オダ 暁

年齢性別不詳 物書き バー経営の経験 動物愛護活動家

オダ 暁

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最近の記事

恋人よ 百年後の恋人に捧ぐ

恋人よ 蒼ざめた言葉でささやいておくれ 心ならずも生を受け 二人が出会ってしまった運命(さだめ)を 甦った双手(もろて)で抱きしめておくれ 明日のまた向こうの わたしが 時の外に誘(いざな)われる日まで 今宵 銀河に漕ぎだそう 漆黒にひび割れたあの日を葬りに 砕けちった心のかけらをさがしに そして 永遠(とわ)に あなたと愛しあうために 恋人よ あなたは わたしの羅針盤なのです

    • レクイエム(鎮魂歌)

      レクイエム(鎮魂歌) 彼や彼女 貴方や君が 居なくなる この空白の 索漠とした気持ち なんで穴埋め出来よう 生ある何かを愛したり つらつらモノを書いたり 代償行為をしながら 今日も何とか生きている

      • ミッドナイトブルース

        ミッドナイトブルース 青春の1ページ ほろ苦い半自叙伝  うだるような熱帯夜。  クーラーはおろか扇風機もない、あたしの部屋はまるで蒸し風呂だ。じめついた熱気が好きだから、汗を流すことが快感だから、という理由で、あたしは冷房器具を部屋には置かない。寝つけなく、深夜ふいに起き上がりベッドから抜け出すのが、最近では日課みたいになっている。  あたしが眠れないのは暑さのせい?それとも悪夢を見たから?  いつもいつも同じ夢だ。再現フィルムのように同じ場面を繰り返す。あの燃えたぎっ

        • 夏の足音 第二話

          第二話  蝉の声が鳴り止まない、八月の終わりだった。ひと月程の帰省から戻った僕はあいかわらず単調な毎日を過ごし、その日もバイトをすませてから<弁天湯>へ出かけた。朝からじめじめと蒸し暑く、Tシャツの背中や脇の下が汗ではりついている。アパートを出て商店街を通り、あと少しで銭湯という所でふいに足が止まった。古い民家が軒をつらねる路地の先から、白いワンピース姿の少女が軽やかな足取りでこちらにやってくる。デニム地の布袋を肩から下げ、清楚で、どこか凛とした印象の娘だ。  あの少女だ、た

        恋人よ 百年後の恋人に捧ぐ

          夏の足音 第一話

          夏の足音 第一話  東京の下町にある、その銭湯は、夕暮れ時になると急に込み合う。夕飯前のひと風呂浴びようと、会社帰りのサラリーマンや子供を連れた家族、あるいは僕のような大学生でたちまち浴場はいっぱいになる。  僕が住む六畳一間の安アパートから銭湯まで、近道をして徒歩で約五分。鉄線がはられた線路沿いを歩き小さな踏み切りをひとつくぐると、昔ながらの狭い商店街に出る。乾物屋や駄菓子屋、さまざまな日用品を取り揃えている雑貨店、店先に古いポスターを貼ってある薬局などが立ち並び、銭湯<弁

          夏の足音 第一話

          レジェンド・オブ・スノウ 寓話編 第二話

          第二話  深夜だった。ふいに異様な雰囲気を感じテグリウスは寝床から飛び起きた。近くでパチパチと妙な音がして、どことなく空気がきな臭い。帆を張り簡易的に天井代わりにした寝場所は、薄闇にすっぽり囲まれており最初は視界がきかなかった。 「皆、起きろ」  彼は大声を張り上げた。すぐに目が慣れ、微かな月明かりを頼りに船上から辺りをぐるりと見渡した。信じがたい光景に思わず息が止まる。浜に乗り付けた船の先端に火の手が上がっているのだ。横並びに停泊した船も同様のありさまだった。何とい

          レジェンド・オブ・スノウ 寓話編 第二話

          レジェンド・オブ・スノウ 寓話編 第一話

          第一話  何百年も昔のことである。  氷と雪に閉ざされた北の国から、楽園を求めて出発した幾隻かの船があった。  一行の長は、比類なき勇者と誉れ高い、美青年テグリウスだった。彼は荒々しく無骨な気性の大男だったが、褐色の髪はつややかに波打ち、伏し目がちの濃い瞳と蜂蜜色をした肌はエキゾチックな魅力を彼に与えていた。 「南西に進路を取れ」  それが彼らの故郷を出発して以来の合い言葉だった。  生まれ育った極限の地は、太陽の恩恵の乏しい氷雪の世界で、その広大な凍土からは豊かな作

          レジェンド・オブ・スノウ 寓話編 第一話

          天気雨

          『人間とかく先入観や初対面のイメージにとらわれがちな生き物である。この主人公もある女の昔マニュキアを塗った爪に強烈な印象を受けたが時を経てただの幻想に風化していた。人の生き様はお天気のように移ろいやすいが、雨降りでも天気雨は晴れ間を予感できて私は好きです。』  夜ふけから降り始めた雨は、朝になっても止む気配はなかった。トタンの屋根板を打つ雨音は、ますます激しくなっている。  啓子はそわそわと落ち着かず、家の中をうろついていたかと思えば物思いにふけったりしていた。そろそろ更

