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お店がダメになっていく時の気配

店舗のデザイナーという仕事柄、競合店舗の調査やミステリーショッパーと呼ばれる覆面調査員のような仕事をする事がある。

このミステリーショッパーというのは、経営者サイドに頼まれてお店がちゃんとやっているかを抜き打ちテストしにいく役なのだが、何度もやっているうちに頼まれていなくてもそういう目線でお店を見るようになってしまった。

純粋にお客さんの立場として楽しめなくなってしまったのは損といえば損なのだけれど、職業病なので仕方ない。

そんな訳で、いつも調査員の目線で買い物をしていると「あ、このお店ヤバい方向に進んでいるな。。。」と気づく事がある。

先日も、ずっと贔屓にしていた都内のあるパン屋さんでその雰囲気を感じた。

この、ダメになりかけているお店にある独特の雰囲気の話を妻としていたら、一度ちゃんとまとめて言語化しておくように指導されたので整理しておく。


お店がダメになるときには影がある

抽象的な表現になってしまうのだが、ダメになりつつあるお店には影がある。

これは、照明が古ぼけて切れているのに交換されていないという現実的な影から、レジが混んでいるのに店員同士が奥で喋っているなどの雰囲気としての暗いイメージの影でもある。

でも、多くの場合、この影の出てくる時には共通点があるように思う。

それは、お店がお客さんとの幸せな場所ではなくなり、一つの歯車的な店舗システムになろうとした時だ。


ダメになっていくお店の特徴

今回、僕がずっと好きだったお店にその影を感じて大変悲しい。願わくばこの言葉がどこかから届いて、劇的な改善がされればとは思う。けど、多分無理だろう。

鳴り物入りで本場フランスの有名パン職人を招いて展開されたそのベーカリーは、いつのまにかライセンス契約が切れたのか店名が変わっていた。思えば、あの頃からなんか嫌な予感はしていた。

それでも、看板メニューやお気に入りだった商品たちはほとんど味も見た目も変わらずに販売されていた。ライセンス的にはどうなんだこれは?という疑問はあったが、会った事もないフランスのパン職人への敬意よりも、美味しくて手頃な価格のパンを食べられる嬉しさが勝っていたので気にせず買い続けた。

ところが、だ。

先日、打ち合わせの帰りに寄った時、お気に入りのあのお店にもついに暗い影を感じてしまった。

・いつもは最前列に出されている定番の売筋商品が店内奥側にある

・最前列の棚は空っぽ、売る気を感じない

・全体的に商品の前出しがされておらず、お客さんがとった箇所が穴だらけ

・レジと工房はシフトが別なのだろうが、レジが混んでいても工房スタッフは見えるところで腕を組んで談笑している

・3台あるレジのうち1台しかあけず、4人くらいお客さんが並んでいる

おそらく、その日は社員がいないか休憩中だったんだろう。スタッフの統率はとれておらずチグハグ、全体的に仕事へのプライドよりもこなしている感が前面に出ていた。

でも、接客は波もあるし、疲れる時だってある。スタッフだって人間だから、勤務中ずっと笑顔はしんどいだろう。それに、たまたま前出しを忘れたタイミングにかぶったのかもしれない。

そう思って、翌朝にスチームオーブンで温めなおして朝食でパンを食べた。

あ、これはヤバい。

明らかに焼き加減にもムラがあるし、クロワッサンはバターの練り込み方がだいぶ雑な感じだ。層になってる箇所と、うまくバターとパン生地がミルフィーユ状にならずベタついた箇所がある。

ブリオッシュはパサついていて、お口で溶けずに水分を持っていかれる感じ。小麦粉の味は今までと変わらないので、全体的に素材や原材料ではなく製造技術が落ちた感じ。

なんというか、今まで100回くらいは食べてきた中でもダントツにビリな味だった。期待していたいつもの味わいには程遠く、朝から悲しくなった。

サービスも製造も両方質が下がっている。あの時感じた影のような雰囲気は、お店の病気みたいなもの。あのお店も、病気にかかってしまったのかもしれない。


客に味はわかんねぇよ!なんてことはない

こんな話をしていると、飲食業の人から「お客さんでも味のわかってない人もいる!」と言われたりする。

それはその通りかもしれない。味のわからない人もいるだろう。

でも、味のわかる人もいる。

リピーターとなって毎日とは言わずとも週に数回食べ続ければ、作り手の調子の良し悪しやムラは伝わってくる。

特にパンは発酵と焼成のコントロールという微細な変化で結果の変わる職人芸だ。その日の温度や水の量、発酵時間の少しの差でも結果に影響が出る。(もちろん自分の体調でも味の感じ方に影響が出る)

毎回100点は絶対に無理だろうから、きっとあの時だけ調子が悪かったんだと思いたい。でも、あの日感じたうっすらとした影のような雰囲気が、あのままお店を包んで腐敗させていってしまうような嫌な予感がしてならない。

発酵と腐敗は紙一重であり、それはお店でも同じだ。

いい方向に作用すれば独特の味わいを生み出すが、悪い方向に左右すれば腐敗臭をばら撒き店は潰れる。サービスや製造品質に限らず、ほんのちょっとずつの妥協の積み重ねが、積み重なって影になるのかもしれない。

願わくば、お気に入りのあのお店がいい方向に持ち直し、わがやの幸せな朝食の時間を続けさせてくれる事を願っている。

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ヤマシタ マサトシ
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