Appleの30%手数料は複数のサービスがバンドル化されていて、今回のデジタル市場法ではiOSプラットフォームとアプリストアのマネタイズを切り分けるように要求しているため、初めてAppleがどのように各サービスを評価しているのかが分かる。

3つのサービスを以下のようなマネタイズでAppleは考えている:
・Appleのアプリストア:初年度は17%の手数料の価値、後に10%(これは今までのAppleの30%/15%手数料と同じ仕組み)
・アプリ内決済:3%(これはStripeなど外部決済サービスと似た額)
・Core Technology Fee:EU内で100万ダウンロードを超えたアプリは1インストールあたり€0.50の手数料

この3つのサービスを組み合わせると、4つのアプリ提供方法がある。

  1. Appleのアプリストア (17%/10%) + Appleのアプリ内決済システム (3%) + Core Technology Fee

  2. Appleのアプリストア (17%/10%) + 第三者のアプリ内決済システム (?) + Core Technology Fee

  3. 外部リンクを通して決済・サブスク (17%/10%) + Core Technology Fee

  4. 第三者のアプリストア (?) + 第三者のアプリ内決済システム (?) + Core Technology Fee

Core Technology Fee (以下:CTF)を除けば、最も手数料を小さくする方法としては4番目のアプリ提供方法を選び、自社でアプリストアで提供するのが適切かもしれない。そしてもちろん全てのアプリ提供方法を選ぶことも出来る。

オプション②は一見良さそうに見える。Appleのアプリストアとアプリ内決済システムを利用しても今までの30%ではなく、20%の手数料となる。ただ、これはCTFのコストを除いていて、そのCTFが最も批判されている手数料。

Core Technology Fee (CTF)とは

先ほど記載したように、Appleはデジタル市場法によりアプリストアとiOSのプラットフォームのマネタイズをアンバンドル化しないといけなかった。そのためAppleは自社のアプリストアは17%の手数料の価値があると判断し、アプリ内決済システムは3%の価値があると判断。実際にAppleはアプリストアを提供しているので手数料を取るのはフェアであって(17%がフェアかどうかは議論が必要)、アプリ内決済システムも3%と他社の決済システムの価格と似ている。このCTFとはiOSプラットフォーム自体の手数料となる。Appleからすると、第三者のアプリストアを活用して第三者の決済サービスを使われると全くマネタイズが出来なくなる。それはフェアではないとEpic Games vs Appleの裁判で裁判長も語っていて、Appleは何かしらの手数料を取る権利はある。iPhoneというプラットフォームを提供しているのは価値として多くの開発者は感じているので、Appleからすると新EUルールにオプトインする場合はiOSの手数料としてCTFを設けた。このCTFはSpotifyやEpic Gamesなど複数のアプリ開発者が批判している。

1ダウンロードあたりに€0.50(約80円)の手数料はかなり手強いコストとなる。例えば$10Mのアプリ内売上があり、1年間で1,000万ダウンロードを達成した場合、CTFだけで€5M支払わないといけない。さらにアプリストアの手数料や決済手数料を合わせると、大体Appleは6割ぐらいの手数料を取ることになる。

Apple Fee Calculator

MetaやGoogleなどが対象になれば何百億円と毎年払っても良いかもしれないが、ほとんどのアプリ開発者はMetaやGoogleほどの良い利益率の事業を抱えていない。特に無料でアプリを提供している開発者からすると、アプリがバイラル化するだけで破産してしまうリスクが出てくるのは非常に怖いこと。

CTFの真の目的

そう考えると、CTFの真の目的はAppleとして重要と認識しているアプリを出来るだけオプション①にキープさせることなのかもしれない。そもそも今のアプリストアのうち多くの売上を出しているのはゲームアプリだが、多くのゲームアプリは無料アプリ。無料アプリは多くのユーザーをリーチしないといけないことを考えると、恐らくCTFを支払うこととなる。ただマネタイズがギャランティーされてない中で手数料を支払うのを嫌がる開発者は多いはずなので、恐らくオプション①に残るゲーム開発者がほとんどのはず。そして大手テック企業の多くも無料アプリを出している。TikTok、Snapchat、Pinterest、Instagram、Facebook、WhatsAppなどは無料アプリがあるこそ大きな事業を実現できているので、そこで急に1ユーザーあたりのコストを80円上げることは躊躇するはず。しかもそのユーザーがダウンロードして全くその後にアプリを利用しなくてもそのユーザーの分のCTFを払わないといけない。

AppleとしてはCTFを支払わないためにはオプション①の今まで通りのAppleエコシステムに従うことを要求している。Apple側の見解としてはそもそもEUのアプリの1%しかCTFを支払わなく、該当したとしても小さい手数料でしかないと考えている。

最後に

個人的にAppleのポリシー変更で最も興味深かったのは、どのようにアプリエコシステムをアンバンドル化して、どのようにAppleが各部分を評価するのか。Appleが選んだビジネスモデルや手法に関しては適切ではないと思う一方、自分の中でも良い解決案はない気がする。ただ言えるのは、今回のAppleのルール変更はAppleの責任だけではなく、それを実現させたEUのデジタル市場法の責任でもあると思っている。直近のOff Topicポッドキャストでも説明した通り、多くの規制は既存サービスをより守るようなものになりがち。今回のルール変更によってAppleはレピュテーションを少し下げたかもしれないが、iPhoneが人気であれば基本的に開発者はiOSアプリを開発し続けるはず。このルール変更で悪影響を受けるのは恐らくエンドユーザー。

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