          地獄耳

          ここは、とあるアパートの一室。 川村美里が自宅を出て初めて一人暮らしをするお城だ。 三階建ての木造ワンルームの一階の真ん中、バストイレに猫の額程のガス台と流し台がくっついている。 扉を開けると、すぐに靴箱と狭い玄関。 横開きの硝子戸を開けると、古い小型冷蔵庫やベッドに二人用テーブル、そして二つカラーボックスを置いたワンルームに続く。それらは全て友人からの頂き物だ。アパートの部屋も友人が借りていた部屋。彼女は美里の勤める工場の仕事仲間で社内恋愛、いや工場内恋愛だ

          冷めたコーヒー 第五話

          第五話  その頃、まさか階上で夫が女と密会しているとも知らず、優子はコーヒーを飲み干したまま、じっとしていた。ショックが大きすぎて動く気力が起きないのだ。喫茶室は結婚式の招待客らしい団体で騒がしい。ひどく耳障りだった。  夫が離婚するといったのが本気だとしたら、いったいどうしよう。今さら一人暮らしをして自活なんて嫌だ。田舎の実家に帰るのは近所の手前それこそ恥ずかしい。大好きなコーヒータイムも当分おあずけかもしれない・・・どうあっても離婚はするものか、私は良く考えたらそこまで悪

          冷めたコーヒー 第五話

          冷めたコーヒー 第四話

          第四話  その頃、夫は少し離れたホテルの7階の客室にいた。彼はひとりではなかった。 「ねえ、うまくいったでしょう」  シャワーを浴びてバスタオルを巻いた彼の背後から、やはり同じ姿の女の白い両腕がからみつく。どこか崩れた雰囲気のある、華やかな若い女だった。打ちあわせどおり、女だけ先にチェックインさせておいて後で落ち合ったのだった。 「まったくだ。思ったとおり、あいつは隠れてこそこそやるから話がうまく進んだよ。もしも手紙の件をうちあけられたら困ってたよ」 「悪い男だわねえ、奥さん

          冷めたコーヒー 第四話

          冷めたコーヒー 第三話

          第三話  二人は顔を見合わせた。優子は金縛りにあったように動けずにいたが、彼の鋭い、何もかも察していそうな目に、事態をようやく理解した。  そうだったのか・・・手紙の差出人は夫だったのだ。でも、どうしてこんなことを・・・  うながされるまま、よろよろと歩き、彼女は夫につづいてテーブル席に腰をおろした。天井まで一面に張り出している透明のガラスは、窓というより壁そのもので、そこからシャワーのごとく強い陽射しが降り注いでいる。 「やっぱり来たのか・・」最初に口を開いたのは夫だった。

          冷めたコーヒー 第三話

          冷めたコーヒー 第二話

          第二話  玄関先に立ち尽くし、彼女は何度も文面を読み返していた。差出人はいったい誰なのだろうか?少女のように胸をときめかせながら、一方で怪しい嫌な予感がして、彼女は冷静さを取り戻した。かかわってはいけない、何といっても自分は人妻なのだから。そう心に言い聞かせ踵を返した。とその時、優子は庭の片隅にある紫陽花に目を奪われた。淡い紫やピンクの花びらがうっとりする程美しい。毎年咲いていただろうに、しばし、今さらのごとく感動していた。  それから土曜日までの三日間、優子の心は落ち着かな

          冷めたコーヒー 第二話

          冷めたコーヒー 第一話

          冷めたコーヒー 第一話  その手紙が優子に届いたのは、雨あがりの清々しい朝だった。一雨ごとに暖かくなる、春から夏への、落ち着きのない中途半端な季節。  夫を仕事に送り出し、家事を一通り済ませたあとは、コーヒーを飲んでゆっくり過ごすのが彼女の日常だった。 インスタントではなく豆を挽き、じっくり手間をかけたコーヒーを、香ばしい独特の匂いにつつまれて味わう。それは優子にとって、ささやかな贅沢ともいえる一時だった。  差出人のない彼女宛の手紙は、そんな平穏な朝に、まるで不意打ちのよう

          冷めたコーヒー 第一話

          サバイバルゲーム 第四話

           とつぜん目の前でバトルが勃発した。真っ暗で様子は見えないが、おばさんが俊郎とエミめがけてモップを降りおろしたのだ。バシッバシッと打ちつける音が炸裂し、その度に「やめてくれえ」「ごめんなさ~い」と二人は悲痛な声で懇願する。奈美子はあわてて制止しようとした。 「や、やめてください」だが、おばさんは狂ったようにひたすら打ち続ける。 たまりたまったうっぷんが一気に爆発したのかもしれない。おばさんの耳には誰の声も聞こえてはいなかった。このままでは殺傷事件になりかねない、奈美子はこの非

          サバイバルゲーム 第四話

          サバイバルゲーム 第三話

           どのくらい時間がたったのか・・とりとめもない奇妙な夢を見ていたら、すぐ近くで女のかん高い声がした。夢か現実かわからない。目を開けると真っ暗で何も見えない。美奈子は束の間、自分がどこにいるのかわからなかった。 「いやよ、バケツになんて私できない」感情的に叫んでいるのはエミさんだった。 「そんなこと言ってられないでしょう、あなたの彼氏も私もしたんだから大丈夫。がまんしないで早くしなさい」おだやかな口調で説得しているのは、掃除のおばさんだ。いったい、なんの話をしているのだろう。

          サバイバルゲーム 第三話