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MIDAS Curves

MIDAS は、Paul Levine が1995年に公開したとトレーディングシステムである。「Market Interpretation/Data Analysis System」の頭文字から「MIDAS」と命名された。むろんこれは古代ギリシャのMidas王にかけている。

オウィディウスが「変身譚」に書き残した故事によると、プリュギアの王ミダスは、ディオニューソス神に願いを1つ叶えて遣わすと言われて、触れるものすべてが純金に変じるという力を手に入れる。“Effice, quicquid / corpore contigero, fulvum vertatur in aurum.” しかし、喜んだのも束の間、触れるものすべてが黄金に変わっては飲食もままならず、ディオニューソス神に懇願してこの能力を取り去ってもらうという逸話である。余談ながら、「王様の耳はロバの耳」に登場する王もこのミダスである。

ちなみに、私なら触れるものはなんでもではなく「テクモクマヤコン、金にな~れ」と言ったときだけ金になる力を願うだろう。

余談ついでに、私がはじめて渡米したとき、町に「Midas Touch」という自動車修理工場があった。板金塗装工にしては教養があると余計な関心をしたことを思い出す。

Sed ad rem. 本題に戻る。

1990年代というと、Benoît B. Mandelbrotの研究が金融業界に取り入れられ、「カオス理論」「フラクタル幾何学」「非線形物理学」などの新発見を相場分析やテクニカル分析に応用する方法がしきりと研究された時代だ。Paul Levineはその第一人者であった。Bill Williamsもまたその先駆者であったことは先刻ご承知のとおりだ。言うまでもなくBill Williamsが開発したシステムはレビヤタンシステムの根底を成している。

興味深いことに、Paul LevineもBill Williamsもトレーダーである前に物理学の博士号を持っている。両者はまたトレード心理学にも深い関心を寄せた。Bill Williamsの場合は、「ゾーン」の著者Michael Douglasに受け継がれるようなトレーダーのメンタル管理における心理学であったが、Paul Levineは、市場参加者の心理がチャート上にどのように現れるかに関心を示した。

Paul Levineが開発したMIDAS CurvesとTop Bottom Finderは、当時一部の投資家・トレーダーに熱狂的に支持されたが、Paul Levineの死後サイトは閉鎖されソフトの更新も終了し、Windows XP以降では動作しなくなった。

2012年になって、MIDASの根強い支持者であるAndrew ColesとDavid G. Hawkinsが「MIDAS Technical Analysis: A VWAP Approach to Trading and Investing in Today's Markets」と題する本を著した。これによってMIDASが再び世に知られるようになった。私もこの本でMIDASを知ったひとりである。

端的に言うと、MIDASはVWAP手法である。VWAPは市場のオープンから始まり市場のクローズで終わる。Paul Levineはこれには何の意味もないと言う。VWAPは市場参加者の心理が反映されている箇所を起点に算出すべきである、と。具体的には、トレンドの転換点となった価格の終値あるいは際立った高値や安値を起点とする。そうすることで、将来において抵抗や支持となる価格帯を特定しようとしたのである。Paul Levineは、MIDASは将来の値動きを予測するためのツールだと言っている。

当時は任意の価格からVWAPを描画するインジケーターはなかった。それを可能にするために開発されたのがMIDASであった。厳密には内部計算式は同一ではない。Levine自身の検証と経験による計算式が使われている。

現在は、好きな起点からVWAPを描画するインジケーターがある。Anchored VWAPと通常呼ばれている。実はこれはMIDASのパクリなのである。

MIDAS(そしてAnchored VWAP)の用途は、これから先価格が止まるまたは反転するところを予測することにある。これが従来からある通常のVWAPの用途と本質的に異なる点と言えよう。

Trading Viewには、MIDAS関連のインジケーターがいくつかある。以下が最も使いやすいかと思われる。

4つの異なる期間の高値と安値から合計8本のVWAPを描画する。4つの期間はデフォルトで17、 72、 305、1292に設定されているが、これは変更することが可能だ。


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