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「ユーザー保護」の背後にある、広告事業におけるAppleの青写真【Off Topic Ep153】

アメリカを中心に最新テクノロジーやスタートアップビジネス情報を広く深堀りしながら紹介するポッドキャスト「Off Topic」。このnoteでは、番組のエピソードからピックアップしたトピックをお届けする。

今回は「#153 Appleの次のThe Next Big Thingsは何か?パート3」から、Appleの「ATT(App Tracking Transparency)」の背後にある、自社広告ネットワークの拡大について。ユーザーのプライバシーの保護と同時に、それをうまく活用したプロダクトと強引ともいえるビジネス戦略から、Appleの「プライバシーのナラティブ」を考えていく。

次に台頭する広告プレイヤーは?

Appleのサービス事業の売り上げの多くをApp Storeのゲームアプリが占めるなかで、Appleは自社サービスのマネタイズ方法を他の領域にも広げていく必要がある。そのひとつは広告領域で、Appleが自社の広告ネットワークを持つことが鍵になる。

現在の広告業界の市場は、アメリカ全体で約4000億ドル(約53兆円)といわれているなかで、Amazon、Google、YouTube、Facebook、Uberなどでもわかるように、インターネット上の様々なサービスがアドネットワーク化する傾向にある。アテンションが集まる場所は広告を出す場所になるということである。

Eric Seufert Twitter

現在、デジタル広告の領域ではGoogleとMetaが市場のおよそ半数を占めている。しかし、2014年以降はじめて50%を下回り(48.4%=Google:28.8%+メタ:19.6%)、ピーク時の2017年(54%)と比べて徐々にシェアが落ちている傾向にある。3位のAmazonの広告売上は2021年に310億ドルを記録。全世界の新聞業界の広告売上、Netflix全体の売上とほぼ同等であり、2024年には全体のシェアの12.7%に達するとされている。GooglとMetaのシェアが落ち、次に台頭する広告プレイヤーを考えたとき、大きなポテンシャルをもつのがAppleである。

Axios

Appleの広告事業は2010年ごろからスタートした。当時、モバイル広告ネットワーク「iAd」をローンチしたが結果は振るわず、2016年にシャットダウンしたという過去もあるが、広告領域への試みは継続してなされている。同年、App Store内の広告をアメリカでスタートし、App Storeの検索結果で表示される広告を1枠販売。その後は広告枠数の拡大ではなくグローバル向けに横展開。2018年には13カ国、2019年には59カ国に拡大した。かなり慎重な広告事業の拡大を行っていたが、結果的に当時VCから強いバックアップを受けていたUber、Lyftなどのスタートアップからの出稿が重なり、2019年には広告売上が約10億ドル(約1300億円)に達した。近年では、2021年に1つ、2022年に2つ広告枠を追加している。

MacRumors

Appleがつくる「プライバシーのナラティブ」

Appleが徐々に広告領域を拡大するなかで、今後どのような戦略を立てていくのか。それを考えるにあたっては、まずAppleにおける「プライバシーのナラティブ」を紐解かなければならない。2014年、Apple CEOのティム・クックは、オープンレターのなかで「(Metaなどの)広告ドリブンなサービスにおいては、プロダクトではもはやサービスではなくユーザーである」と指摘した。つまり、ユーザー(のプライバシー)が利用されていると厳しく批判したのである。その後、Appleは2019年ごろからユーザーのプライバシー保護の重要性を前面に出しながら、“プライバシーそのものをプロダクトとして捉えている”ことを強調しはじめる。

実際のところ、Appleは本当にプライバシーを重要視しているのかという点については、それなりに説得力のある姿勢をAppleはみせている。アメリカで銃乱射事件が発生した際、容疑者が所有するiPhoneのロック解除の要請をAppleは拒否したとされているし、警察やアメリカ政府向けにバックドアをiPhoneに実装する要請も断ったとされている。2022年末には写真やノート、メモアプリ、iCloudのバックアップなどをすべて暗号化し、警察から令状があったとしても、そもそもAppleがアクセスできない仕組みを採用している。

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