見出し画像

オープンイノベーションの本質

冒頭の写真は、私が講演などでオープンイノベーション、大企業とスタートアップのコラボレーションの話をする際によく使わせていただいている画像です。サバンナのドキュメンタリー番組などでたびたび見かけると思いますが、サイの背中に小鳥が乗った微笑ましい風景ですよね。私はこの構図が、オープンイノベーションの本質を非常に分かりやすい形で体現していると思っています。相互補助こそが、オープンイノベーションを理解する上で最も重要なコンセプトだと考えるからです。

サイの背中に乗っている小鳥は、ウシツツキという面白い名前の鳥です。水牛やキリン、サイにカバといった大型哺乳類の皮膚をつつく所から付いた、だいぶド直球な名前ですね。このウシツツキ、もちろんキツツキのように動物の背中に穴を開けて巣を作るわけではありません。彼らはサイにとって実にありがたい存在で、背中の皮膚に付いたダニやハエの幼虫といった寄生虫を食べて、皮膚病になることを防いでくれるのです。サイもそのことを理解していて、背中にとまったウシツツキを追い払うことはありません(皮膚が分厚すぎて感じてないだけかもしれませんが…)。

このようにサイにとってはとてもありがたいウシツツキですが、何もサイだけが得をしている訳ではありません。サバンナのような弱肉強食の世界においては、小さな鳥はより大型の猛禽類や肉食獣にとって格好の餌になります。しかし、ライオンですら襲うのを躊躇するサイやカバといった大型哺乳類の背中にいれば、安心して食事に集中することができます。

つまり、ウシツツキはダニや寄生虫を取り払うことでサイを皮膚病から守り、サイは自らの巨体と威圧感によって安心して食事できる環境をウシツツキに提供するという、見事な相互補助の関係が構築されているのです。そしてこの相互補助というのが、オープンイノベーションを語る上で欠かすことができない、極めて重要なコンセプトなのです。

オープンイノベーションの概念はだいぶ浸透してきていると感じますが、まだまだ完全に理解が進んだとは言えないのが現状です。そして、特に日本において大きな問題なのが、この相互補助という観点を欠いたまま、ただ闇雲にスタートアップとの外部連携を形だけ実行しようとする大企業が多くいることです。オープンイノベーションは、新規事業開発の外注では決してありません。必要なのは、お金だけ渡して結果を待つような関係ではなく、大企業ならではの資本力や社会的信頼、流通網といった自社の強みをスタートアップに活用してもらうこと。そして、スタートアップが、スピードや技術力、実行力といった強みを発揮できる総合的な環境を提供することです。

一方でスタートアップ側にも、お金はあるけど最先端技術や業界トレンドが見えていない大企業の担当者から予算をふんだくることしか考えていない連中をたまに見かけます。それでは、サイの皮膚にたかる寄生虫と同じです。これもオープンイノベーションの発展を妨げている要因の一つだと思うのですが、日本のスタートアップには大企業を蔑視する傾向が少なからずある気がします(その原因についての議論はここでは控えます)。繰り返しますが、オープンイノベーションにおいては相互補助が原則であり、大企業だけでなくスタートアップの側もこの点を認識する必要があります。何も分かっていないスーツ集団からどうやって事業資金をせしめるかといった歪んだ発想ではなく、自分たちの技術をどう活用すれば大企業の課題を解決できるのか、真剣に向き合うことが大切です。

オープンイノベーションの取り組みを成功させるためには、大企業とスタートアップそれぞれが、お互いをパートナーとして認識し、尊重し合うことが不可欠です。それぞれが、自身の強みを活かすことで相手を助けること、どちらかが一方的に援助をするのではなく、あくまで対等な関係であることを意識しなければ、適切な相互補助の仕組みを作ることはできません。

その上で、大企業はただお金を出すのではなく、自身のリソースを使ってスタートアップが力を発揮できるような環境を構築する。スタートアップは、与えられた環境をうまく活用して、大企業が自ら解決することが難しい課題にスピーディーかつ真剣に向き合う。そのような意識を持って取り組むことが、オープンイノベーションを成功させる第一歩ではないかと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?