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いつかのごちそうさま

果物はなんでも幸せな気持ちにさせてくれるけど、この季節の白桃は特に幸せを満たしてくれる。

優しい色味と生毛、柔らかさと瑞々しさ。
赤ちゃんの頬のようだといつも思う。

剥いてからのその一瞬を大切にしないと直ぐに美しい白は失われるから、時間ごといただく初夏の贅沢。


この季節になると母はいつもそんなことを口にしていた。

白桃が大好きだった母は娘に桃花という名前をつけ、
いつも嬉しそうに「もも、もも…」と呼んでいた。

そんな母の想いを感じてか、自分は白桃を食べるのが好きだった。
美味しそうに白桃を食べる自分を見ている母が嬉しそうで、
小さいながらにふりをしていたのだが、
いつしか本当に好きになっていた。

幼い娘の頬を触ると、
その柔かさと瑞々しさが指先に伝わる。
だが、その頬は一瞬で失われることはなく、
日々少しずつ赤みを増して、優しい色になっていく。

今はまだ白桃は食べられない。
だが、きっといつか白桃を口にし、
美味しそうに「ごちそうさま」をする日がくるだろう。
かつての自分と同じように。

桃花は剥いたばかりの白桃を眺め、
その永遠ともいえる一瞬を感じながら、
白桃を頬張るのであった。


ハナウタカジツさんの企画「#いつかのごちそうさま」を読み、娘の顔を見ていたら、いろいろと想像が膨らんでいったので書いてみた。
#いつかのごちそうさま


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