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薄羽蜉蝣の記憶

血小板の夕餡が融解して
試験管に浸る糖は、致死量を超えて夜を忌避する。
心のシャッターに幽かに刻まれる爪痕
掻き毟るような死への欲動は、
浴槽に投げ込まれた造花が魅せる快楽と夢
呼吸を審判する水の中には
錆びることのないナイフが揺らいで__
彼方の警告音
泡沫に眠る雲に簪させば
不穏なる空はそっと刃先を奔らせる
不協和音の交響曲と鴉の断末魔
悲劇は足音もなく……
あまりにも澄んだ化学式を伴って、此処に。
いつか、「解放されてしまった理科室」
切り裂かれた季節は血を抑えることなく――
暴かれた色彩とうな垂れた刹那
沈黙に浸されたメスが
柔らかな放課後を選び取るから
白い肌と冷たい火焔 打擲されし暁の茜
奇数だけが鮮やかに炎上する数列に
静脈血に染まった綿雲はいつかの空を彩る
――薄羽蜉蝣纏わりついて
わたしは零れ落ちた血と紫の記憶を、
少しばかり思いだした。

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